携帯電話の、オリジナルの着メロが鳴る。
大学生の時、仲のいい連中で作った歌の着メロだ。
だから、これが鳴るって事は、連中のグループの誰かしか、いない。
でも、こんな七夕の夜にヤツらが電話をかけてくるわけ無いし…
だから、そう思いながら、僕は携帯にでた。
「はい、もしもし」
「あっ、起きてた?」
あとは彼女くらい。
だから、
その知った声に、顔がほころんでしまうけど、
そんなそぶりは少しも見せずに、答える。
「当たり前だろ。まだ11時だぜ」
「んー、良い子は早寝かな? と、思って」
久しぶりの話始め。
ちょっとの恥ずかしさを隠すように、
彼女は普段は言わないようなことを言う。
だから、僕もちょっと意地悪に言う。
「そーゆー、心にも無いことを言うな」
「なによー!別に、ちょーっとくらいは、そう思ってあげてるわよ」
「ありがと。何?そんなことを言う為にわざわざ電話してきたの?」
「違うよ。何?こーんな可愛い子から電話きて、嬉しくないの?」
「別に」
そっけなく。
ほんとは嬉しいけど、なんかあまりそれを出したくなくて。
だから、僕のそっけない一言に、彼女は少し意地になって続ける。
「なにそれー?こんな美声が聞ける人はなかなかいないよ。このー、ちょー幸せ者っ!」
ほんとは嬉しいけど、彼女のちょっと怒った顔が可愛いから、少し怒らせようと言う。
「今週の不幸な出来事に入れておくよ」
「もう、電話切ろうかな?」
彼女の一言に、
半分は冗談であせって。
半分以上は、本気であせって。
「ウソウソッ!あぁ、俺ってなんて幸せなんだろう!」
「心がこもってない」
「不幸な俺に幸せをありがとう!」
「心がこもってない」
「…俺が、悪かった」
「判ればいいのよ」
なんて、少し勝ち誇ったように、少し笑いながら答える彼女。
チッ、と思いつつも、電話の先の彼女の顔を思い浮かべて、まぁ。
可愛いからいいか、なんて。
「ところで、知ってる?」
彼女は少し、面白そうに言ってきた。
だから、僕は、またつまらなそうに返す。
「知らない、判らない、知りたくない」
「何よ。少しくらい聞き返してくれてもいいんじゃない?」
「なんだよ」
「今日は七夕なんだよ。織姫と彦星が一年に一度だけ、会える日なのだよ」
「そんなの今時、幼稚園生でも知ってるぜ」
「夢のない人ねー。少しはロマンチストになったら?女の子にモテないぞ」
そんなこと言われて、黙ってるわけにはいかない。
ロマンチックなこと? そんなの即興で、すぐ出てくるに決まってる。
伊達に大学の頃は、そんなバカ話ばかりしていたわけじゃない。
「そうだな。一年に一度だけ…でも、俺だったらそんなのつらくてダメだな。一年に一回なんかじゃなくて、毎日でも、キミと星を眺めていたいな」
できればベッドの中で…、なんて。
自分でも笑っちゃうくらいのセリフだ。
だから、
だから、彼女はとてもマジメに答えるんだ。
「バカ?」
「オマエが言えつったんだろーが!」
それでも、可笑しそうに笑う彼女の声で、
僕も笑ってしまう。
「なぁ、知ってる?」
「知らない、判らない、知りたくない」
「俺が悪かったって…」
「冗談。それで?」
「天の川は別に、いつも見えてるんだぜ。ただ、暗い星の集まりだから見えにくいだけで」
「え? そうなの?」
「そう、だから織姫と彦星は会おうと思えば何時でもあるんじゃない?」
「うん…?」
それ以上の言葉は言えなくて。
「そう、だからいつでも会える」
「うん」
久しぶりの会話の中で、彼女が初めての風に、素直に返す。
だから、その間が持たなくて、僕が次の言葉を言おうとしたら、
「あっ、七夕過ぎちゃったね」
彼女は少し笑う風にしてつぶやいた。
時計は0時を回っていた。
「お別れ?」
彼女は言った。少し、笑う風に。
「バカ」
そんな彼女を、ほうっておけないから。
「でも、この電話は切れないし、この思いは、ずっとずっと続くよ」
「バカ…」
少し、小さく、聞き取れないくらいに、彼女が返した。
「でも…」
「電池、切れたらどうするの?」
「そんなの知るか。充電器つなげて話せよ。じゃあ」
「ロマンチックじゃないなぁ、モテないぞ」
「オマエだろ!? オマエ!!」
少し、嬉しそうに。
少し、元気が出たように、彼女は笑う。
だから、僕たちは話し続ける。
たとえ、天の川と同じで見えなくても、
その距離を飛び越えられる、それに乗せて。
天の川と同じで、見えにくいけど。
それと同じで。