studio Odyssey



Report 5

 あるエルフプレイヤーのレポート。またはそのエルフの別の人格か、それに類するものの書き留めたこと。

01:Session07-09

 Report4は欠番とし、3の次は5とする。
 この5のReportは、Session07から09までを考察するが、オンラインセッションという観点からではなく、キャンペーンシナリオという観点から考察をする。

ロングキャンペーン

 このセッションはすでにご承知の事であるが、超ロングキャンペーンである。
 キャンペーンシナリオというものは多くあるが、ここまでのロングキャンペーンというのはなかなかない。この点について考察する。

キャンペーンシナリオ

 TRPGのセッションのうち、使用したキャラクターを次回にも引き継いで使用するセッションの形態を、キャンペーンと言う。現在、ほとんどのTRPGセッションはキャンペーンである。このセッションもご多分に漏れずキャンペーンであるが、このセッションはキャンペーンシナリオとしても、かなりのロングキャンペーンである。

 通常、1キャンペーンは3回から4回のセッションでまとめるのが良いだろう。オンラインであれば、前半後半とを1セッションで分けたとしても、6セッションから8セッションである。
 というのも、あまりに長いキャンペーンはシナリオ的な矛盾を生むだけでなく、プレイヤーとしてもプレイしにくくなるためである。私の経験からすれば、3セッションを越えるキャンペーンというのは、実に破綻しやすいので注意が必要だ。

 このキャンペーンシナリオもまた、大きな部分から見れば1つのシナリオのように見えるが、詳細に分けていくと、1から3セッションの中で1つずつに分かれている事がわかる。
 だが、このシナリオの大きな特徴として、それらのキャンペーンは大きな視点から見たとき、全て1つに繋がっているという事が言える。すなわち、明確な区切りがないのである。

 このため、ここではこのシナリオをロングキャンペーンと呼ぶ。

その危険性

 このリプレイを見て、「こんなシナリオで遊びたいなー」と思う事もあるだろう。
 結論から言って、あまりオススメはしない。
 と言うのも、すでに先に触れているように、キャンペーンは3セッション程度にとどめて、一区切りをつけるようにしないと、破綻するおそれがあるためである。

 小説のようなTRPGというのは、ゲームマスター全てが憧れるものである。かくいう私もそうだ。だが、TRPGは小説ではないし、小説はTRPGのシナリオではない。2つは似て非なるものであり、同一視してはならない。このセッションは、「小説のようなTRPG」を実際に行っているように見えるため、この部分はあえて明確にしておかなければならないだろう。
 TRPGのセッションと小説は別物である。

 Session07は、いわゆる単発のシナリオである。
 オープニングとラストシーンこそキャンペーンに関わってくる展開となっているが、中身はキャンペーンとそれほど大きな関係はない。これはこれでロングキャンペーンでの1つの息抜きとして必要な要素であるが(キャラクターを出す等の意味で)、今回は特にSession08と09に目を向けたい。

 Session08とSession09のようなプレイは、はっきり言って「そうそうあるものではない」
 特に初心者プレイヤー達が集まって行うセッションで、このようなプレイが行われる事はまずないだろう。プレイヤーたちのレベル(冒険者レベルではなく)にもよるが、このレベルのプレイをする事が出来るプレイヤーとなると、かなりの経験を積んだプレイヤーであろう。そして多くの場合、そのようなプレイヤーたちはすでに「その危険性」について熟知しているため、このようなプレイが出来るとも言える。
 ゲームマスターは、このリプレイのSession08、09のようなシナリオを、プレイヤーを見て考えるべきである。このようなシナリオは破綻する恐れを多く含んでいるだけでなく、プレイヤーたちも「どうすればいいのか」に悩む可能性があるためだ。

 では、このセッションではそれが何故うまく成功しているかを考えてみよう。

経験者とお約束

 まず、何はともあれ必要なのは経験である。
 TRPGを数多くプレイしているプレイヤーであれば、様々なシナリオで遊んでいるだろう。そして、複数人のGMの下でプレイしているはずだ。ともすれば、プレイヤーも毎回違う環境を経験して来ているかもしれない。
 やはりそのようなプレイヤーとなると、シナリオを読む他、GM、そして周りのプレイヤーたちの動きにまで気を配ることが出来るようになる。TRPGのセッションが全ての参加者の協力によって成り立つ以上、このような経験を持つプレイヤーの存在は心強い。当然、失敗も多く経験しているだろうから、どうすれば失敗するかまでわかっているはずだ。(ミッション失敗という意味ではなく)

 このロングキャンペーンに参加しているプレイヤーたちは、二名を除き、皆、経験者である。すでにここで語る必要などないだろうが、ジェダ、アルス、ソアラ等は「貴様等の話しているネタはわからなすぎる」というくらいでソードワールドを語る。初心者がこのレベルに至るには、半年はTRPG漬けの毎日になるだろう。
 GMやウィルはソードワールドがメインではないが、他のTRPGのルールにも精通しているし、それらで遊び、かつソードワールドでもそれなりに遊んでいる。ドゥアンは実はあまり前に出てきて喋ってはいないのだが、ソアラにTRPGを教えたのは彼であったりする。(そしてそれはソードワールドであった)
 当然、彼らはGMとしての経験もあるし、多くのシナリオを作り、遊び、また成功、失敗をしているだろう。
 このSession08、09は、そのようなプレイヤー達が集まっているために、成功していると言っても過言ではない。この中で、ラゼット、ジニーは良くついてきていると誉めるべきですらある。(ジニーはSession08の盗賊ギルドでのシーンであまり前に出られなかったのを悔やんでいたようだが)

 このロングキャンペーンが、現在まで、大きな破綻もなく続いているのは、彼らであったからだと言っても、過言ではない。
 もしもプレイヤーが彼らのような経験者でなければ、シナリオはもっと簡単なものであっただろう。

 さて、プレイヤーたちをひとしきり持ち上げて、「初心者には無理だから止めておけ」と言っているわけだが、実の所、経験者ばかりが集まっても、破綻する可能性は大きいのである。
 それは、言うなければ「お約束」を出来るかどうかなのである。

 極端な例をあげよう。
 Session09で、クリスと対峙したプレイヤーたちの行動は、皆「クリスを無力化する」であった。
 だが、この行動は「お約束」である。
 あの場面で、ジェダ、ジニー(アルスはいなかったが、アルスもだ)は、クリスを無力化する理由がないのである。ジェダは「ウィルさんが突入前のブリーフィングでカミングアウトしてくれていたら、もっと絡めたのかなぁ」というような事を言っていたが、まさにその通りで、彼らはあそこで(戦力差から戦いを回避しようという判断はしたとしても)クリスを積極的に無力化しなければという思いはないのである。特に「経験者」であれば、この選択をとる可能性はある。なぜならば、プレイヤーは知っていても、キャラクターは知らないのだから。

 だが、彼らのそのような行動を取ってはいない。ウィルの「誰が妹か気づいたん?」に対して、ジェダとアルスは「察した方向で」と言い、ソアラなど、「しらん」と言い切っておきながらも、「リジェルが人を殺している手前、不殺のつもりであるので」と無理矢理に理由づけている。

 もしもTRPGが小説なのであれば、これは普通の展開である。
 だが、TRPGは小説ではない。キャラクターはGMの駒ではなく、またGMの脳から生まれたものでもない。どのような行動を取るかは、予想こそできても、管理することは出来ない。ここで「クリスが殺される」という話も(それはミッションとしては失敗であるが)、不可能ではないし、無限の可能性を持つTRPGのセッション中では起こりうるのである。
 だが、彼らはそのルートを選択していない。

 何故か?

 その方がストーリーとして美しく、そして「それをGM、及びプレイヤー全員が望んでいるはずだ」と、思ったからである。
 頑なに戦い続けてもいい。TRPGはそれが出来る。そして凝り固まった思考の熟練者であれば、むしろそうするかも知れない。だが、彼らは熟練者でありながら、「お約束だしな」と心のどこかで思い、GMのシナリオに乗っていっただろう。
 この気持ちが顕著に表れているシーンは、ラストのジェダのライトニングのシーンである。

 ラストシーン、ジェダはライトニングを撃つためにドゥアンから精神点を貰い、船へと放つ。
 この時、ジェダはそのライトニングによって、船が足止め出来るとは、ハナから思っていなかっただろう。たとえ出来たとしても、リジェルとの戦いはないと予測していたはずだ。GMもここで「全部却下じゃー」と言っているが、それは当然で、それに対してオルスの「GMが帰ってこないと言っているので、何をしたってありです」というのも、双方の信頼関係が成立している証である。会話にはないが、全ての参加者たちは「すでにイベントシーンだな」と認識していたし、ジニーの「10回くらい回れば、船ごとリジェルを爆砕!」に対してソアラが「それが出たら、GMは泣いてくれ」という会話も、たとえ10回クリティカルが続いて船を破壊するほどのダメージが出たとしても、GMが「今のなし」と言えば「ちぇー」で終わる話だっただろう。(このプレイヤーたちなら、そのまま続けてシナリオ毎変えそうな気もするが)

 このような信頼関係が成立し、そしてその信頼関係がストーリーを円滑に進ませるようになるのは、非常にまれである。
 そして、それは必ずしも次のセッションにまで続くものではない。言うなれば、まさにTRPGらしい、「ただ1回のセッション」と言える。

 手鏡亭に戻ってきてからのオルスの台詞。「でも、問題はまだまだありますが、昨日よりは皆との絆が強まったような気がします。というのは、言いすぎですかね」というのは、まさにプレイヤー、キャラクター、そしてGMという、全ての参加者たちに当てはまる台詞であったと言えよう。

オンラインセッション上でのロールプレイ

 Session08、09の特筆すべき点は、やはりロールプレイであろう。
 コソンボに始まり、ドゥアン、そしてウィルと続いていったロールプレイのキャッチボールが、Session09で、ひとつ上のレベルに昇華していったと言えるだろう。

オンラインだから出来る事と、でも出来ない事

 是非ともプレイヤーたちに聞いてみたいのだが、このプレイを、オンライン以外のセッションで出来るだろうか。
 彼らはきっと苦笑するだろう。
 頑張れば出来る。しかし、頑張らなければ出来ない。
 きっとそうだ。

 すでに幾度となく触れてきたが、オンラインセッションではプレイヤー同士の顔が見えない。
 見えないからこそ、様々な思いは伝わらない。その代わりに、見えないからこそ、このようなプレイが出来る。
 顔をつきあわせてのプレイでは、恥ずかしくてこんな台詞は言えないかも知れない。いや、頑張ればできるだろう。しかし、なかなか難しい。
 オンラインでは、そんな台詞も、すらすらと言える。顔が見えない分、キャラクターになりきれるのである。
 このSession08、09等は、オンラインであったからこそ出来たセッションであろう。私も何度かのGM経験があるが、このようなセッションは、仕掛けていったことこそあるが、成功した経験は、ほとんどない。

 オンラインであればこそ出来た。
 だが、もちろん、オンラインであっても、恥ずかしさはあったはずだ。
 Session08のソアラのラストシーンなど、やってもいいかとGMに聞き、やることになったまでは良かったが、その先でさてどうしようと考えた。実の所、台詞も何も思いついてはいなかったのである。とはいえ、考えている時間もそれほどあるわけではない。考えている時間はイコール、オンライン上で皆が待っている時間であり、暇な時間である。焦りと緊張の中、台詞をタイプした。
 そしてシーンの終わりにソアラが言ったのが、「まだ、270秒経ってないよね!?」である。

シリアスタイマー

 言わずと知れたシリアスタイマーは、シリアスシーンと共に「浪費」される、本セッション特有のローカルアイテム(用語?)である。
 なんでもこのタイマーは人によって1つあたりで実現可能なシリアス時間が違い、ドゥアンなどは消費なしでシリアスが出来るというのである。ソアラに関しては、かなりの勢いで浪費するらしい。

 馬鹿げた話である。
 だが、シリアスタイマーがSession08、09に与えた役割は大きい。

 彼らはこのシリアスタイマーの存在によって、どんなにシリアスなシーンをしても、また、そのシーンが(悪い言い方だが)滑ったとしても「シリアスタイマーが」の一言で笑い話に変換できた。
 このシリアスタイマーの存在による精神的な支えは大きい。言わば、このセッションでは(少なくとも08と09においては)「なーんちゃって」という台詞と同じものをシリアスタイマーが受け持ってくれていたのである。そしてそれは必ず笑いに変換出来ることを保証していた。
 故に、彼らはその支えによって誰かのロールプレイを受けてロールプレイをし、そこでシリアスタイマーによって軽く笑いを取って心をほぐし、そして次の人もまた同じ事をするというサイクルをセッション内でうまく作り上げていっていた。

 顔が見えていない分、シリアスなシーンのロールプレイも、オンラインセッションは従来のセッションよりも敷居が低い。
 だが、敷居がないわけではない。
 その低くなっている敷居を飛び越えるために、何かが必要になるのだろう。

 彼らの場合は、それすらも笑いに出来るシリアスタイマーであった。(「ぎっぷるくるよー」というのもあったが、あれは少々、彼らには効果が強すぎたようだ)

 それが各セッションの中でどのような物であるか、それは、GMとプレイヤーたちで探していくべき物であるのかも知れない。
 そしてそれを見つけ出し、参加者たちが十分な経験を積んでいる時にこそ、このSession08、09のようなセッションが成功するのであろう。

 わたし、それでもちょっと滑ってたけどねッ!! 次回次回!