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「ラブレター、書いたことがある?」
と、突然に彼女が言った。
「は?」
と、答えた。
ラブレターなんて、書いたことがない。言われてみれば、今まで生きてきた人生の中で、ラブレターというものを一度も書いたことがない。
「お前に書いてるメールとかはよ?」
聞いてみたけれど、それが彼女の言う「ラブレター」ではないと言うことは、容易に想像がついた。
「それはラブレターじゃない」
あっさりと言われた。
彼女との付き合いも、もう大分長い。長いから、彼女の言わんとすることはわかる。彼女が言う「ラブレター」というのは、まだつき合ってもいない男女が、「好きです」とか、そういう事を書いて、愛の告白なんかをする奴の事だろう。
そう思って、
「…っていうのだろ?」
聞いてみた。
彼女は満面の笑みを浮かべて答える。
「そう。ある?」
「ない」
短く答えた。
彼女はそれが不服だったらしく、眉を寄せながら返した。
「ないのー?」
と、不満そうに。
「そういうお前は、あんの?」
逆に聞き返してみる。
「むしろお前、告白とかもしたことなくね?」
笑いながら言ってやると、むすっと頬をふくらませて、彼女は返した。
「あるよぅ」
「ないな」
軽く口許を曲げて、言う。その言い方は、きっとない。
「失礼だな」
呟くけれど、相手にしてやらない。
それが不服だったのか、
「ラブレター」
「あ?」
「書いてよ」
彼女が言った。
「メールでいいか?」
さらっと返すと、
「違うよ、手紙でだよ」
即答。
「なんでだよ、面倒くせぇ。メールでいいだろ」
「手書きだよ。手書きで書いてよ」
「やだよ、面倒くせぇ」
「明日までに」
「お前、話きいてねぇだろ?」
「下駄箱とかに、入れて欲しい」
「殴るよ?」
眉を寄せて言ってみたけれど、聞いてない。
彼女はにこにこ笑ってる。
こっちが書いてくる事を、もの凄く期待している。
だから俺は、
「わかったよ…」
折れた。
「お前も、明日までに書いてこいよ」
ぽつりと言って。
「え?」
「こっちだけって、ずるくね?だから、お前も書けよ」
「やだよ」
「ラブレター、書いたことある?」
「あるよ!」
「じゃあ、それと同じの、書き写すだけでいいよ。名前間違えんなよ」
「それじゃ、想いが伝わらないじゃん」
「じゃあ、書き下ろし」
「やだよ!」
「俺は、机の中とかに入れて欲しいなぁ」
彼女の言葉を無視して、俺は軽く笑った。
そして、ふと思いついて、言った。
「そうだ」
「なに?」
憮然として彼女か返す。
「最後の一文だけ、決めていいか?」
「なにそれ」
「最後に、『放課後、中庭のベンチの所で待ってます』って書いてくれ」
「なんで?」
俺は笑ったままで、言った。
「俺も、同じ文、最後に書くから」