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「七夕ってのは織姫と彦星が逢引をする日なわけでだな。大空の元、男女がこう凄い勢いでイチャイチャするわけだ。そりゃーもう口に出せない方法でイチャイチャしたりするんだな。大変だぞーお前。皆ロマンチックだのなんだのって言ってるが、実際そんなじゃないからな? 割とどろどろしてたりするんだぞ多分。具体的に言うと”ちょっと、この一年浮気してなかったでしょうね”とか”お前こそ他の男と”だとかな。割と黒いことをお互いにやってるわけだ。最悪だな。最低だ。しかもここが怖くてな。”あの女の臭いがする…”だの”あの泥棒猫が…っ”みたいな不穏な発言が出てるんだ。怖いだろう。そんで割とどろどろしてたりするんだが、だけども一年に一回しかあえない二人なわけじゃん。やっぱりイチャイチャするんだよ……こう、お互いに腹に一物を抱えながらな」
「怖いんですね…」
「怖いんだ、だからな花子ちゃん」
一息でここまで言ってから、俺はついと窓の外で一生懸命竹になにやら短冊をつけようとしていた金髪の少女を指差し、
「だからあんなふうに無駄に夢を願いつつ短冊を竹につけるなんて無駄以外の何者でもないんだ」
「あんたは一体どんだけ七夕が嫌いなのよ」
失敬な。七夕は案外好きだぞ。
七夕のメリーさん
さて、そんなわけで今日は七夕である。天の川を越えて二つの星が出会うなんてロマンチックねーだとかなんとか聞こえる気がするが正直どうでもいい。
竹に短冊を掲げて願いが叶うわけでもないわけではない。第一、実際に織姫と彦星が竹にかけられた短冊を見たからといってそれをかなえてくれるわけが無かろう。二人は乳繰り合うので大変なのだろうから。
バイトで疲れていた俺は(七夕スペシャルデーとかふざけてるとしか思えん。しかも俺とシフトが被ってたバイト君が一人行方不明になったし)クタクタになりながら自宅に帰った。そうしたら目の前に竹があり、そこになにやら大量に短冊を掲げている金髪美少女と、おかっぱの和服を着た可愛い少女がいたわけだ。
「いいか花子ちゃん。あの二人は今頃乳繰り合うので大変だから願いをかなえてる暇なんてないと思うんだぞ?」
「あんた純真な子捕まえて何卑猥なこといってんのよ」
そういう貴様の短冊にはなにやら”彼氏が欲しい”とか書いてあるぞ。幽霊の彼氏ってどんなんやねん。俗物が。
花子ちゃんは俺とメリーのそんな微妙な言い合いを聞くと、その日本人形みたいな整った顔の頬を少しだけ赤らめ、小さく笑って、
「でも、そういうのって素敵だと思いますよ?」
といった。死ぬほど綺麗な笑顔で言われると、その、なんだ、逆に困る。この子は天然純真な子だなぁとか思ったりするわけなのだが。
やばい可愛かったので頭をくしゃくしゃと撫でてみる。ああ、ほんと和むわ。
「そういやあんた何処行ってたのよ。痴漢?」
「その言動の意味がわからない。バイトだバイト」
なんだ痴漢って。誰が貴様等に食わしてやってっと思ってんだ……
「痴漢って…なんですか?」
「こいつのバイトよ」
不埒な事をほざいたメリーの脳天にネリチャギを叩き込みつつ家の中に入る。
頭蓋骨のひび割れ部分に当たったのか頭を抑えつつ転がっているメリーを視界の中から追っ払いつつ台所へと向かう。と、後ろからトテトテと小さな足音が聞こえてくる。花子ちゃんだ。
「今日は何を作るんですか?」
「や、時間もねーしキャベツの卵とじとかそこら辺適当に作るよ」
「じゃあ手伝うことなさそうですか?」
特にないねー、というと残念そうに引き下がる花子ちゃん。うーん、いい子だな。どっかの金髪とは大違いな件について。切ない。
食事が終った後、二人の少女はなにやら一生懸命に短冊を前にうんうんと唸り始めた。
どうやらさっきまで書いてたのはネタらしい。ちゃんとした本気な願いを考え中のようだ。
「しかし幽霊も七夕だとか、信じるんだな」
「私たち自身、そういう”信じる。信じない”みたいな存在だからね」
確かにそれもそうだな。
「だからこういった神話や昔話みたいなのは私達にとっては”事実”なんです」
そういう花子ちゃんとメリーの言葉に頷く。
七夕なんてのは一年の周期で星が巡り合うのを昔の人間やら今の人間やらが面白おかしくアレンジして行事に仕立て上げている話である。
だが彼女等にとっては実際に織姫と彦星が空で出会っているというのは事実なのだろう。そう、星のめぐり合いだけではない、と。
ただの星の巡り合い。だがもしかしたら、星の上ではないかもしれないが、彼と彼女は出会っているのではないだろうか。
一年越しにこの日だけ出会える恋人達ってのが実際にいるのかもしれんなぁ。とか自分らしくもない事を考えてしまったりする。これも七夕パワーというやつだろうか。
不意に思い出したのは後輩の顔である。彼女とは俺の卒業と同時に全く会わなくなった。彼女と過ごした日々は実に笑えるものだった。ていうか笑える部分しか思い出せないのはすげーなおい。
――先輩。七夕って言うのはあれなんですよ? 星の合わさりが強いので力が強くなるんですよ?
「―――っと、ちょっと」
――それは要するにカイリキーないしゴウリキーみたいな。
――私はポケモンですか。
「ちょっと、聞きなさいってば。聞いてる? もしもーし。ノックしてもしもぉーし」
――はっはっは、君は自分が可愛いつもりかね。
――今酷いこといわれた気がする。
「聞きなさ」
「さっきから煩いぞお前」
「え!? ちょ、何それ」
「うん、メリーちゃん煩い…」
「酷くない!?」
別段酷くはない。
「で、なんのようだ」
そういうとメリーは俺の額にキョンシーよろしく短冊を押し付けてくた。なんか嫌な音を立てて頭に直撃。むかついたのでデコピンを直撃させておく。
後ろに吹っ飛んだメリーはさておいて額に張り付いた短冊をぺりりとはがす。なんかノリでもついていたのか。ちょっと痛い。
「これは?」
「いっつつ……って、何よ、あんたはそれが何に見えるわけ?」
「お前にはこれが何に見えるんだ?」
「は? 短冊に決まってるでしょ」
「紙だよ」
「うわ!? 何それ!? あんた小学生みたいな事いってんじゃないわよ! 馬鹿じゃないの、馬鹿じゃないの!?」
「……メリーちゃん、酷い……」
「えぇ!? なんで花子ちゃんが泣くの!?」
「やーい泣かしたーやーいやーい」
「あんた小学生か!? ていうかうっさいわよ!」
「全く話が進まないだろう」
「誰のせいよ!」
「メリーちゃん煩い…」
「えぇ!?」
全く煩い奴だ。
「で、こいつを俺はどうすればいいんだ?」
と、少し半泣きになっているメリーに聞いてみる。
「……ん、別に、あれよ。あんたもなんか願い事みたいなのあるなら、書いたら? って思ったのよ」
何かを期待するような目で俺を見る二人。ウーム……願い事ねぇ。
正直書くような願いなんてない、が…信じているわけでもないものに何か願うのも変な話だ。
でもまぁ、たまにはそういうのを書くのもいいのかもしれない。
ペンと短冊を手にとって少しだけ考える……願い事、願い事ねぇ……
「ちなみにお前は何を書いたんだ?」
「え? 私」
「お前じゃねぇよ馬鹿、何いってんのお前、自意識過剰? なんでお前に聞いたと思ってんの?」
「なんでそこまで言われなきゃいけないのかしら!?」
「で、花子ちゃんはなんて書いたんだ?」
「花子ちゃんに対して”お前”とか言わないから私に聞いてたんじゃないの!」
「いや俺は貞子に聞いたんであってな」
「誰よ!」
――え? それは酷くない?
「…ん?」
なんか聞こえた気がするが、気のせいだろう。
「で、なんて書いたんだい? 花子ちゃんは」
「え? えっと、私はですね……」
そういって花子ちゃんは頬を赤らめながら短冊を