studio Odyssey




毎日が、エッセイ?

『桜坂』(2000/4/9)

 僕の家の近くには「桜坂」という場所がある。

 桜坂は、文字通り、桜の咲く坂であった。あった。過去形。今は、そうじゃない。

 今は国道が通ってしまって、その周りも宅地造成されてしまって、桜坂はわずかに数本の桜しかなくってしまった。

 小さい頃、桜坂は本当に桜の綺麗な坂で、よく、その坂を登って公民館の方まで歩いていったものだった。最後にその坂をのぼって行ったのはいつだったか…

 たしか、雨の夜に、なんとなく…登っていったのが最後だったような気がする。
 本当は、なんとなく、なんかじゃなくて、若すぎた僕の、恋とは呼べないような短編ドラマの最後のシーンにそれはあったのだけれど。
 その人とのドラマは、今思えば僕がまだ幼すぎて、若すぎて、世界をちゃんと見ることが出来ないでいたせいの、一方的な、相手を傷つけてしまっただけのものだったけれど、今でもあの時のことをその坂に思い出す。

 桜坂の、その数本だけになった桜の、咲き誇こる桜の、その向こうに。
 登り切った坂の上から見える、この街の景色に。
 一緒に見た、夜景の向こうに。

 来週には、きっと桜も散り始めてしまうことだと思う。
 季節のうつろいの中に、消えてなくってしまうことだと思う。

 今は、そこもほとんど通らない道だけれど、出来ることなら、また、

 あの桜の咲く道を歩いてみたいと思う。

 雨の中、歩いた記憶の次に、出来ることなら、桜のように綺麗な想い出を作れるように。