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あと数分で新年が明けるというところ。俺は暖かい格好をして、ほぅと上を見上げた。
そろそろ年が明けるのだ。来るは2006年。めでたい年号なのかどうかはさておいて新年を迎えるのは、まぁめでたいのだろう。
新年、といえば除夜の鐘やらおみくじといったところだろうか。
暖かい甘酒を飲んでお餅を食べて、まったりとしてから眠る、と。その前にあるのは年越し蕎麦だけだな。
年越し蕎麦をお気に入りのカップ蕎麦(年越しVer:注! 一人身用)で済ませた俺は、さてと一声気合を入れた。
年を越す際にやるのはやはりあれだ。百八つの煩悩を払うという除夜の鐘である。
早いところでは既にゴーンと少し鈍く重い、心に響く音が鳴っている。
「年明けだ、俺も思いっきりいくかね」
そう思い、前にある鐘を突くために釣り下がった紐に手をかける。
さぁ、これから百八つ。俺にこもった煩悩を払おうじゃないか。
ごーん。
ごーん。
ごーん。
ごーん。
「・・・・・・ねぇ?」
ごーん。
ごーん。
ごーん。
「……ちょっと?」
ごーん。
ごーん。
ごーん。
「おいこら」
ごーん。
ごーん。
ごー・・・・・・
「人の話をきけぇぇぇぇ!?」
「やかましい女だなお前は」
人がせっかく気分良く除夜の鐘を鳴らしていたというのに、それを邪魔するように一人の少女が俺に突っかかってきた。
金髪の美少女、名はメリーという。なぜか俺の家に居座っている。
なかなかに生意気だがノリ突っ込みを得意とする猛者だ。
しかしいきなり邪魔をするとは、まさか……
「お前も鳴らしたいんだな、除夜の鐘」
「違う、違うのよ……私が言いたいのはね?」
俺の肩にぽんと手を置いて、一息吸う。
嫌な予感がしたので耳を塞ぐと、それと同時に――
「なんで自宅で小型の鐘を鳴らしてんのよあんたはぁぁぁぁーーー!!」
ドンッ!!
『うるせぇぞ隣ぃぃーーー!』
「ヒィ! す、すみません!!!」
「あー? うるせぇなぁ」
「あんたも謝りなさいよーーーー!?」
――少女の絶叫が響いた。
* * * * *
「ていうか意味がわからないわ。なんで自宅に鐘が用意されてるのよ!」
「知れたことを、用意したからに決まってるだろう」
「経緯が知りたいのよ私は……」
相変わらず細かいことを気にする奴である。まったく、どうなんだそれは。
「しかしあんたって本当に非常識ね」
「お前に言われたくないぞ」
自称幽霊だろう。
「あんたにも言われたくないわよ。自宅に鐘は用意するわ、しかも鳴らすわ……」
ごーん。
「鳴らすなぁぁー! 近所迷惑でしょうがぁっ!」
『うるせぇぞぉぉーーー!?』
「ヒィィ! すみませんー!」
「隣うっせぇな、注意してきてやろうか」
「ちょ、やめなさい! 隣の家の表札にこの前死神って書いてあったの! お願いやめてぇぇぇ!」
うるさい奴である。
まったく、俺は静かに正月を過ごしたかったのだがなぁ、とコタツに入れた身体をもぞもぞとさせながら考える。
「ん? 何してんのよ」
「いや餅を取り出そうと思ってな」
「なんでコタツ……いや、いい、もう聞かないわ」
頭痛がするのか頭を抑えるメリー。大丈夫か、頭痛薬なら一応あるぞ。
俺がせっかく心配してやったのにメリーははいはいそれでといった表情で俺を見ている。失礼な奴だな。
「まぁ餅でもくって、あれだ」
「何よぅ」
なんだかんだで餅をにゅいーんと伸ばしつつ食べるメリーを見て、軽く笑う。
「はっぴぃにゅーいやーって奴だ。来年もそれなりによろしくな」
それを聞いてメリーは目を丸くして、やっぱり軽く笑った。
さて、来年は何が起こるのやらとコタツにもぐりながら俺は考える。
とりあえず窓の外にへばりつく貞子はスルーすると心に決めた。