studio Odyssey



おはなしのつくりかた

 管理人、しゃちょ流のお話の作り方講座。

ミステリトリックから見る、伏線。

 この辺りまで来ると、実技編と言うことも手伝って、かなり主観的な物が多くなってきています。
 僕の文体、ストーリーなどが好きな人は、何かの足しにはなるかも知れませんが、そうではないよーという方には、もしかしたら時間つぶしにしかならないかも知れませんね。

 とにもかくにも、この「おはなしのつくりかた」は、一作書けるようになる、というのが目的なので、今回は伏線と言うことについて、ちょっと触れたいと思います。
 まぁ、あんまり長いもの書くと書ききれないんで、とりあえず考えておくというだけで、読まなくてもいっかなーみたいな、そんな感じ?

 どんなだよ。


ミステリ

 「犯人は、あなたです」

 なんて言うのが、ミステリものの定番でしょう。
 で、読み手はやっぱりその台詞を目にしたら、「えっ!?なんでなんで!?」とか、「うわっ、やっぱりそうか!読みが当たった!!」などという反応を返す物なのです。

 そして、文は続く。
「あなたが使ったトリックは、この、携帯電話がキーになるのです」

 ここで、「なるほど!そうか!」とか、「えっ!?ケータイなの!?なんで!?」とか、「やっぱりそうかー」という、この手のタイプの、どれかの反応が読者になければいけません。決して、
「ケータイなんて、出てきやしなかったじゃない」
 なんていう反応をもらってはいけません。

 それが伏線。

 伏線というのは、要するに、クライマックスを盛り上げるためにあるものと認識しても、まぁ、問題はないでしょう。
 この伏線を、では、ミステリを中心に考えていくことにしましょう。

フェア、アンフェア

「犯人はこの携帯電話を使い、GPSサービスによって、被害者の位置を知っていたのです」
「ちょっと待ってくれ!何であんたは被害者が携帯電話を持っていたことを知っているんだ!」
「いえ、ポケットから、ストラップが見えていましたから。それに彼女は女子高生です。携帯電話くらい、持っていても当たり前でしょう」


 とは言っても、活字を見ているだけの読者は、被害者のポケットから出ている携帯電話のストラップなんて、見えやしません。女子高生だからって、ケータイを必ず持っているとは限りません。
 つまり、被害者がケータイを持っていたという事実を、読者が知り得ない状況だったとしたら?

 それはもう、
「詐欺だ〜!」
 と、僕なら絶対にそういいますね。

 トリックを説くカギは、絶対にどこかに出しておかなければならない。でないと、やはりアンフェアだと読者は皆言うでしょう。
 じゃ、フェアに被害者がケータイを持っていることをしっかりと書くとして、この適当に書いている例文の主人公が、初めて被害者と会ったときの話。

フェアな問題

 僕が廊下を歩いていると、向こうから彼女が必死な形相で早歩きに迫ってきていた。僕はその彼女と、「走ればいいのに」なんて考えながら、すれ違った。

 すれ違いざま、僕は彼女のポケットから覗くケータイのストラップに目が止まった。それがなぜかは、わからなかったけれど。


 って文がもしも先にあったとしたら?

 この文が先にあったら、「そうかケータイか」となるかも知れません。ですけど、こんな文が先にあったら、「ああ、やっぱりケータイか」という反応の方が、絶対に多くなるでしょう。

 だって、怪しすぎるもの、この文。

 フェアすぎるのも、問題なのです。もしもこの文の最後が、「彼のストラップが、僕のと同じ、B'zのアルバム販促用ストラップだったからだ」となっていれば、まだマシかも知れません。が、これでも、これはあまりにも露骨すぎるでしょう。

 ミステリの場合、読者は心地よく騙されることを求めているのです。
 または、少しばかり自分の推理が当たることを、求めているのです。
 読み終わった後に、「ああ、なるほど〜」と唸ることを求めているのです。

 それが、正々堂々と、「これがトリックです」と書かれてしまっては…何とも、読む気も萎えてしまうでしょう。

 フェア、アンフェア、このぎりぎりのラインを、伏線は通っていなければならない。
 むずかしいですね。

伏線は複線

「あ、ストラップ、同じじゃん?」
 僕は彼女のポケットから覗く、最近出たばかりのロックシンガーのニューアルバムについていた限定ストラップを目に止めて、言った。
「もしか、それ、ファン?」
「えー?あ、マジ?知ってんの?うっそ、マジで〜?」
 彼女はストラップを指に引っかけると、ポケットの中からケータイを取りだした。僕はそれを見て、
「うお!メーカー同じ!」
 大げさに驚きながら、ポケットから自分のケータイを取りだした。
「ホントだ、マジ〜」
「マジ〜。これさ、機能多いけど使いこなせないよな〜」
「だよねー」
「つーか、アドレス帳もがらがらだし〜」
「あー、それって、私に暗に番号教えてって言ってる〜?」
「そんなことないよー」
 と、僕はわざとらしく、言ってみた。
「どーしよっかなー」
 彼女もわざとらしく、渋って見せた。


 たとえばこんな会話を先にしていたとする。

 この会話、これだけピックアップすると結構異色かも知れない。けれど、たとえばこのシーンが合コンのシーンで、主人公がノリでこの彼女に詰め寄っていっているシーンだとしたら?

 それなら、比較的自然なシーンでしょう。そして、最後に、
「犯人はケータイで被害者と連絡を取っていた」

 こんな風に出てくれば、「うおっ、そうか!」という反応も、出てくるようになるかも知れない。

 伏線はあくまで複線と考えるといいかも知れません。ストーリーの本筋とは、全く関係ないんだよーと、思わせて、書くのです。
 で、最後に実はこうだったのだ。と、そこをぐいと引っ張ってくる。

 これが、フェア、アンフェアの、ぎりぎりのラインかも知れない…ま、もちろん、それは書き手のセンスと好みの問題でしょうけどね。

終わりの見えない伏線

「『新世機動戦記R‐0』は、週刊連載で書いてたんだよね」
「うん。毎週毎週、原稿用紙で80ページくらいを、てってけてってけ、追いつかれないように書いてたよ」
「あの中でキーともなる、BSSだけど、あれに対する伏線は1話の段階から時々出ているよね」
「そうね。結構、台詞中とかで。12,13辺りでは、ずいぶん書いてるしね」
「あれって、やっぱり初めから全部決めて書いてたの?」
「いや、全然。後からまとめたんだよ」


 実際、終わりの見えない伏線というものを張るのを余儀なくされることがあります。つーか、僕の場合、絶対に頭に考えている通りに書けないので、結局、張る伏線張る伏線、すべてが、終わりの見えない伏線になりがちです。

 連載物を書いていれば、至極普通に、この終わりの見えない伏線を張ることが出てくるでしょう。そして、最終回近くになって、「ああっ!?張った伏線の処理ができない!?」と、なってしまうのです。

 それはなぜそうなってしまうのか。

 それは考えてないのに書いちゃうからです。
 って、当たり前だって?

 いや、つまりですね、その時点で考えてないことは、書かなければいいんですよ。R‐0で言うなら、香奈が初期の頃からよく言っていた台詞、
「ごめんね、お姉ちゃんがもっとしっかりしてれば、こんな事にはならなかったんだよね」
 これって、別に、台詞だけで見ればなんて事のない普通の台詞なんですよ。よく、言うでしょう?「自分がもっとしっかりしてれば、こんな事に…」とか。

 この台詞は、直接的にその状況に対して言っていると解釈すれば、その時点で終わりな台詞です。
 けど、この台詞を何度も何度も使ったりすると、「この台詞には何か意味があるんじゃないか」なんて読者に思わせることができるわけです。
 そう思わせてしまえば、こちらの勝ち。
 この台詞を、「伏線」とする事ができるのです。で、もしも「伏線」にしなかったとしたって、「いや、この台詞は、この状況のことを言っただけなんだよ」なんて言って、逃げることもできる。(卑怯ですが…)

 それにこの台詞、どんな風にも展開できるでしょう?伏線として考えるのなら、「こんな事」って、「どんな事」だろうと、いくらでも考えられる。

 同様に香奈がよく言っていた台詞、
「BSSは兵器として作られたんじゃないはずなのに…」
 これだって、いくらだって、どうとでも展開できるでしょう?「兵器じゃない」ってだけで、後は何も言っていないんですから。兵器じゃなければ、おもちゃか、健康器具か、もしかして電波でも受信するためか!?

 要は、その時点で考えていない事は、無理に書かないと言うことです。

 最終的に、「兵器じゃない、おもちゃでもない、無論、健康器具でも電波を受信する機械でもない」となって、「じゃあ何だ?」「これだ!!」となればいいのです。

 これが、伏線の収束法。
 だんだんと、煮詰めていけばいいと言うわけです。

 もちろん、ただ意味もなく煮詰めてっちゃいけない。煮詰めすぎると、初めから考えていたものと、かけ離れすぎてしまいますから。
 だから、絶対に注意すべき事は、「煮詰めていって、最後にはこれくらい残こそう」というラインを考えておくと言うことです。そのラインをわかって煮詰めていかなければならない。それ以上は、絶対に煮込んではならない。焦げ付かせるなんて、もってのほか。

 そして、たまたま煮込んでいる最中に入れた野菜とか調味料(台詞とか、描写とか)が、いい味を醸し出すことがあるかも知れない。そしたら、その味を引っぱり出さない手はない。最後に出来上がりのスープのメインを引き立てる物となる可能性があるのなら、なおのことです。

 これが、偶発的に生み出された、伏線というもの。
 意外とこれが、いい味を出すことは多いです。僕の場合、伏線のほとんどはこれであることが多いですし。

 で。

 初めから隠し味として入れておくことにしてあった伏線。(ここではケータイの例)
 煮詰めていく上で浮きぼられていく伏線。(ここではR‐0の話)
 そして、煮込んでいる最中に入れた野菜から出てくる伏線。(偶発的な伏線)

 この3つのパターンの味の素を巧みに活用し、そして最後のひとつのクライマックスを盛り上げるのです。それが、伏線の役目。
 伏線は、複線故にメインになることはない。けれど、絶対になければならない。そしてそれがあるからこそ、メインが、ひとつの言いたいことが、きらりと光る。
 そのために、そのための、伏線。

 そして最後は、メインでかっちりと決めたい物ですね。

「犯人は、あなたです」