studio Odyssey



no title

Written by : Rexreim

「暑いなぁ」
「暑いー……」
「言うな、言えば暑くなる」
「……アンタも今言ったじゃないの」
「目の錯覚だ」
「いや目関係ないから!?」

 
 ある夏の晴れた日。
 気温が30度を超えたくそ暑い夏の日。
 学校の中庭にある大樹の下、備え付けのベンチに俺と夏樹は座っていた。
 やばいよこの暑さやってらんねーよ。
 ひしひしと迫り来る地球温暖化の危機に初めて俺は恐怖を覚える。
 
「ぁー……大体、なんで夏休みに補習なんてするわけ? 意味わかんない」
「仕方ないだろ。期末テストで赤点を2つもとったお前が悪い」
「……4つとったアンタにだけは言われたくないわ」

 うるさい。
 大体日本人は日本語だけ使えればいいじゃないか、だから英語を落としても仕方ない。
 大体数学なんて将来的に足し算引き算掛け算割り算ができれば充分じゃないか、だから数学を落としても仕方ない。
 大体世界で尤も重要なのは今現在nowなこの世界じゃないか過去のことを振り返らずに進もうぜ、だから日本史を落としても仕方ない。
 大体古文の文法ものすごくおかしいだろなんで『ひかり』が『かげ』になるんだわかるわけないだろう、だから古典を落としても仕方ない。
 うん、至極間違ってない意見だ。
 だというのに、部活動もしてないのに夏休み中に学校に来させられて無理やり授業を受けさせられるとか、なにこの拷問。
 俺はため息をつきながら上を見上げる。
 学校のシンボルである大きな樹(種類なんて知らない)の葉っぱがさらさらと揺れていた。
 隣に座る夏樹が呟く。

「次は英語だっけ……」
「俺は数学。鬼山先生だ」
「こっちは山本センセ」
「どっちも似たり寄ったりの絶望コース一直線だな」

 ビバ☆熱血先生。
 他の先生は少しは優しくしてくれるため、授業も実のところ10分とか20分前に終わってくれる。
 だけど、数学の鬼山と英語の山本は別だった。
 最後まで授業するのは当たり前、下手したら次の授業が始まるまで延々と授業を続ける。
 もしも途中で寝たりなんかしたら課題追加は逃れられない。
 こんな暑い中で受けたくはないんだけど、なぁ。
 そもそもなんでウチの学校はクーラーないわけ……?
 どうにもならない状況に再びため息が漏れる。
 五里霧中ってやつか畜生。
 視線を下げて校舎にかけられた時計を見るとあと5分ほどで休み時間が終わるところだった。
 そろそろ教室に行かないとな。
 俺が立ち上がると夏樹も釣られて立ち上がった。

「今日何限まであるの?」
「3限、次で終わりだ。人生も終わりそうだけど」
「はい悲壮な顔しないそこ。辛いのはわかるけど」
「だって悲しいだろう? 夏樹の儚い生命が費えるんだぜ?」
「ってアタシだけ!? 違うでしょお互いでしょうがっ! ……アンタまさかサボる気?」
「冗談だっての。サボれば課題が3倍になっても文句言えないからな、受けるさ」
「はぁっ、無駄に突っ込ませないでよ。疲れるじゃない」
「キレがまだまだだけどな」
「茶化さないで。いい加減怒るわよ。……ま、せいぜいがんばんなさいな」
「へいへい。生きてたらまた校門で会おうや」

 じゃあな。じゃあね。
 互いに別れの言葉を吐きながら俺はA棟へと向かい出し、夏樹はB棟へと歩き出した。
 こんな、どうでもいい夏の一コマ。


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Rexreim
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http://www.studio-odyssey.net/thcarnival/x05/x0506.htm
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