studio Odyssey



めりーーさぁぁぁぁーーーん

Written by : zeluk

 気配を感じて振り向いたら、携帯でメールを送ろうとしてる金髪の美少女がいた。

 何してんの、って聞いたら凄い驚いて顔をあげた。その驚きようったらもう尋常じゃない。
 まるで化け物でも見たかのような形相でこちらを見る。目は限界まで見開かれ口はあんぐりぽっかりとしている。鼻腔が広がったりもしている。冷や汗も凄い。
 ああなんてことだ。美少女が台無しじゃないか。
 とりあえず落ち着けと声をかけてみた。そしたらその少女はものっそい勢いで逃げていった。はて何だったのか。
 ふと、物音がしたので足元を見てみると携帯電話が落ちていた。先ほどの少女が持っていた携帯である。とりあえず拾っておくことにした。返そうとも思ったが返す相手は人外のスピードで逃げていった。ごめん、あのスピードじゃ追いかける気も湧かないよ。
 何はともあれ目的を果たして家に帰ることにした。俺にはひとつの重要な任務がある。
 それ即ちお買い物。明日を生きるのも必死な一人暮らしとしては、食料を手に入れるというのはまさしく死活問題といえよう!



 とりあえず手頃にカップラーメンなんぞを大量購入して自宅に帰ることにした。
 所詮は学生の一人暮らし。飯なんて作るの面倒くさすぎですよ、あーた。そりゃたまには料理するけど今日は気分じゃないんです。とりあえず向こう一ヶ月は料理する気分じゃないと俺は予言する。
 ポットに水を入れてお湯が沸くのを暫し待つ。その間手元が暇になってしまった。今日食べる分のカップラーメンは開封済みなので色々と準備する必要もない。
 どうしたもんかとポケットを漁ると携帯が出てきた。自分のではない。そういえば買い物に行く途中に出会った謎の美少女を思い出す。
 もしかしたら自宅の電話番号が入ってるかもしれないので携帯電話をぱかりと開く。別に他意があるわけではない、これはあくまでも親切心だとここに明言する。
 というわけで開いてみた。ぱかり。

 マッシブでスキンヘッドなお兄さん二人(黒人と白人)がマッスルポーズを決めている壁紙だった。

 ………むぅ、なんともマッシヴな。これは趣味か? そうか趣味なのか。あの可愛い形をしてマッスルが好きなのか。人間見た目で判断はできない。
 おっとそんな事よりもまずは登録してある電話番号の確認である。
 どうれ、自宅はあるかしら。自宅自宅……「さ」の行だよな。んー、何々?

 ”死神”

 OKOK実に普通な登録名だ。きっとハンドルネームが死神なんだろう。とても危い人との交友があるんだなあの少女は。
 しかし自宅がないな。む、もしかしたら「おうち」で登録してるのかもわからんぞ。「あ」の行だな。

 ”閻魔”

 裁判長に知り合いでもいるのだろうかあの少女は。もしやVIP? いや、VIPPER?
 それはともかく「おうち」でも登録してないな。ついでに「いえ」もない。うーむ。参ったな。
 は、もしやハイカラに「マイホーム」なんて感じなのではあるまいか。とし、「ま」行だな。

 ”魔神”

 気にしたら負けかな、って。
 英語で表記してるのやもしれないぞ。金髪だったしな。もしかしたら外国人…そう、日本人であそこまで艶やかな金髪もないだろう。
 となるとアルファべットのところか。えーと、どれどれ。
 ”Michael”
 繋がりがわからない。ミッシェル…ちげぇ。マイケルか、これ。何故にマイケル。最近女子トイレで逮捕された奴か。ネバーランドのあやつなのか!?
 いやいかん、ここで挫けてはいけない……しかし自宅の電話番号いれてないのね。やっぱ覚えてるのか。
 うーん、どうしたもんか…と、気づけばお湯が沸いていた。ラーメンタイムがやってきた。
 携帯のことはおいといてとにかくラーメンを食おう。俺のラーメンだ。



 とぽとぽとぽとぽ……よし、OKだ。お湯の量は寧ろ少なめ。俺は濃いスープが好きなのだ。
 さて後は三分待つだけ、では、ない。こいつはハイカラなカップラーメンなので四分半待つのだ。ふふ、ちょっと奮発した俺だけのオアシスだぜ。
 しかし四分半って意外に長いよね。何をするか……

 ”prrrrrr prrrrrr”

 む、あの少女の携帯がなっている。これは出るべきか。
 もしもし?
「ハァイメリー! 元気にしてるかい! こっちはサバンナの熱線が堪らなくていい加減死にそうだZE!
 ところでメリー、今月で何人くらい縊り殺したんだい? 君の呪殺は強力だからNE! 滅多な事じゃばれないだろうけど調子に乗りすぎてると勘のいい人に気づかれちゃうかもYO!」
「ヘーィマイクゥル。お前のターンだぜ。早くドローしな」
「おっといけないデュエルの途中だったYO! それじゃなメリー、また会おうZE!」
 プツン。
 切れた。意味がわからん。勝手に語って勝手に切れた。結局誰なんだ今のは。
 しかしあの少女の名前がわかったぞ。メリーちゃんか。会話内容が微妙に物騒だったが子供同士の冗談みたいなもんだろ。
 名前はわかったがそれでも状況は変わらんな。いやぁ、参った…と、ラーメンができたな。食うか。
 さぁて、頂きま……

 ”ちゃらららーちゃっちゃっちゃー”

 レベルアップ!? 馬鹿なっ! このラーメンを食べると経験値が入るというのか。それなんてツヴァイ。
 それはそれとして…メールか? 音しないしな。うーむ、食の魚にちょっとだけ見るか。プライバシー? なにそれ、おいしいの?

 ――どうもこんばんわ。メリーちゃん、今日も元気に呪い殺してますか。私は元気です。
 ――最近私の呪を解こうと必死になる人が増えてきました。正直どうかと思うんですが、どうでしょう。
 ――そういえばメリーちゃんは相手に気づかれなかった事があったそうですね。油断大敵ということでしょうか。
 ――私もうっかり呪い殺し忘れないよう気をつけたいと思います。それでは健康に気をつけて。
 ――     from 貞子

 ちょっと吹いた。貞子かよ。
 しかし素敵ないたずらメールだ。噴いたラーメンが勿体無いがそれはそれでよし。暫く放置するか。



 ”このメールは削除確定”

 うおあ!? 喋った! びびった! 着声か!?
 しかし声の内容があれだな。削除確定のメールってなんなんだ。見ないほうがいいのか。てかスパムか。
 スパムなら見ないでもいいな。

”じゃーんじゃーんじゃーん”

 敵襲!? いや、うろたえるな。ドイツ軍人はうろたえない!
 ていうかメール多いなおい。いつもこの時間帯にメールのやり取りでもしてんのかメリーちゃんとやらは。
 しかし音が敵襲って、敵襲って。またろくなメールじゃなさそうだなオイ。



 そろそろ眠くなってきたな。と、時計を見ると既に時刻は深夜の二時を指していた。
 うっかりワンダと巨像をプレイしまくってしまった。なんてこったい。そろそろ寝るか。

”ピンポーン”

 と、誰か来たな。まぁいいや、布団を敷こう。深夜の訪問者にろくなもんはいない。

”ピンポーン”

 二回か、粘るな。深夜の宗教訪問か?
 あーしかしだるいな。疲れが残ってるっていうか…やっぱワンダやりすぎたか。うぅ、寒っ。

”ピンポンピンポンピンポン”

 うるせぇな。ていうかしつこいな、全く。
 新聞なら要りません。
「違うし!? ていうか起きてるじゃんかー!?」

”ドンドンドンッ!”

 げぇ、ドアをたたき始めやがった。くそ、近所にも迷惑だしおきるか……

 しょうがないからドアを開けると、目の前に金髪の美少女がいた。

「返してよ!」
 だが断る。
「まだ何もいってないのに即答!?」
 それが俺のジャスティスです。ていうか君は何者。
「私? ふん、忘れたっていうの? ふざけたことを…」
 ロリっ子に興味はありません。
「閉めようとするな!? とにかく返して!」
 ぼくはあなたとせってんがないのでなにもかえしようがありませんかえれさよなら。
「棒読みでしれっと帰そうとするな! 私の商売道具を返してよ!」
 少女よ。その年で体を売るのはどうかと思うぞ。
「よし殺す。殺すからケータイ返して」
 ケータイ? もしやあの携帯……あぁ、あの時の…
「やっと思い出した?」
 阿呆みたいに口をあけて! 飛び出るほど目を見開いて! 冷や汗を流し! 鼻水を垂れ流していた! あの少女かー!
「なんで大声で言うのよ!? しかも鼻水は流してないし!」
 それ以外は否定しないのだな。
「あぁぁぁぁぁぁもう、それはそれとしてとっととケータイを…!」
 まぁ待ちたまえ。
「なによ」
 あの携帯が君のものかどうかわからんだろう。とりあえず俺がいくつか質問するから答えてみたまへ。
「ていうかあんたもしかして私のケータイ見た?」
 では第一問。
「スルーかよ」
 君の待ちうけはマッシヴですか。
「やっぱ見たんだ!?」
 答えたまえ。君のー! 携帯のー! 待ち受けはー!
「言うから黙りなさい!? えぇと、そうよ、その、あれよ。黒人と白人の男が」
 裸体で絡み合ってる待ち受けですか!!!!!!!!!!
「きゃあああああああああああああああああああ!??!」
 では第二問。
「あぁぁぁスルーしないでぇぇぇぇぇ!?」
 スリーサイズをお答え下さい。
「しかも関係ないし!?」
 じゃあいいよもう。
「投げやり!?」
 はい第三問ね。
「問題としてカウントすんの!?」
 いちいちうるさい子だなチミは。いくぞー、第三問。メールの着信音に銅鑼の音を入れているー。
「あ、入れてるわよ。ていうかあのナマモノからメールきたんだ」
 うん、そのナマモノの内容も気になるけど普通に正解な。つまんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。
「脱力しきったこと言わないで。ほら、次の質問!」
 飽きてきたからこれが最後にするけど。
「早っ! 飽きるの早っ!?」
 貴女の名前はなんですか。
「最初に聞く事項じゃないかしら、普通」
 ……あ、いや、すまんな。
「へ? えと、いきなり謝れても困るっていうか…」
 おじょうちゃんのおなまえは、なんでちゅか?
「殺すわ」
 落ち着け。ほら、飴をやろう。
「わーい………って違うでしょうが!」
 存外にノリがいいな。とりあえず名前をきかせい、名前。
「ふん……聞いて驚きなさい、私の名前は」
 メリーか。
「先に言わないでよ!?」
 細かいことを気にしてるといい大人になれないぞ。
「良い大人になりたいけどいい大人にはなりたくないわね」
 微妙にニュアンスを変えてるな。まぁいい、ほうれ携帯だぞー。
「ありがと……これで形成は逆転したわ!!」
 む?
「ふふ…このメールを送った時点でこの呪は発動する。一度発動すれば解除する方法はほぼないわ!」
 な!? 呪いだと!?
「貴方はもうおしまいよ…あら? 怖気ついた?」
 嘘くせぇー。
「うわ心底馬鹿にされた気がする」
 ハッ。呪いなんて存在しねぇよ。やれるもんならやってみな。
「後悔しないことね…!」

 そういって目の前の金髪美少女、ノリツッコミの女メリーちゃんは早速携帯を取り出して何やらボタンを押し捲っている。そして――
「送! 信!」
 叫んでて恥ずかしくない?
「うるさいわね! これで呪は発動したわ、これで――」

 ”メールが、来てるよー”

「懐かしい着メロ!?」
 ふふ、時代を感じるだろう。どれ、メールか。何々…


 ――私メリーさん。今貴方の後ろにいるの。


 ……………………………………………
「ふふ、怖くて声も出ない?」
 ………………………なぁ?
「何よ?」

 目の前にいるメリーちゃんとやらは、胸を張って俺を見ている。
 そんな彼女を見て軽くため息をつく。この子は駄目だ。もう駄目だ。

 ピッと指を刺して、とりあえず教えてあげた。


「お前、目の前にいるじゃん」
「あ」


author:
zeluk
URI
http://www.studio-odyssey.net/thcarnival/x01/x0102.htm
author's comment:
 オチも何もなく終了。
 あー、一人称の書き方は久々にやったから楽しかった。
 メリーさんで遊びました。
member's comment:
<u-1> 面白いな、これ。語り口が。
<Ridgel> 女子トイレで逮捕されたやつワロタ。
<u-1> やべ、ワンダわろたw
<Tia> 表現もなにげに丁寧だしなぁ。
<Ridgel> スピーディな展開ですね。
<Tia> なぜ2時間でコレをかけるかなw
<yuni> 寧ろネタのないところから書いたのがすげえw
<Tia> きちんとオチてる気がするのは気のせい?
<yuni> 小ネタの入れ方が上手いなー。
<u-1> メリーさん、会話のテンポとか面白いね。俺は一人称部分が好きだ。
<Ridgel> テンポのよさがいいなーと。
<yuni> 最初から最後まで、さくさく進むのは凄い。
<u-1> 欲を言えば、オチにひとひねりが欲しかったとも思う。メリーさんが出てきてから、ラストまでが結構フラットにささーっと流れていくので、この辺り、キャラクターの勢いで行った感じがするね。
<Tia> もう一回落とすとかすればボリューム出るかなぁと思うなー。
<u-1> メリーさんが呪いで人を殺すというのをもうちょっと表現した方がよかったかなーと思う。
<Ridgel> なるほど。
<u-1> だが失敗する。くだらない理由で。そしてメリーさんは呪い殺すために次回へ続く。「今に見てなさい!貴方を呪い殺すわ!」と。「もしもし、貞子?ちょっと、テープ貸して!」「ウチ、VHSねーよ」とかな。
<Ridgel> 「今時VHSかよ(pgr」とか。