studio Odyssey


第四話




「あ!一也君、ちょっとちょっと…」
「なんですかシゲさん?」
「これ、今月号のホBジャパン。見た?」
「なんです、それ?」
「えっ!知らないの?大人のプラモデル情報誌、ホBジャパン(注*1)」
「はぁ…」
「そうか、なってないぞ一也君。んでこれ、今月号のトップ記事。見て見て見て!」
「あ、R‐0じゃないですか。しかもこれ、プラモデルですか?」
「正確にはガレージキットって奴だな。それからそれから、この折り込み…」
「わあっ!これ、ジオラマって奴ですか。『R‐0対エネミー。横浜決戦』ですって!」
「凄いだろ。今や、R‐0はみんなのヒーローだぜ。プラモデル化もされるらしいしな」
「へぇー、すごいですねぇ…」
「それから、これ。一也君のフィギュアも出るらしいよ」
「ええっ!僕ですか!?なんで僕なんか…」
「一也君、パイロットじゃない。みんなのアイドルだぜ」
「あいどる…僕が…ですか…?」








 第四話 彼女の名は遙。

       1

「ああもう!どうしてこんなに物があるのよ」
「明美さん。切れない切れない」
「ほとんど教授とシゲ君の物じゃないの。このがらくた!」
「が、ガラクタはないでしょ!このキット。いくらしたと思ってるんですか!」
「ゴミよ、ゴミゴミ!」
「ああ、そんな酷い!」
「お引っ越しって大変ですねぇ…」
 他人事のように──他人事ではない──いつもぼうっとしている吉田 香奈が、段ボールの山の中で呟いた。
 ここは厚木市某所にあるT大学構内。人類最初の戦闘用巨大ロボット、R‐0を制作した科学者たちが日夜研究を続けていた、思いでの(?)『脳神経機械工学研究室』である。
 だが、「ここはもう手狭だし、交通の便も悪いしね」と、今日、お引っ越しとなったわけである。
「荷物、とりあえずあの書類だけで出しちゃいますよ」
 と、先ほどのぼうっとした吉田 香奈の弟、R‐0のパイロット、吉田 一也が研究室のドアからひょこっと顔を出して聞く。
「しかし、何なんです?あのトラック一台分にもなる書類の山は」
 一也はふぅとため息を吐き出した。「男の子だから」という理由で、助教授西田 明美に、いいように使われてしまっているのである。
「アレこそゴミじゃないですか!」
 と、先ほど明美助教授と言い合っていたR‐0のハードウェア設計者、院生中野 茂、通称シゲがやり返した。
「あれをゴミだなんていうなんて、シゲ君もやきが回ったわね」
 は、と顔をしかめて見せる明美助教授。
「だから、あれって何なんですか」
 と、一也。明美助教授は指を立てて、
「R‐0のシステムプログラムよ。あれ、全部」
 と笑った。
「システムプログラム!?あんなに…」
「全部で七系統、二万以上の命令語からなるわ」
「だから大量にあって邪魔。あんなん、マイクロフィルムにすりゃいいのに」
「シーゲくーん。じゃぁお金ちょうだーい♪」
「あるわけないでしょ」
「じゃ、文句言わない」
「くっ…」
 お引っ越しの先は、東京国際空港の片隅である。いまはもう使われなくなったジャンボジェット機の格納庫を、R‐0のハンガー用に改造し、そこに新しく研究室兼、特務機関『Nec(ネック)』の事務所を作ったのだ。(注*2)
「あっちに移動して、大学の授業はどうするつもりなのかな。教授」
 と、シゲがいらぬ心配をする。もともと、大した授業などやっていないのだ。レポートさえ出せば平田教授の授業の単位は取れると、学生たちの間では人気だが。
「香奈ちゃん。下宿はどうするの?移動するの?」
 明美助教授の言葉に頷いて、
「そうですね。授業の単位は、あと一個取ればいいだけですし、週一回しかこっちに来ないんじゃお部屋が傷みますから、移動しようかな…」
 首を傾げる香奈。その脇で弟、一也が漏らす。
「お姉ちゃん。どうして単位が一つだけ足りないの?もしかして…」
「あ、一也。これ持ってってくれる?お姉ちゃんには重くって」
「お姉ちゃん…」
 単位の計算は学生の基本である。
「教授はこの忙しいのに何処行ってんだ?」
 シゲは口をつんと尖らせて自分の荷物──そのほとんどがプラモデルだ──を几帳面に箱に詰めていった。


「いえ。そんなことはありませんよ。みんな、張り切って働いてます。──え?私?いやぁ、私はもう歳ですからね。力仕事は、若者に任せてますよ」
 学生ホールの緑の電話の前で、平田教授は他人事のように笑った。
 電話の向こうの男は、軽く笑って言う。
「そうそう『Nec』の予算案、通ったよ。東京国際空港のハンガーの件も、クライアントに指示しておいた。しばらくの間は工事がつづくが、完成すれば、かなり使いやすくなるだろう」
「そりゃ、どうもすみませんねぇ」
「ま、ずいぶんとまた金を使ったがね」
「巨大ロボットには金がかかる。そう言う物です」
「そうだな」
 電話の相手は、教授の新しい『お友達』──日本の首相、村上 俊平総理である。
 Necの黒幕──聞こえは悪いが、総理自らがそう言っているのだから仕方ない──村上総理は、電話の向こうで一つ咳払いをした。
 ん?
 と、教授はその咳払いに視線を宙に泳がせる。
「総理、面白そうな話ですか?」
「まぁ…な」
 先読みをしたな。と思いながら、総理は考えていたもう一つの計画を、彼に話してみることにした。──どうなるかは、その時のことだ。
「R‐0だが、現在の長距離移動方法は、パーツを分解してヘリなどで運ぶという方法しかないわけだな?」
「そうですね。それしかありません」
「すぐとなりが空港なのに、いちいちパーツを分解しないと運べない輸送方法はどうかとも思うのだが…」
「時間もかかりますしね」
「…うむ」
「飛行輸送…ですか?」
「うむ。どうかね?」
 教授はしばし、考え込むように学生ホールの天井の隅を見つめていた。別に何か考えていたわけではないが、そこに間を置いておきたかったのである。
「どうかね?」
 電話の向こうの総理は、教授の答えを確信していた。だから、ある意味では彼に聞くこともなかったのだが、まぁ一応──だ。
「わかりました」
 教授は軽く頷くと、
「では、こちらでR‐0に適した飛行輸送機の設計図を作りましょう」
「任せる」
「で──パイロットの方は?」
 そう聞きながら、教授は笑った。総理の返す答えは、はなからわかっていたのである。
「こちらで用意する」
「総理の推薦なら、間違いないでしょう」
 それは幼い頃に同じ巨大ロボット番組を見て燃えた仲である。
 つまるところ、二人ともよっくわかっているのである。
 『お約束』と言われる展開について。


「R‐0の輸送飛行機計画?」
「しーっ!」
「しーっ…て」
 R‐0のバードウェア設計者、吉田 茂は、ダンボール箱を「よいしょ」と持ち直して言った。
「春休みの大学に、誰がいるって言うんですか」
「壁に耳あり障子に目あり」
「はぁ…」
「で、その機体の設計だが…」
 ダンボール箱を抱えたシゲの背後に回り込みながら、教授が探るように漏らす。シゲも声のトーンを低くして、
「わかりました。例の、『E』タイプを使いましょう。あれならば、問題ありません」
 と、にやりとふたり、笑いあう。
「う…」
 遠巻きにそれを見てしまった一也は、段ボール箱を抱えたまま、立ちつくしていた。
「嫌な予感がする…」
 神ならぬ一也の予感であるが、それは的中することになる。


 春。
 陽気はぽかぽかとしてきて、思わず眠たくもなる。とは言っても、ここ、東京国際空港の片隅、R‐0のハンガーでは眠ることもままならない。
 何しろうるさい。
 工事中なのだ。R‐0を納めるのに適したハンガーにするために。
 夜を徹して行われている拡張工事は、超突貫。近隣住民から苦情が来ようがお構いなし。すべては教授に言わせれば──「正義のため」
 無論、それだけでもない。
 ここは空港の隣なのだから、爆音も十分にうるさいのだ。
 工事が終わりゃあ、ここも防音設備が整って、少しは静かになるのかね。と、R‐0の整備班長、植木こと、おやっさんは頭の中で考えながら、ただっ広いハンガーの整備スペースを見回した。
 ここにヒコーキが収まるらしいが…どんなバケモノ飛行機になるんだか…それに、パイロットも一体どんな奴が乗るんだか。
 ため息混じりに、おやっさんは帽子をかぶりなおした。


 春。
 そう、それは出会いの季節。新しい仲間と、新しい恋。──とは言っても、こんな所にいい人なんているのかしら。
 と、思わず口を尖らせる。
 何しろうるさいんだもん。
 ひょいと頭上を見上げると、青い空へジャンボジェット機が爆音と共に舞い上がっていく。壮観とも言える光景だけれど、やっぱりうるさいってのが先に立つ。
 しかし…と、視線を戻すと──何の工事をしてるのかしら?こんなぼろっちぃ所。
 本当に大丈夫かしら。
 と、彼女は小型のトランクを持ち直した。


「あのー、すみませーん!」
 と、ハンガーの入り口でした声に、おやっさんが眼鏡をかけ直して振り向く。
 そこに立っていたのは、小さな皮のトランクをもった少女であった。いや、少女と感じたのはおやっさんの歳からすればであり、本当のところは十七、八と言ったところだろう。
「なんでぇ、嬢ちゃん。ここは関係者以外は立入禁止なんだよ。表の看板、見てなかったのかい?」
「はい、見ました」
 と、事も無げ。
「んじゃ、入ってきちゃダメじゃねーか。ほれほれ、怪我しねーうちに出ていきな。ここは今、とり込んでんだ」
 ちなみに、植木は独り者ではない。もう結婚してしまった娘が一人いる。よくできた娘だった。もう結婚して、三年近くになるか…それなりにいい男と巡り逢えて、幸せな家庭を持って──年寄りの思いで話は長くなるからやめよう。
「あ、あれがR‐0ですか?」
 この場所──資材搬入路からだと、R‐0の横顔が見える。その少女は、R‐0の横顔を見て、楽しそうに笑って言った。
「ああ…あれがそうだ──って。嬢ちゃん。駄目だって、出ていきなよ。ここは関係者以外は立入禁止なんだよ。俺だってね、怒ったときは怖いよ」
「あ、すみません」
 彼女はぺこりとお辞儀をして、
「私、吉田 一也君に用があるんです」
 と言って、再び微笑んだ。


「僕に会いに来た人?誰だろ…」
 一也は読んでいたマンガを閉じると、「とりあえず片づいている」という程度の作戦本部室──それはいい言い方で、要するに連中の溜まり場──のドアから顔を覗かせていた整備員の一人に向かって聞いた。
「どんな人です?」
「女の子だよ。歳は…十七、八かな」
 その言葉に耳を大きくして、明美助教授。
「彼女だ」
 意味深ににやりと笑って、暴走を始める。
「いい子ねぇ。突然京都の町から消えてしまった恋人を捜して、遠路はるばる一人旅。唯一わかっていることは、どうやら彼は巨大ロボットのパイロットになってしまったらしいと言うことだけ…」
「って、言うか明美さん。巨大ロボットのパイロットって、現在この世の中には一也君一人しかいないんですけど…」
「シゲ君。あまり細かいことにはこだわらない」
 睨まれて、
「はい」
 マンガに視線を戻すシゲ。
「彼女なんていませんよ」
「一也君、怒っちゃいや」
「怒ってませんよ。でも、誰だろう…」
 一也がぽりぽりと頭を掻きながら出ていくのを見て、
「一也」
 姉、香奈が椅子から立ち上がって言った。
「彼女なら、お姉ちゃんにもちゃんと紹介しなさい」
「だから、違うって」


「あの子」
 と、指し示された先。ハンガーの入り口の所に立っている女の子。
 見たことない。
「はぁ…」
 と、一也は小走りにその女の子の所へと駆け寄った。後ろから、無数の視線を感じる。R‐0の整備スタッフ、二十数人の人間の興味と、疑惑の視線に違いない。
「あのう…何でしょうか?」
 一也が声をかけると、彼女は少し驚いたように目を丸くした。
「あなたが吉田 一也君?」
「はい。あの…どちら様です?」
 声も、聞いたことない。記憶の糸をたぐっても…わからない。
「げんめつー…」
「は?」
「巨大ロボットのパイロットって言うから、どんな人かと思ってたら…やっぱりたいしたことなかったのねぇ」
 なっ…何だこいつ!たいしたことなくて、悪かったな!!
「あの、どちら様です?僕に用って、何ですか」
「あ、ごめーん。怒っちゃった?」
 と、猫なで声で一也に向かって手をあわせる彼女。
「い…いえ…」
 声で得してる子である。まあ、顔もそれなりにだが、可愛いのである。
 一也としても男の子な訳であり、女の子に「えへっ」と微笑まれてしまっては、何とも、
怒る気力もなくなってしまう。
「私、遙。あなたのパートナーになるの。仲良くやりましょ」
「パートナー?」
「そっ、パートナー」
 と、手を差し出す遙。どうしたものかと、一也はぽりぽり頭を掻いた。
「はぁ…でも、急にそんなこと言われても、僕はなんのことだかよく──」
「もーっ!」
 ちょっと頬を膨らませて、無理矢理一也の手を取って遙は一也と握手を交わすと、
「あなたと私は!パートナーになるの。これはもう決まってるの!これから二人で一緒に色々とやっていく事になるんだから、頼むわよ!!」
 と、ハンガー中に響くような大声で言ってしまった。
「おーっ!」
 と、ハンガー中がどよめく。
「聞いた?」
「聞いた」
「一也君も、隅に置けないなぁ…もう、人生のパートナーが決まってるのかよ」
「何をヤるって?」
「え?もうヤっちゃてるの?」
 暴走する若い整備員たち。おやっさんがはぁとため息を吐く。
「ちっ…ちがっ!」
 あわてふためく一也。握られた手をどうしようかと考える余裕もなく、肩越しに振り向いてなにかを言おうとするけれど、結局何も言えない。
 遙はぱちくりと瞬きをして、
「なに?」
 一也の背中の向こうに見える整備員たちを見て、小首を傾げた。


「燃えるねぇ」
「あ、教授。いらしたんですか」
 作戦本部室前の廊下で、階下のハンガーを覗いていたシゲの肩に教授が手を回した。
「『E』タイプ。いつ出来る?」
「多分今週中には…もしかして彼女が乗るんですか!?」
「そう。燃えるだろ」
「はい。いや…え?だって…」
 さすがのシゲも目を丸くする。
「彼女も自分で言ってたでしょ。一也君のパートナーなんだって。やる気十分じゃない」
 教授は嬉しそうに、笑っていた。(注*3)


「──と、言うわけで…」
 会議室──とは名ばかりの、ハンガーの片隅、ホワイトボード前で──教授は彼女をR‐0スタッフのみんなに紹介した。
「彼女が今度このクラスに転校して来た──」
「教授。話が違うところに言ってます」
 明美助教授のツッコミと咳払い。
「おぅ!──ま。そんなわけで、彼女が今度R‐0の専用輸送機に乗ることになった、遙君だ」
「よろしくお願いしまーす」
 と、ホワイトボードの前、教授の脇でぺこりと頭を下げる遙。(注*4)
「教授、R‐0の専用輸送機って何ですか?」
 一也が片手をあげて聞く。
「あれ?話さなかったっけ?」
「…初めて聞きました」
 はぁとため息を吐く一也。ああ…あの時に感じた嫌な予感は、コレだったのか…
 教授はそんな一也の表情を見て、にやりと楽しそうに微笑んで言う。
「一也君。君、このでっかいR‐0をいちいち分解して運ぶのは、面倒くさいと思わないかね?」
「はぁ…」
 でも、別に分解するのは一也の手間ではないのだが──しかし、分解作業をする整備員たちを見ていて、「もっと楽な方法はないのかな」と思っていたのは事実だ。
「──で?」
「そう!そこでR‐0専用輸送機の登場というわけだ。シゲっ!!」
「了解!」
 待ってましたとばかりに、シゲがホワイトボードにA0サイズの設計図を張り付ける。
「これがR‐0専用輸送機、『EVR‐ZERO』。通称イーグルだっ!(注*5)」
 効果音があったなら、どどーん!と言ったところだろう。
 「おおー」と唸る整備員。(注*6)明美助教授は「はぁ」とため息を吐く。
「どうだ一也君。萌え萌えだろう」
 にやりと笑うシゲ。そう言われても、設計図を見ただけでそれがどんなものかわかるほど、一也は機械工学に精通していない。
「はぁ…」
 と、答えるだけで精一杯。
「つまらなそうじゃん…」
 そうは言われても…
「シゲ君、それに教授。そのお金、何処から出たの?」
 ほつりと聞くのは、もちろん明美助教授。研究室の財布は、彼女がそのすべてを握っているのである。
「いやいや、我々の同志がね。ぽーんと景気よく出してくれたのさ」
 ふ、と教授は笑う。
 一也は、大きくため息を吐いた。
「教授、同志って…まさか…」
「ああ、嫌だわ。また税金が上がるのかしら…」
「誰です?」
 そんなことを聞くのは一人しかいない。香奈だ。
「お姉ちゃん…」
 さすがの一也も、姉の言葉にため息。
「香奈ちゃん。教授のお友達、同じロボットマニアで、お金をたくさん持ってる人って言ったら誰を思い浮かべる?」
「えーと…」
 人差し指を顎に当てて、明美助教授の言葉にうーんと唸る香奈。もちろん、香奈もバカではないので、
「あ、総理ですか!」
 最後にはぽんと手を叩いて言うのである。
 そして、それに続く遙。
「私のパパです」
 と、にこり。
「は?」
「え?」
「あ、そうなんですか」
 右から、一也、明美助教授、香奈──説明するまでもない反応ではあった。
「燃える展開だろ」
 教授は一人、満足そうに笑っている。
「村上 遙。一七歳です。よろしくお願いしまーす」
 微笑みながら、遙は再びぺこりと頭を下げた。
 目を丸くしている一也に向かって。


「ねぇ、一也」
「ん?」
 遙は一也の歳が一五だとわかると、突然呼び捨てにしだした。「年下なんだから」と言う単純な理由と、「君をつけるのも面倒だから」という二つの理由からである。どっちも十分単純だが。
 R‐0のコックピットを覗きながら、遙が一也に向かって聞く。
「一也は、どうしてR‐0に乗ってるの?」
「どうしてって…僕は乗ってるんじゃなくて、乗せられてるんだよ」
「んじゃ、乗りたくないんだ」
「いや、別にそんなことはないけど…」
 一也はコックピットのシートに座って、システムの一端を立ち上げて遙に見せていた。彼女が、中を見てみたいと言ったからである。
「これが、BSSのパーソナルプログラムだよ。僕の間脳電流のパターンとかが記録されていて──」
「一也はさ、こういうのに乗って、いろいろと考えたりする?」
「は?」
「たとえば、エネミーって何なのか──とか」
「むー…」
 一也は唸って、補助モニターのプログラムを確認した。よし、システムダウン可…っと。
 それを確認してから、
「考えはするよ。何なのかなーとは」
「悩むまではいかない?」
「別に」
「うーん…本当は、そういうモノなのかなぁ…」
 一也の答えが少し気に入らなかったかのように、遙は口を尖らせた。一也の方としては、何がなのかよくわからない。
「どうしてそんなこと聞くの?」
 と、視線と一緒に聞く。
「んー…うん…」
 遙は腕組みをして唸ったかと思うと、探るような目つきで聞いた。
「一也、エヴァって知ってる?」
「エヴァ?創世記の──(注*7)」
「違う違う!アニメのよ!エヴァンゲリオン。知ってる?」
 ああ、それか。シゲさんがなんか言ってたな。この前の引っ越しの時、プラモ見せてもらったや。
「いや、あんまり詳しくは…」
「ダメよ!ダメ駄目!なってないわ。ちゃんとチェックしなさい!そうよ、LD!LDかしてあげるわ。見なさい。面白いから」
 コックピットの中に顔をつっこんで、一気にまくしたてる遙。一也の方は気後れして、でもこれだけはいっとかなきゃ…と、
「僕、LDプレーヤー持ってないよ」
 申し訳なさそうに呟いた。
「なっ…なによ。それじゃーね…ビデオ!オンタイムで取ったビデオがあるわ。それ貸してあげる。見なさい」
「はぁ…」
 勢いで押し切られた感じに、一也は頷いた。ぱちぱちと、瞬きをして。
 遙の方は、そうやって曖昧に頷く一也のことを見て、
「あんた…ホント性格、その主人公にそっくりだわ。頭の中身は全然違いそうだけど…」
 一也が一度でもエヴァを見てれば、息巻いて反論したであろう台詞を、さらりと言ってのけた。(注*8)


「えっ!?遙ちゃん、エヴァ知ってるの!」
 遙が自分の机の上に置いてあったプラモを見て、「あ、零号機だ」と事も無げに言ったのを聞いて、シゲは目をらんらんと輝かせた。
 まるで子供のように。
「だって、遙ちゃんニューヨークにずっといたんじゃないの?それなのになんで…」
「ニューヨークでも日本のアニメっていうのは結構人気なんですよ。もちろん放映はされてませんから、日本のオンエアをビデオにとって輸送するんですけど…」
「へぇー…」
 遙はシゲの机の上のエヴァンゲリオン零号機、プロトタイプバージョン(色が違って、ちょっと細部が違う)を手にとって、子細に眺めていた。
「よく出来てますねぇ…」
「わかる?パテとかで、ディティールもちょっと変えてあるんだよ」
「へぇー…」
「でもさ、日本のアニメじゃ、日本語なわけでしょ。遙ちゃんは日本語わかるからいいとして…日本語の分からない外人さんはどうするの?」
「英訳を作るんです。それを見ながら、見るんです」
「英訳?そんな風にして見るの!?」
「ええ。向こうじゃ、日本のアニメを英訳してくれる人たちの団体もいるんですよ(注*9)」
「ふぇー…国際化してんだぁ…日本のアニメ…」
 驚いて、シゲは目を丸くした。そうかー、今や日本は、アニメーションでは世界一なのかもしれないなぁ…と、ディズニーが聞いたら激怒するであろう事を、心の中で呟いた。(注*10)
「みなさーん。お茶飲みますかぁ?」
 と、お盆を両手で持ってにこにこ笑っているのは、もちろん香奈。
「あ、あなたも飲むでしょ。お茶。えーと…村上ぃー…」
 香奈。物覚えはあんまりいい方ではない。
「ハルキ!(注*11)」
「遙です…」


「遙はうまくやってるかね?」
「ええ。そりゃあ、もう──」
 電話の向こう、村上 俊平総理としては、自分の可愛い娘を預けているわけなので、心配で心配で仕方がないのである。大体、教授たちの所になど本当は娘をやりたくなかったのだ。たが、娘が、遙がどうしてもと言うので──弱いのである。その辺はパパなのである。
「本当にうまくやってるのかね?」
「ええ。特に一也君とは歳が近いですからねぇ…いまじゃ、一也、遙の仲ですよ」
 と、教授はにやにや。受話器の向こうの村上総理は、
「なっ、なななっ…」
 と、憤慨しそうになったが、
「あ、総理。『E』タイプ。週末にはちゃんと納品されるんですよね」
 教授はうまーく話を変えてしまう。
「あ…ああ。土曜の夜までにはそちらに届く。だが平田君…」
「はい?」
「遙を頼むよ。無茶なことはさせんでくれよ。変な虫をつけんでくれよ」
「ええ。承知してます」
 と、言ったのは教授の二十数枚目の舌だったろうか…大体、巨大ロボットに関係する人物が、無茶しないわけにはいかないのである。
 さて、ハンガーの方に目を向けると、
「よわーい。あんた、バカでしょ」
「ちょっ…ちょっと待って遙。今のなし、もっかい。ここから」
「何度やったって同じだってば」
 と、整備員たちに囲まれて遙と一也がチェスに興じていた。言い出しっぺは遙だが、一也も「うけてたとう」と胸を張って言った手前、ボロクソに負けまくっている訳にはいかないのだが…
「仲良くやってますよ」
 教授は、にやにやと笑って言った。
 ヒーローとヒロインは、こうでなくてはいけない。
 そんな笑いだった。









       2

「そんなわけで──」
「どんなわけです?」
 遙は目を瞬かせて聞いたけれど、教授がなにかを考えていて先の台詞を口走ったわけもなく、軽く、そんな質問は無視されてしまう。
 教授は一人、続ける。
「遙君も、これから我々特務機関『Nec』の一員となり、日夜、悪の宇宙生命体『エネミー』と戦うことになるわけだが、ここでひとつ、君の心構えを確認しておきたい」
「心構え?」
 作戦本部室に呼び出されて、教授の座るぼろっちいスチール机の前に行くと、彼が真摯な声で聞いてきた。腕を組み、上目遣いに送る視線が、いつもとは少しばかり違う。
「こ…心構えって、何ですか?」
 さすがに遙も、ちょっと身を引きながら聞いてみた。ここに来てから、初めて見る教授の表情だったのである。
「うむ…シゲ、準備は?」
 と、シゲにちろりと視線を送る教授。シゲは小さく頷き、
「隣の、制作ルームに…」
 彼も声を落としてぽつりと言う。
「うむ。ではそちらへ行こう。遙君もついてきたまえ。詳しいことは、そこで話す」
「え…あ…はい」
 なんだかよくわからないけど、重要なことらしい。緊張感に、遙の心臓も高鳴りを増した。
 何だろ…心構えとかって言ってたけど…そりゃ…エネミーを倒すっていう重大な使命がNecにあるって言うのはわかるけど…この人たちがそんな深いところまで考えているようには思えないし…
 一週間も経たない内に教授たちの性格を見抜いてしまったあたりは、やはりさすがと言うべきなのだろうか…(注*12)
「遙君、君に心構えとして、ひとつだけ聞いておきたいことがある」
 作戦本部室の隣にある、制作ルームへと続くドアに手をかけて、教授は言う。
「君は──」
「…はい」
 ごくっと、唾を飲む遙。
 教授は少しだけ顎を引き、真剣な表情で、
「君は、お約束を許せるタイプかね?」
「はぁ?」
 遙は教授の言葉に首を傾げた。


 一也は遙を捜していた。
 いないのである。いつもは探さなくても向こうからやってきてからからかうくせに、今日に限って、いないのである。
「どこいっちゃったんだ?あいつ」
 一也の手にはチェス板が握られている。リベンジマッチを挑もうというのである。
「暇なの?」
 と、作戦本部室に立ち寄ったときに明美助教授に言われたが──反論できずに笑うしかなかったりして、
「もしかして、Necって私しか仕事していない組織なんじゃ?(注*13)」
 なんて、明美助教授はため息を吐き出していた。
「シゲさーん?」
 シゲがいるであろう、作戦本部室の隣の制作ルームに入って、一也は唖然とした。
「あ、一也君」
 と、シゲ。腕を組んでモニターを見ながら、実に楽しそうに笑っている。
「何を…しているんですか?」
 なんとなくシゲの見てるのと同じモニターを見て、聞かなくてもわかったけれど、一也は聞いていた。
 制作ルームは、作戦本部室と同じくらいの広さの部屋である。基本的に、シゲの仕事場という位置づけになっている部屋だけれど、製図に使うドラフターは部屋の隅に追いやられ、工作机の上にはエナメル塗料やパテ、エアブラシなど──要するに、シゲがプラモデルを作ったりする部屋ではなく、プラモデルを作る部屋へと全くの様変わりを遂げていた──というわけである。
 そしてその部屋の、奥──
「その…物々しい機械は何ですか?」
 一也は、ゲームセンターに置かれているレーシングゲームの筐体ほどの大きさがある、その機械を指さして聞いた。
「あ。これ?」
 と、シゲは笑いながら返す。
「これは、フライトシュミレーター」
「シゲと、明美君の合作だ」
 腕を組み、モニターを見つめながらシゲに続く教授。
「構想三○秒、制作二日」
「しかも貫徹で」
「フライトシュミレーター…って事は…」
 工作机の端に置かれているモニターを、一也も覗き込みながら言う。
「遙が?」
「うむ。イーグルの操縦のシミュレートをしている」
「ちなみに、あと一機でゲームオーバーだよ。見てく?」
「ちょっ──」
 シゲの言葉に、一也は目を丸くした。
「ゲ…ゲームオーバーって…」
「いや、だから全機死亡ってコト」
 無論、そう言うことを言っているのではない。
「死亡──って?」
 一也が目を丸くして聞き返すと、
「現実なら、本当に死亡って事だな」
 はっはっはっと笑いながら、教授は彼の肩をぽんと軽く叩いたのであった。
「何で笑ってるんですか!だいた──」
 一也の台詞が終わる前に、モニターから響く爆発音。そしてそれに、ちょっと人を小馬鹿にしたようなビープ音が続く。
 冷や汗混じりに一也がモニターに目をやると、『Game Over』と、赤く文字がそこに点滅していた。
 な…なんですと?
「一也君、これで君は三回死んだよ」
「なんでシゲさんまで笑ってるんですか!?」
 他人事だし──とは、喉まででかかったけれどさすがに言わなかった。言えなかった。
「もぅ!何よ人を馬鹿して!!」
 と、フライトシュミレーターの中から文句を言いながら遙が姿を現す。
「だいたい、レバーを動かしてからのタイムラグがありすぎなのよ!全然反応してくれないじゃない!!」
「そう言う問題じゃないだろ!」
 一也が怒鳴ると、
「あら、一也」
 初めて彼の存在に気づいて遙が言う。
「いつ来たの?もしかして──ずっと見てた?」
 なんて言って、「えへ♪」と笑う。
「…見てたよ」
 ため息混じりに一也。
「ああ、ダメだ…やっぱり僕の未来はもう決まっちゃってるんだ…」
 がっくりと肩を落とす。
「大丈夫大丈夫!」
 肩を落とす一也に向かって、遙は笑いながら言った。
「私だって死にたくないもん」
「そう言う問題じゃないだろっ!」
「なによもー。だから、今は機械のサポートなしでの練習だったんだって。ちゃんと機械のサポートがあればね──」
「そうだな。その時は一回しか死ななかったしな」
 と、教授。
 一也、凍る。もちろん一也の命は一個しかないのは、言うまでもない。
「教授っ!!」
「怒るな一也くん」
「そうそう。短気な男は、女の子に嫌われちゃうぞ♪」
 本気になって怒る一也に、遙は楽しそうに笑っていた。


 週末──土曜日。
 イーグル納品の日。
「とうとう来たわね」
 轟音が、ゆっくりと滑走路に着陸する。ついに『EVR‐ZERO』イーグルの到着である。
「きたなぁー、よぅし…」
 親の敵でもきたかのように、おやっさん、植木はぱきぱきと指を鳴らした。おやっさん、もともとは飛行機の整備員なのである。腕が鳴るとはまさにこの事だ。
「嬢ちゃん。初期設定はあんたがやるんだよ。今のシステムはオールクリアして、新しいのに乗せ変えるからね」
「わかってますよ」
 着陸し、ゆっくりとR‐0ハンガーの方に運ばれてくるイーグル。白い流線型の新しい機体が、月光のなかできらりと輝いた。(注*14)
「かっこいい…」
 ぽつりと呟いた遙の言葉を聞いて、満足そうに頷くシゲ。いいだろういいだろう。カッコイイだろう!ふふーん、完璧にオレの趣味に走った、傑作品だからなぁ!
「でっかいわねぇ…」
 明美助教授がたいして面白くない台詞を吐く。そりゃそうだ。全長三八メートルもある巨大ロボットを運ぶんだから、それなりの大きさでなければならない。
「あ、イーグルですか?来たんですね」
 と、帰り支度をした香奈が言う。
「あれ?香奈ちゃん帰るの?イーグルの野次馬、してかないの?」
 明美助教授はあくまで野次馬である。多少システムプログラムをいじることもあるかも知れないが、今回は基本的にそれは遙の仕事なので、野次馬と決め込んでいるのだ。
「どうせなら、見ていけばいいのに」
「本当は、見ていきたいんですけど──」
 香奈は明美助教授に微笑みかけながら言う。
「でも、明日は大学に行って今年の単位の履修届もらってこないといけないんですよ。それに、お部屋も片づけないといけないですし…」
「そっか。引っ越した部屋、片づいた?」
「まだなんとも…一也の荷物も、これから届く分がありますし…」
「ああ、そうか。一緒に住むんだ。大変ねぇ…」
「ええ。でも私はお姉ちゃんですからね。がんばります」
 と、ガッツポーズを作って笑って見せる香奈。一也の前では、あくまでお姉ちゃんでいたいのである。
「ふふ、がんばってね香奈ちゃん。んで、その一也君は?」
「一也なら、ほら、あそこ」
「ん?」
 香奈が指さした先、とことこと歩いていく遙の右手に、一也が半ば強引に引っ張られて歩いている。
「あーあ…仲がいいこと」
「一也もこっちに来て、同い年くらいのお友達がいませんからね。よかったですよ」
「一也君、高校はどうするの?」
「春から、こっちの高校に行くそうです。教授とシゲさんが総理さんと話をして決めたそうです」
 総理さん?と思ったが、明美助教授はあまりつっこまないことにした。つっこんだところで、「え?変ですか?」と言われてしまいそうな気がしたからだ。
「そう。ま、一也君なら大丈夫でしょ」
 と、言って笑った明美助教授の言葉に、
「ええ。だって、私の弟ですもん」
 と、香奈が続いたもんだから、さすがに明美助教授も首を傾げざるをえなかった。
 本当に大丈夫かしら…


「初期設定は自分でやらなきゃ駄目だって」
 無理矢理にひっぱられる手を、だけど強引に振り解こうともせずにぼやく一也。
「ひどーい、私みたいなか弱い女の子が、こんなごっつい機械のシステムをいじれると思ってるわけー?」
「しなを作って喋るなよ。もぅ…」
「ひどぃ一也…私、泣いちゃう…」
「もー…嘘泣きするなよ。シミュレーターで練習してるときに、見飽きたよ」
「なによもぅ!」
 とか何とかやりながら、イーグルのコックピットへと近づいていく二人。コックピットの下に先に来ていたシゲが、
「あ、遙ちゃん。ちょうどよかった。はいこれ」
 と、十センチ近くもある分厚い本を遙に手渡した。
「何ですかこれ?」
 遙は目を丸くして聞く。ずしりと重い本。表紙には、
「イーグルのマニュアル」
 シゲの言葉通りの文字が記されている。
「こんなに!?な…こんなにあるの、全部覚えなきゃいけないんですか?」
「まぁねぇ…『ごっつい機体』だから、しょうがないわけよ」
「あ…聞こえてたんですか…」
「いーえ。全然。でも。ちゃんと!マニュアルは全部読んでね」
 シゲはにっこりと、遙の手の中のマニュアルを叩いて微笑んだ。自信のデザインで、しかもさっきは「かっこいい」と言ってたのが、今じゃ「ごっつい機体」だと言われちゃあ、そりゃあ誰だって怒る。
「シゲさぁあん。こんなに無理ですよぅ。重要な部分だけ、ピックアップしてくださいよぅ。ね?」
 甘えた声で遙が嘆く。うっ…と、シゲはその猫なで声にちょっと許してしまいそうになった。だが…いや、いかん。駄目だ。ここで許してはぁあああぁ…
「わかった…ま。とりあえず今は、必要なトコだけ…」
 あぁぁぁああぁ…オレって…
「…はぁ」
 一也が軽くため息を吐く。
 ダメだ…みんな、遙に騙されて、洗脳されてってる…


「はぁ…」
「ちょっと、何さっきからため息ばっかりしてるのよ」
「んー?ため息だって出るよ。次、Bパネルに移るよ」
「ちょっ…ちょっと待ってよ。えーと…」
 イーグルのコックピットは基本的に一人乗りである。まあスペース的にはかなりゆったりとしているので、ずいぶんな人数が入っても十分な広さではあるが。
 断っておくと、一也はコックピットの中には入っていない。外から、コックピットの中の遙に向かっていろいろと教えているのである。距離的にはすぐそこだけれど、インカム越しに。
「うーんと…これで『Enter』ね。いいよ。次はBパネル?」
「そうだよ」
 と、言いながら一也はため息。
「ちょっと!またため息なわけ?そんなに私に教えるのが嫌なの?一也、やっぱり本当は私がこれで事故ると思ってるんでしょ」
「そうじゃないよ!そうじゃないけどさ…」
「じゃ、なーに?」
 ちょっと拗ねたような猫なで声に、遙は言う。一也は思わずまた吐き出しそうになったため息を堪えて、
「女の子も、こういう物にあこがれたりするんだなぁ…って」
 頭をぽりぽりと掻きながら呟いた。
「なにそれ。それじゃまるで、女の子はロボットに憧れちゃいけないみたいじゃない」
 反論する遙。
「女の子だってねぇ──」
「手がおろそかになってるよ、遙。話しながらでもいいけど、ちゃんとやる」
「わかってるわよ。年下のくせに、大人ぶったこと言わないでよ。大体、シミュレーターの時もそうだけど、一也は目上の人を立てるって言うコトをね──」
「はいはい…わかったから手を動かそ」
「わかってるってば!もぅ…」
 ぴっぴっという電子音が、無言になった二人の間で鳴る。
 その合間に、一也がイーグルのマニュアルをめくる音が紛れ込む。結局、マニュアルを見てるのは遙ではなく一也なのである。
 んー…と。
 コンソールを叩きながら、初期設定を続ける遙。電子音だけで、会話のなくなってしまった二人の間の沈黙に堪えきれず、
「ねえ、一也?」
 ぺらぺらとイーグルのマニュアルを無言でめくっている一也を、ちらりと見やって声をかけた。
「んー…何?」
 と、マニュアルから顔を上げる一也。
「一也は、ロボットが好き?だからR‐0に乗るの?」
 コックピットから顔を出し、遙は聞く。
「んー…」
 曖昧に首を傾げる一也。
「まあ、男の子って、一度はそういうのを夢見る物だと思うよ。ヒーロー願望というわけじゃないだろうけど…ほら、男の子って絶対にちっちゃい頃、何とかレンジャーごっこってするでしょ」
「よくやるわよね」
「それの延長上じゃないかな。教授とか、シゲさんとかがこれを作ったのも、それの延長上だと思うけど」
「ふーん…」
 遙は唸って、
「それが、一也がこれに乗る理由?」
 と、一也の前に自分の顔をつきだした。
 一也の方は少し気後れして、心持ち後ずさる。
「いや…別に理由と言うほどのことでも…」
「はぁ…あんた、ホントーにいまいち燃えない奴ねぇ」
「またエヴァの話なの?僕は見てないし、その主人公と何の関係もないんだから、いいじゃないか」
「つまんなーい。私、巨大ロボットのパイロットする人って、ちょっとは悩んだりするモノだと思ってたのにぃ」
「うっさいなー…僕だって、悩みくらいあるよ」
「あるの!?」
「あるよ」
「なに?」
「どうして教授達なんかと関わっちゃったんだろう──って」
「次元が低い…」
「うっさいなー。Bパネル終わったんなら、次Cパネルいくよ」
「ちょっ…待ってってば!」
 ぴっぴっと、やや途切れ途切れながら、遙がコンソールパネルを叩く度に電子音が鳴る。
はぁ…なんだかんだ言ったって女の子…コンピューター関係には弱いんだなぁ…
「ねえ、遙はどうしてイーグルに乗りたいって思ったの?」
 一也はちょっと気になったことを、聞いてみた。けれど遙の答えは、
「んー?まぁ単純に面白そうだったから」
 あまりにもあっさりとしすぎていた。
「…人のこと言えないじゃないか」
 ぼそりと呟いて、一也は顔をしかめさせる。遙の方はモニターに気を取られていて、全然気がつかなかったようだったけれど。
「まあでも、女の子にもヒロイン願望って言うのはあるってコトかな?」
 と、遙。
「それに、一也だってパートナーはむさ苦しい自衛隊とかの男よりも、私みたいな可愛い現役女子高生の女の子の方がいいでしょ?特別な訓練とか受けたわけじゃないけど…」
「それが無茶苦茶だって…」
 一也はそう呟いたけれど、よく考えてみれば自分だってまともに喧嘩なんかしたこともないのに、R‐0に乗って戦っている。教授に言わせれば、「日本を護るため」に。
 日本を護るため?そうだよ──よく考えてみれば──僕が!?
 それこそ無茶苦茶だ。だけど──
 どうせ、Necの面々は全員、どこかの組織の規格からは外れてるんだ。自分たちの間にだけ通じる規格にさえおさまっていれば、それでいいと思ってるに違いない。
 間違いなく。
 はぁと、一也は大きくため息を吐いた。
「また、ため息を吐くぅー」
 Bパネルの設定を終えた遙が、眉間にしわを寄せて、情けない顔で一也のことを見た。
「もぉー、なんでそうため息ばっかり吐くのぉ?」
 と、猫なで声で言われ、しかもその顔をきゅっと近づけられてしまうと、一也の方も「いけない洗脳されては…」と思いながらも頬が少し赤くなる。
「ねぇ、一也?」
「な…なに…」
「そんなに、私のこと嫌いなの?」
「な…なんで?」
「シミュレーションの時も、私のこといじめるし…本当は、イーグルにも乗って欲しくないみたいだし…ねぇ、どうなの?」
 と、眉を寄せて一也の顔を覗き込む遙。ちょっと泣きそうなその表情に、一也は少しずつ後ずさり…
「え…いや…その…えと…」
「ねぇ?どうなの?一也、やっぱり私のこと…」
 しゅんとして、泣きそうになる遙。
 だっ…ダメだ。意識をしっかり保つんだ。これは遙の演技だ!いけないっ。遙に洗脳されては!!──ってわかってはいるんだけど…っ!!
 ああぁぁ…もぅどうしよぉっ!!
「ねぇーえ?」
 遙の顔が、一也にゆっくりと近づいてくる。
 あぁぁあ!ダメだぁ、洗脳されてはぁぁあ…
 ──と。
 突然、緊急警報が鳴りだした。
「うわわっ!」
 一也がコックピットの脇で驚きに倒れる。
「なに!何が起こったの!?」
 スピーカーから、女性の声がハンガー中に響いた。
『ただいま、防衛庁別室Nec本部より入電中。伊豆諸島南方、鳥島付近にエネミーが降下した模様。総員、第一種戦闘配備。繰り返す…』
 ざわざわと慌ただしく動き出す整備員。一也は、この時初めてお約束的展開に感謝した。


「──むー…」
「何を不景気そうな顔をしているのだ?一也君」
「一つ、質問があります」
「わかるような気がするが、いちおう聞いておこう」
 一也は「わかってるなら、こういう事しなければいいのに…」と思いながら、
「どうしてパイロットスーツが必要なんですか?」
 と、そのパイロットスーツに身を包んで、目の前に立つ教授に向かって聞いてみた。体にぴったりとフィットする、つなぎのボディースーツなのは基本と言ったところだろう。
 ちなみに色は白ベースに青。(注*15)
「一也君もくだらないことを聞くなぁ」
 教授は、さも当たり前のことだろうとでも言わんとばかりに、答えて返す。
「すみません。くだらないですね。教授の答え、わかりますもんね」
 一也は大きくため息を吐き出した。教授の答えなぞ、どうせ「お約束だ」か、「燃えるだろう」のどっちかだ。
「一也、かっこいいじゃない」
 と、香奈。家についたところを電話で呼び戻されたのである。普通ならちょっとは気を悪くしそうなものだが、そこは香奈。「わかりました。急いでいきます。あ、整備員の人の夜食とかって、買っていった方がいいんですか?」と、終電のなくなった東京国際空港まで、自転車でやってきたのである。
「イーグルは何とか動かせそうですね」
 シゲが初期設定報告書をぺらぺらとめくりながら、会議室──無論、名ばかりのホワイトボード前だ──に向かって歩いてきた。
「最終的には、遙ちゃん次第といったところですかね」
「使うよ。せっかくあるんだからな」
「事故ったりって…」
「一也君、教授がそんなこと考えてるわけないじゃない。教授、R‐0、いつでも出られます」
 と、明美助教授がシャーペンの先で頭をこりこり掻きながらやって来る。
 そう、教授がそんなことを考えてるわけがない。カッコイイは、彼の頭のなかではすべての物に優先されるのだから。
「ごめんなさい!お待たせました?」
「おぉおっ!萌え萌え!!」
 シゲが声を荒げて──拳を握りしめて──叫ぶ。その気持ちも、わからないでもない。
 遙が、パイロットスーツに身を包んで現れたのである。
「燃えるねぇ…」
 と、教授。嬉しそうに顎を撫でる。
「最近の一七は…」
 と、苦笑いを浮かべるのは明美助教授。
「遙ちゃん、かっこいい!」
 香奈は、率直な感想以外は持たないのかもしれない…
「ちょっと窮屈かなぁ。でも、やっぱりこれでいいのかしら」
 遙は手を挙げたり、腰を動かしたりしてみて言った。ぴったりと体にフィットしたパイロットスーツが、遙の少し幼いながらも整ったボディラインをくっきりと浮かび上がらせている。(注*16)
「どう一也?」
 と、身体をちょっとねじって一也に見せてみる遙。パイロットスーツ越しにもちゃんとわかる遙のボディラインに、
「ぼっ…僕に聞かれたって!僕がデザインした訳じゃないんだし…」
 ぷいと顔を背ける一也。
「一也君、若いわねぇ…」
 その初々しい反応を見て、明美助教授はふうと軽くため息を吐き出す。ああ、もう私には戻らない青い春の頃の話なのね。──とは言っても、明美助教授はそれほどお歳をめしているわけではない。(注*17)
「もー、ばっちり。そーゆーもんなの。全然オッケィ!もぉー、ちょー萌え萌え!!」
 シゲは錯乱一歩手前だ。言っておくが、シゲはコスプレフェチではない。メカフェチでは、あるかもしれないが…
「ようし…燃えてきたぞ!」
 教授は燃える展開フェチである。
「現在時刻は午前五時八分。二人とも、仮眠はちゃんと取ったね!(注*18)」
「ちょっとだけ…」
「帰ってきてから、ゆっくり寝るわ」
「ようし!エネミーの浦賀水道到着予想時刻は午前六時一○分前後!」
 ホワイトボードに磁石でくっつけた東京湾近郊の地図を、教授はばんと平手で打った。
「R‐0、及びイーグルは出動命令が出次第、これを殲滅に向かう!」
「しつもーん」
「はい、遙君!」
「出動命令って誰が出すんですか?」
「出動要請は君のお父さん!出動命令は…」
 もう、言うまでもあるまい。
「私だ!!と、言うわけで出動!!」


「イーグル、システム正常稼動を確認。メインエンジン、及びサブエンジン、ハードウェアシステム正常」
「レーザーサーチャー発信。R‐0、本体側にて受信確認。ドッキング準備完了」
「ドッキング開始」
「了解、ノーマルシステムでドッキング開始します。一也君、遙ちゃん。ちょっと衝撃があるけど、驚かないでね」
「どれくらいを覚悟しとけば?」
「電車の発進くらい」
「あ、そんなものですか…」
「もっと大きい方がよかったかね?」
「いえ、遠慮します。おおっと!」
「ドッキング完了。双方向回線、開きます。受信を確認」
「さて、では時間もいいようだし…」
「教授…それって…」
「シゲ、先読みをしない。では、R‐0搭載イーグル。発進っ!」
 教授の声に、ハンガーの入り口がゆっくりと開いていく。ここも自動になる予定だが、建築中の現段階ではまだ手動である。整備員達が、えっちらおっちらと額に汗を浮かべて、ゆっくりと開けていた。
 ぱぁっと視界が開けると、遥かな滑走路の向こうから、真っ赤な朝日が顔を覗かせ始めている。
「おおーっ!」
 喚起の声を上げる整備員達。教授の方は、実にご満悦のご様子だ。
 イーグルが白い機体をきらりと輝かせて、少しずつその巨体を滑走路へと進ませていく。
「一也、聞こえる?」
 コックピットの遙は、インカムに向かって嬉しそうに言った。
「聞こえてるよ」
 R‐0のコックピットの一也は、素っ気なく遙の言葉に答えて返す。R‐0が仰向けに寝そべった状態でイーグルにドッキングしているので、一也もコックピットの中で同様に寝そべっている状態になっている。
「さーて…じゃ、いくわよ。しっかり掴まってなさい!」
 遙がコックピット左脇にあるレバーを上げると、ジェットエンジンがけたたましい音をたてて、その加速度を増していった。
「R‐0搭載イーグル、出ますっ♪」
 叫ぶ遙。
 教授は、朝日に向かって加速していくイーグルを、腕組みをして満足げに見送っていた。


 ──六時○五分。浦賀水道上空にて、イーグル、エネミーを確認。
「いたわよ。一也、見えてる?」
「補助モニターでね。頭だけだけど…」
「んじゃ──」
 と、
「さっさとケリを付けましょ。いくわよ」
 遙はいとも簡単に言って笑う。
「ちょっ…いくわよって…」
 ごくん。と、コックピットが遙の言葉に続いて、大きな音とともに揺れた。「まさかねぇ…」と思って一也が補助モニターを見ると、『R‐0 wihtout RESTRAINT』──拘束解除とメッセージが点滅している。
「ちょっと遙!?」
 目を丸くして、インカムに向かって怒鳴る一也。
「拘束解除って──!!」
「大丈夫だってば」
 拘束が解除されても、射出されるまではR‐0はイーグルに固定されている。だが、あとは射出されれば…──つまり、
「まだね♪」
 と言うことなのである。
「遙ぁッ!!」
 一也の声が聞こえているのかいないのか、イーグルのコックピットで遙はにこりと笑い、
「私ね、実は必殺技を考えてたの」
 実に楽しそうに、インカムに向かって言った。
「ちょっと待って遙。シミュレーションできつく言ったことを怒ってるんなら、謝るから。それに、あれは僕だけのことじゃないでしょ。遙だって、シミュレーションをちゃんとできないと困るわけだし──」
「別に、シミュレーションでのコトなんて、私は根に持って、ないわよ」
 にこにこと顔は笑っているのだけれど、その言い方が、すでにそうではない。
「遙、あのさ──」
「一也♪言い訳がましい男は、女の子に嫌われちゃうぞ」
「別に、遙になんか嫌われたっていい…」
「さようなら、一也」
「ちょっ──」
 ぴっと鳴り、一也の鼓膜を揺らす電子音。引く、一也の血の気。
「必殺、R‐0 Free fall attack!!(注*19)」
 楽しそうに叫ぶのは遙。
「止めてくれえぇぇえっ!!」
 R‐0の補助モニターに映し出される射出確認の『FREE』というスペル。ここで、遙の言う「必殺」がR‐0のパイロットでないことを、一応ことわっておく。
 イーグルより、自由落下するR‐0。さらに、慣性の法則通り、R‐0は進行方向にもその巨体を慣性力で飛ばしていく。
 進行方向──R‐0が背中から体当たりするモノは──もちろんエネミー。
 ぶつかり合う二体の巨人。音と共に、何十メートルもの水柱が立ち上る。
「くっそぉ!」
 叫びながら、頭を振る一也。痛かった。今のは痛かった!
「なんで僕が…なんで僕が、こんな目にあわなきゃいけないんだよっ!!」
 どうもここのところ、R‐0は八つ当たりエネルギーで動いているようだ。一也は泡ばかりが映るモニターの中で、ここら辺がエネミーの体だろうと思われる部分にビームライフルを突きつけると、
「くらえっ!」
 ビームライフルのトリガーを──八つ当たりの意味も含めて──思い切り引き絞った。
 閃光が走る──が、それは海中の中で、線状のビーム光ではなく、拡散したビーム光 しか生み出せなかった。
「水中じゃ威力が出ないのか!」
 モニターに向かって、舌打ち混じりに一也は言う。ビームの熱で、辺り一面あわ、アワ、泡。どこに何がいるのか、わかったもんじゃない。
 その中で、エネミーはR‐0の首根っこをむんずとつかむことに成功した。
 がくんとコックピットが揺れる。モニターの向こうに、ぎらりと光るエネミーの魚のような目。
「そこか!」
 見つけたと言うよりは、見つけられたのだが、あまりその辺の事は触れないことにしよう。
 R‐0は左手でエネミーの手をしっかりと握り返すと、右手首からR‐0専用武器『ビームサーベル』を打ち出し、
「なら、これでも──」
 右手でそれをしっかりと握りしめ、軽く振るった。
 桃色のビーム光がその先端から迸り、サーベル状に安定する。(注*20)高エネルギーに、海水が幾千もの泡を生み出す。
「──くらえッ!!」
 そしてそれを、一也はエネミーの巨体に突き刺した。


「なによ!上手くいったんだからいいじゃない!!」
「よくないに決まってるだろ!死ぬかと思ったじゃないか!!」
「なによ!テレビ的にはあの方が格好良かったでしょ。それなのに何よ。あんな悲鳴なんてあげちゃって!」
「ひっ…悲鳴あげたっていいじゃないか!本当に死ぬかと思ったんだから!!」
「あんたねぇ、私が本当にそんな事するよーな娘に、見えるとでも言いたいわけ?」
「見えるから言ってるんだよ!」
「なによ!」
「なんだよ!」
 インカム越しの口論。言うまでもなく、遙と一也だ。
 止めようとするものは何もなく、口論は続く──
「大体、あんたちょっと情けなさすぎるのよ。男の子なのに。あぁーあ、一也君なっさけなぁーい。かっこわるぅーい」
「うるさいなっ。遙みたいな、ガサツな女よりはいいだろ」
「がっ…ガサツですって!上等だわ!!この腰抜け!!」
「こっ…なんだよ!ヒステリー!!」
 全国に放送されているテレビに映っているのは、陸に上がってきてイーグルに回収されるのを待つR‐0と、そこにゆっくりと飛来するイーグル、二体の雄姿であった。
 今日という一日の始まりを告げる朝。その朝に、その光景は実に美しいものと言えた。
 ──が。
 教授たちのインカムに聞こえてきているのは、先のような口げんかの嵐である。
「あーあ、なんであんたみたいな奴がR‐0に乗ってるわけ?もぅ、全然格好良くないしさぁ」
「パートナーだとか言って、後から来たのは遙じゃないか!なに言ってるんだよ」
「でもねぇ…なんかイメージ違うんだもん」
「イメージで人のこと決めるなよ。そんなこと言ったら、遙だってそうじゃないか!普段は猫かぶってるし──」
「なっ…私がいつ猫かぶってたのよ!」
「普段からじゃないか!胸に手を当てて考えて見ろよ!」
「そういうあんただって、人の良さそうな顔してるくせに、本当のところは違うし!」
「やっぱ根に持ってるんじゃないか!」
「持ってないわよ!」


「うーむ…」
 と、教授はスピーカーから響く声に唸り、
「ヒーローとヒロインも、やはり所詮は人の子か…」
 なんて言って呟いて、満足そうに腕を組んだ。


つづく








   次回予告

 (CV 村上 遙と吉田 一也)
遙「ねぇねぇ一也。
一也「ん?
遙「私たちも、この春から新しい高校に行くことになるわけじゃん。
一也「うん。そういうことになるらしいね。都立の高校って話だけど…
遙「ねえ、教授とかシゲさんとかパパとかが、あの学校を選んだ理由って、知ってる?
一也「…あ…わかりそうな気がする…
遙「そうなのよ!あの人たち、フィギュアにするとき一番可愛くできる制服の高校っていうレベルで学校選んだんだって!信じられる!?
一也「あの人たちなら、そんなもんだよ…
遙「まぁねぇ。私も、制服が可愛いに越したことはないと思うんだけどさー。ま、いいわ。
  って、わけで次回『新世機動戦記R‐0』
  『一也君の憂鬱。』
  見ないと絶対後悔するわよ!
一也「タイトルからして憂鬱だなんて…
遙「何よ、もぉー。


[End of File]