studio Odyssey



One-Way

Written by : yuni

 空席の椅子があって向かいには、これも椅子に座って、神父が一人。白く反射している黒髪で、目も耳も殆ど見えないが、特に気にする様子はなかった。
 窓からは、斜に朝日が射している。

  ***

「つまりですね、“萌え”という精神の営みを持つ僕達を、差別的に扱うべきじゃないと言っているんですよ」
 熱弁。脂ぎった髪と顔に、脂の乗った身体と顔、それと或いは、頭。
「“アキバ系”などと勝手に括って、話題のネタにするなんて、失礼ってものですよ」
 絵にして『ヲタク』と題して転がしておく為にあるような、そんな男。
「なら、アンタ方は、例えば“渋谷系”とでも呼ばれるべきなんじゃないのかとですね」
 ここまで典型的な容姿も、珍しいだろう。ワックスとニスで武装した、照り輝く肉体。
「趣味嗜好の対象が、バイクにでも変われば、連中、それを格好良いと褒めるのに、理不尽ったらありません」
 当然、眼鏡のオプション付属だ。イラストはイメージですが、実物と、何ら異なることはありません。
「今や、日本の誇る一大文化分野。人と金も大いに動く産業だってのに、まるで分かっちゃいません」
 会話や対話をしようという気は、まるでない。所謂“語り”タイプで、最早、演説である。
「どうしたら、世間に広く、その威厳を知らしめることが出来るんでしょうかねえ」
 人と話すのは苦手だが、話し始めると止まらない。そういう人種。
「っと、随分語ってしまいました。そろそろ、失礼します」
 男に対しては、あまりにも小さな椅子から立ち上がり、会釈。
 ありがとうございましたと礼を言って、部屋から出て行った。
 椅子の向かいには、やはり椅子に座って、神父が一人。少し赤みがかった黒髪で、目も耳も殆ど見えないが、落ち着いた存在感を示していた。
 窓からは、鋭く日差しが射している。

  ***

「で、酷いと思うのよねえ。別に、私がアスランを好きでも、あなた方に関係ないでしょ、って」
 熱弁。深い黒だが手入れのされていない髪に、澄んだ白だが手入れのされていない肌。
「そりゃあ、声が大きかったことについては、仕方がないと思うの。私も、それに反論はないのよ」
 絵にして『腐女子』と題して転がしておく為にあるような、そんな女。
「でもね、ヒトの話に耳欹てて、明らかに聞こえるヴォリュームで揶揄するのは、喧嘩売ってるとしか思えないわけなの」
 ここまで典型的な容姿も、珍しいだろう。メリハリのメリの字がない、歩くドラム缶。
「けど、どうせ言ったところで理解しないだろうし、暴力に訴えるなんて、か弱い私には出来ないし」
 当然、眼鏡のオプション付属だ。イラストはイメージですが、実物は、若干酷い場合があります。というか、酷いです。
「アスランを好きにならないなんて、どうかしてるってのよ。 2 年もレギュラー持って番組やってたんだから、あなた方の好きなタレントなんかより、よっぽど長寿なのに」
 説得や教化をしようという気は、まるでない。所謂“愚痴り”タイプで、言葉とは裏腹に、垂れ流しているだけである。
「まあ、あんなのに好かれても迷惑だろうし、これはこれで、良いのかもしれないけどね」
 人と話すのが好きだと思っているが、人に話すのが好きなだけ。そういう人種。
「ああ、もう四時じゃない。もうそろ帰らないと。やっぱり、リアルタイムで観ないとね」
 慌てた仕草で、椅子を揺らして立ち上がり、会釈。
 聞いてくれてありがとうと礼を言って、部屋から出て行った。
 椅子の向かいには、やはり椅子に座って、神父が一人。光りの加減で一層赤らんだ黒髪で、目も耳も殆ど見えないが、落ち着いた存在感を示していた。
 窓からは、紅い夕日が射している。

  ***

  ***

 神父はゆっくりと動き出し、手を上げて深く伸びをした。
 それから髪で隠れた耳元に手をやって、そして離す。

 椅子から立ち上がり、もう一度全身を解す。
 座っていた椅子を、振り返って机の下に収め、すっかり体温と同化した、イヤフォンとアイマスクは、机上に放った。

 気だるそうに何か独りごちて、部屋から出て行った。

  ***

 “ Collection Box ”と書かれた箱を振るが、音はしなかった。掌の中で、シュークリームが歪む。

 壁に当たった箱が、何も入っていない内側を見せて、カスタードクリームが、リノリウムの床にデコレートされた。


author:
yuni
URI
http://www.studio-odyssey.net/thcarnival/x02/x0206.htm
author's comment:
 「萌え」をテーマに書いてみました。と言い張る。
member's comment:
<zeluk> 神父が素敵だ。
<u-1> これって、ようは懺悔をしに来た人って話?
<shu-ho> 設定はちょっと不思議な感じかも。
<Tia> なんだろう、なんとなく違和感というか、何かがある気が。
<u-1> シチュエーションは面白いなと思うんだけど、少しぶれたかなって気はする。ト書きが一人称なのか三人称なのか、ちょっとわかりづらくて。
<Tia> ト書き部分を一人称にしたら聞こえないって事になって困る気が。
<u-1> まぁ、そこが難しいよね。神父ともう一人いたら、変わったかも知れない。
<Tia> 格の高い方は座って音楽、低い方は立ってひたすら聞いている、とかだったら結構落としやすそう。
<Ridgel> *シュークリームはこの後作者が美味しく頂きました。
<u-1> なにそのPTA向けみたいの。