studio Odyssey



初日の出を見に行く

Written by : u-1

「初日の出を見に行こう」
 と言うのはまぁ、多分よくある新年のネタだ。
「嫌だよ、さみぃ」
 と言うのも、よくある新年のネタだ。
 んでまぁ、大抵の場合、初日の出を見に行くというのはお流れになったりするんだ、これが。よくあるよくある。
 あとはパターンとしては、テレビで見るとか、近所で見るとかだな。
 よくあるよくある。
「初日の出を見に行こう」
 いや、だから嫌だって、さみーじゃん。
 このクソ寒い中で、何故にわざわざそういうありきたりな事をするかね?
 どうせやるなら、もっとホットで、クールなおもしれーことをやろうぜ。
「例えば?」
 いや、別に特に何もない。
 そんな新年一発目の当たり前の電話を、いつもの仲間としていた。
 年明けにメールやら電話やらは、するなと言うのに、だ。
 よくもまぁ、繋がるモノだと思う。
 そしてむしろ、繋がらなければ、もっとマシな元旦だったんじゃねーかと、今は思う。
「初日の出を見に行こう」
「いやさぁ、もっと面白いネタ、ないの?」


「初日の出を見に行こう」
 俺は電話をかけた。
 バカじゃねーの?もっと面白いネタはねーのかよ?
 と、俺と同じ事をこいつも言う。
「だから、初日の出、見に行こうぜ?」
「もっと、おもしれぇネタだせよ、新年なんだからよ」


「初日の出を見に行こう」
 俺は電話をかけた。
 バカじゃねーの?初日の出を見に行くような歳でもねーだろ?
 こいつも、俺と同じ事を言いやがる。
「初日の出、見に行こうぜ?年甲斐もなく」
「くだらねぇー、新年早々やることじゃねーだろ?」


「初日の出を見に行こう」
 俺は電話をかけた。
 この寒いのに、ご苦労なこって。俺はいかねーよ。
 俺と同じ事を言って、さっさと切ろうとしやがる。
「まぁ、待て。みんなで行こうぜ?」
「みんな揃って行く程の事かよ」


 今どこだよ。

 メールが入る。
 もうすぐ付く。
 メールを返す。


 今どのへん?

 メールが入る。
 あれ、俺、もしかしてビリ?
 メールを返す。

 おせー、さみー、しぬー。

 メールが入る。
 やべ、もう出る?
 白んでいく空に、小走りに走る。


 俺たちは一人。
 走る。


 行く先は決めない。
 ただ、俺たちが決めたことは、ひとつ。
「初日の出を見に行こう」


 俺たちは砂浜に駆け下りる。
 決めたのはひとつのルール。
「歩いていく」


 防波堤から飛び降りて、歩き通しでやってきた両足がもつれる。こける。
「やべ、こけた」
 メールする。
「カップ麺買ってきていい?」
 メールする。
「コーヒーよろ」
 メールする。
「やべ、雲ってんだけど!」
「こっち雲ってねーよ?」
「ああああぁぁぁあっ、靴濡れた!」
「近寄りすぎ」
 行き交うメールに、笑う。


 そして、メールが途切れた。


 どれくらいの間途切れていたか、俺たちはただ、砂浜に座って、時が流れるままに、その場所にいた。
 やがて、誰かが言う。
「おけおめ」
 メールで。
 短く。


 新しい年の朝日に笑いながら、俺たちのケータイが、腹を抱えて馬鹿さ加減に笑うように、ぶるぶると立て続けに震えていた。


author:
u-1
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http://www.studio-odyssey.net/thcarnival/x03/x0303.htm
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http://www.studio-odyssey.net/
author's comment:
 15分で書いたの没って、直した。
 まぁ、実際にいそうだなぁと言う感じで。歩いてはいかんがなw
member's comment:
<zeluk> なんか実際にやってそうな話だなぁ。
<harusame> 青春の1ページだな。
<zeluk> 全員で陽の昇ってるのを見ながらぽっけに手ぇつっこんでぼけーっとたってるのが浮かんだ。
<Tyuram> あ、それは私も。
<zeluk> さみぃさみぃ言いながら集まってるのがリアリティあったw
<yuni> 斬新な切り口だったなw
<zeluk> 携帯越しに、こう、あれだ。集まってる感じがあったw 何してんだみたいな。
<harusame> でも1組か2組くらいは同じ場所に居たりするんだろうなw