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強烈な頭痛と吐き気に襲われた。道の真ん中で思わず倒れかけそうになって、なんとか踏ん張った。
つまり、近くで誰かが死ぬということだ。あまり多くは無いが、この症状が出た後数分後半径十メートル以内で事故が起こり、毎回死人が出ている。
辺りを見回してもそこは普通の住宅街でしかない。おそらくこれから起こる事故の事を知っている人間は自分だけであろう。目の前を歩く数人の幼稚園生、バス停の前で待っているおばあちゃん、電信柱の傍で話し込んでいる主婦達の誰かが死ぬのだろう。
関わりを持たなければどこで誰が死のうと、そうなんだ、と思うだけなのであろう。自分もそういった一人でありたいのだが、知ってしまっているのでどうしようもない。
そして、後ろから叫び声が聞こえ、その後に轟音が鳴り響いた。振り返ればそこには電柱に追突したトラックと血溜まりが広がっていた。
もしも次に同じようなことがあれば、どんな風に思われても良いので知らせてあげることを決めた。関わりなど無くともこれ以上周りで人が死ぬのはいやだった。
年月が経ち、人通りのあまり多くない、やはり住宅街を歩いている時に頭痛と吐き気が襲ってきた。その衝撃で心に決めていたことを思い出す。急いで辺りを確認し、近くに小学生らしき少年が歩いているのを発見した。他には誰も見当たらない。
すぐに少年の元へと駆けつけ、もう一度周囲を見る。辺りに危険であろう物は確認できない。少年は不審そうな目で僕を見ている。
「ねぇ、ここはとっても危ないんだ。ちょっと別の場所に行こう」
と言ってみたが、いいながらも自分が非常に怪しいことを自覚していた。しかし自体は一刻を争うので、ゆっくりと説得している時間も無い。
そのとき、こちらの方向へと曲がってくるトラックが目に入った。それはまさしく人を殺す力を持ったものであり、一瞬でそれが凶器になると悟る。目の前というわけではないものの、かなり近い距離を走っている。そして運転手がこちらを見ていないという事を見分けることが出来た。
僕は少年を引っ張ろうとしたが、おそらくそれでは間に合わない。有無を言わさず少年を担いで、紙一重でそのトラックをかわした。
息を切らしながらも、自分は人一人の命を助けることができたんだという自覚を持てた。自分の特異体質を使えば見殺しになんてしなくてすむのだということが理解できた瞬間、右の脇腹に鋭い衝撃が走った。
担いでいた少年ごと倒れこむ。何事かとも理解できずに、倒れながらもその方向に目をやると、女性が血にまみれたナイフを持っていた。
「私の息子を返して!!」
聞こえた瞬間、全てを理解し、そして意識が途切れた。