studio Odyssey



no title

Written by : gion

じわじわと夜が暑くなってくる七月あたま。一般に言う七夕というやつ。
だがこっちは結構田舎で、夜にカブトムシをハエたたきでたたき落としてははわきだす。
田舎時間は都会とは一月遅れるもんでこっちじゃ8月が七夕なんだが
世間の流れに逆らえず、七月にもやって年に二回七夕が行われるという
織姫、彦星にとっては最高なラブ地域になっている。
まぁこれが俗に言う田舎クオリティだ。

「あー、あっちぃな。まったくもう夜位涼しくなれっての!!」
「ほらほら、だれてないでしっかり働く!!この悪ガキどもの世話できるのはあたしたちしかいないのよ」
まぁ田舎によくある子ども会のイベントで七夕会というやつで、
地域のガキ共を集めて騒ごうというやつだ。
子供を世話する親は酒をかっくらってへべれけになって腹踊りとかして騒いでいるのはいつものこと

ということで必然的にガキ共をまとめるのは年上の仕事ということになるんだが
この地域に高校生は俺と時雨の二人だけ。後は全部小学生以下という
今の日本ではうらやましいほどの出生率と若返りをしている。

「ほらほら、遠くに行かない!」
「みんな願いは書いたのー!」
時雨は名前に似合わず面倒見がよくて地域のお姉さん?的な感じで以外にガキ共
に頼られてる。

ブゥン!!

カコォン!!

「いってぇ!こら竹投げて遊ぶんじゃねぇ!当たったら危ないだろうが」
「わー!!大晴(たいせい)が起こったーーー!!」
「ったく・・・・こんなもんブン投げやがって・・・・ん?」
「・・・・なぁ時雨」
「なぁに?」
「七夕って笹だよな。竹じゃねぇよな。パンダは竹をくわねぇよな?」
「うんパンダは竹をよほど非常事態にならない限り食べないだろうね。
 えっとね、ショボイ笹で100人から数える子供の願いを支えれると思う?」

バシィーン!と願い事がたわわに実った竹をひっぱたき

「それに!これくらいの樹齢100年を誇るかという霊験あらたかな孟宗竹じゃないと
願い事がかないそうにないでしょ!!」

「う。まぁ確固たる核心があるなら何も言わんが・・・」

「さぁ。それじゃみんなしっかりと祈るんだよー天の川に」
「なんかさぁ。祭りの趣旨が変わってないか?」
「いーんじゃないの?別に」

二人して竹のてっぺんを見つめる。
漆黒の闇を切り裂く様に流れる白く淡い天の川その両岸に引き裂かれた
二人をあらわすベガとアルタイルが儚げに煌き、それにあわせるように空気が震える
ズズズズズズッズズズズズ
そのアルタイルの輝きが一層強く増す
ドドドッドドドドドッドドドド
「なんか。降ってきそうな感じに輝いてるな。アルタイル」
「ってかほんとに降ってきてない?」
「はは。まさか。あんな一等星が降ってくるわけが・・・」
ゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴッゴゴ
「降ってきてるな・・・」
「降ってきてるね・・・」
「・・・・・・・・・」
「みんな逃げろぉ!!」
「逃げろってどこに逃げるのよぉ!!!」
慌てふためく二人、
きゃっきゃきゃっきゃと事態を理解してないガキ共
呑んだくれて瞑れてる親グループはもはや関係ない
「うわぁぁぁぁ!!」
すべてが光に包まれ、もう死んだと思ったそのとき
何かが抱きつく感触と共に
「すいません!!僕をかくまってくださぁい!」
恐る恐る目を開けるといかにも気の弱そうな男がえぐえぐと顔をくしゃくしゃ
にして俺の胸の中で泣いていた。
「だっれだ、貴様わぁ!!!」

ガッコォーーン!!
手にしてた竹の切れ端にありったけの力をこめて男の頭めがけて振り抜く!!
ドサァ!!
「ふぅ・・・こいつは誰だぁ!!」
「知らないわよ。てかあんた助け求めてる人を何張り倒してるのよ!」
「うるせぇ!男の胸で男がなけば条件反射でぶん殴るのが男だ!これは本能だ!」
「そんな本能なんてこの機会に天の川に流しちゃいなさい!!」
「お前。うまい事言うなぁ」
「感心してないで運ぶの手伝って」

公民館の畳になぞの闖入者を寝かして
「で、こいつは誰だ」
「あたしが知ってるわけないじゃないおきるまで待ちましょう」
「そうだな。楽しいくらいにうなされてるしな
「うわぁぁぁぁあ!!やめてくれハニィもう耐え切れないよ!」
「うぉ。以外に早く起きたなこいつ」

「うわぁ。うぁ!こ、こないで!!」
「錯乱してるわね。どうする?」
「殴るか?蹴るか?」
「ひぃぃぃぃっぃぃぃぃ!!!」
「っと冗談はこのくらいにして、お前は誰だ」
「答えないと、彼、ほんとに殴るわよ。」
「ひぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃ!」
恐慌状態になってる闖入者。それをさらに脅す二人。
どうも闖入者は殴られたいようだ
ギュッとこぶしを握り振り上げる
「ひぃ!彦星です!!僕は彦星ですぅ!!」
えぐえぐと泣きながら答える
「はぁ?」声をあわせる二人

閑話休題

「実は。僕、彦星なんです」
「「それは聞いた」」
時雨とシンクロして答える
「あ、そ、そうですね」
えらくオドオドして答える彦星
「で、その彦星がなんでまた地球に」
「じつは、織姫の家庭暴力がひどくて・・・・」
「なんだその実にリアルな家庭事情」
「今日だけでいいんです!!今日だけで!!今日が終わればまた一年合わなくていいんです
 だからかくまってくださぁい」
 抱きつこうとする彦星を腕で押しのけつつ
「そうか。それは大変だな」
「わかってくれましたか。それでは・・・」
「おう」
うなづく俺の手をとる彦星
「ありがとうございます!」
さっぱりときっぱりと、溜めに溜めて答える
「帰れ。」
「へ?」
きょとんとする彦星そこにダメ押しに
「帰れ。」
無機質に言う
「そ、そんなこと言わないでかくまってくださいよ!。
そろそろ織姫も来ないことに気づいて探しはじめますから。
つかまると何されるか。」
「うん。それはわかる。」
「彦星が織姫にいぢめられる。これは結構面白いことだ。だからかくまわない」
「そ、そんなぁ・・・」
外でまたガキの世話をしてる時雨にむかって
「おーい、時雨。短冊に「彦星在住、お迎え求む」って書いて下げとけ」
「わかったわ。なにが起こるんだろうね。楽しみw」
「こ、この悪魔ぁ!!」

短冊を下げて五分何も起こらない
10分
30分親と子供は引き上げて俺と時雨で片付けを始める。
ちなみに彦星は、短冊を下げた直後から
公民館の倉庫の屋根裏に衣装ケースをもちこんでその中に隠れている
「やっぱ何も起こらないなぁ。」
「まぁ。彦星がいただけでもすごいことじゃない?」
「そだなぁ」
ドガシャァァ!!!
そんな会話をしつつ片付けも終わってきたころに竹に落ちる一筋の雷
もうもうと上がる煙とその奥から聞こえる声
「ここに彦星がいるのね!!とっとと出てきなさい!!マイダーリン!!」

「ほんとに来たよ。オイ」
若干あきれ気味の俺。片付けをしながら時雨が
「あー、彦星さんね。倉庫の屋根裏にいるからちゃっちゃともってっちゃって。」
と答え彦星に無慈悲に止めを刺す
煙の中から姿を現した織姫はまぁなんというんだ。かわいくはない。
雄雄しくはある。そんな感じの和服女性だった。
「あ、どーも。うちのモヤシが皆さんにご迷惑をおかけして」
「いえいえ。こちらこそ色々とお話を聞かせていただいて」
時雨と織姫が軽い挨拶を交わしてるとき
倉庫からは悲壮な叫び声があたりに響いていた。


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gion
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http://www.studio-odyssey.net/thcarnival/x05/x0502.htm