studio Odyssey



『ふたり』。


 風を生む魔法陣の奥にいる魔導士を見据え、ドレイクはドクロの奥に怪しげな光をゆらしながら言う。
『死を、選ぶか?』
 ドレイクは腕を振るった。闇の者を包む魔法の力が、それに合わせて強くなる。
『我が不死の兵に加われば、その力、有意義に使えたかも知れないものを』
「よけいなお世話だ」
 杖をつきだしたまま、スピットは口許を曲げてみせる。大魔法といえども、コイツを倒せる可能性は薄い…時間さえ稼げりゃ…
「スピさん!」
 風の渦巻く中、スピットの後ろへと、アピが駆け寄ってきた。彼女は手にしたバイブルを括り、素早くドレイクに手をかざして、祈りの言葉を発する。
「レックスデビーナ!!」
 それは魔法を封じ込める祈りの言葉。アピの声により召還された天使が、ドレイクの身体を包み込む。
『無駄なことを──』
 しかし、ドレイクはその召還天使を五月蠅そうに片手で払いのけた。光の天使が、ふっと闇の前にかき消えた。
「効かない!?」
「効いたら、苦労しねぇよ」
『そうか』
 言う二人に、ドレイクは笑った。いや、その顔はドクロのそれだ。表情などない。しかし、スピットたちには、そう見えた。
『巫女とそして、護る者か──哀れなことだ』
 巫女──?
 護る者──?
 一瞬の集中の乱れに、スピットの生み出した魔法陣がいびつにゆがんだ。ばちりと、その乱れにずれた空間で、雷がはじけた。
「…やべっ」
 思わず口にする。考え事は、全部終わった後だ──!!
 再び腰を落とすスピットに、魔法陣の輝きが応えた。
 しかし、ドレイクはその一瞬の隙を見逃しはしなかった。コルセアの奥の目が、禍々しい光を強くした。『──こいつ』
 スピットの詠唱が、最後を結ぶ。
「その偉大なる力をもって、我が前に立ちふさがりしものたちを、今、撃ち砕かん!」
 ドレイクの声が、脳に響いた。
『替え玉か?』
「くたばれ!!」
 その声を発したのは、スピットではなかった。
「んな──!?」
 スピットの視界の中に、ひとりの騎士が飛び込んできた。「マグナムブレイク!!」騎士が発した声に、船尾の壁が吹き飛ぶ。
「──ドレイクっ!!」
 スピットの、そしてドレイクの魔法の力がはじけようとした瞬間に、ひとりの騎士が船尾の壁をたたき壊し、闇の者へと躍りかかった。揺れる炎に、握られた両手剣がきらめく。巻き起こる風にたなびくマント。騎士の剣が、闇を裂いて、ドレイクへと振り下ろされる。
「ボウリングバッシュ!!」
 ドレイクの声が脳に響く。
『──そこにいたか』
 きらめく剣が振り下ろされた。
 衝撃が船体を駆け抜ける。はじけた光と風が、空間を裂いた。ぎしりと何かが軋み、スピットの立つ床が揺れた。
『ウォーターボール!!』
 光の中から、再び声。
 海が、意志を持ったように天に向かってうねりと共に立ち上がる。そして生み出される、無数の水球。白い帆船は、ついに荒れ狂う波の力に押され、船体を二つに折った。
『闇の海に沈め』
「く──」
 剣は、ドレイクの右手に受け止められていた。爆風にたなびくマント。ずれたコルセア。その奥の、肉のない顔が、恍惚の表情にゆがんだ。
『時は、真実を明かすときを迎えたのだ』
「させるものか!」
 騎士はドレイクの右手を払い、再び剣を構え直す。躍りかかる。
「真実は、歴史が決める!」
『死に生きる、人間の戯れ言』
 振り払われた腕を、ドレイクは軽く振るった。水球が弧を描き、騎士の身体に炸裂した。はじけ飛んだ水の固まりが、風に散った。
『我らが魔女の手によって、愚かな人間たちの前に、真実は明かされるのだ』
 騎士の身体が、炎の照らす黒い海の上へと、投げ出された。


「フレックスさん!!」
 女の声。
 アピが振り返る。
 スピットも、視界の端に彼女の姿をとらえた。
 割れ、砕けた船尾。海中へと没していくその壁の向こう──揺れる、翡翠色の髪。
 聖職者の衣を身にまとった彼女が、砕け散った壁に手を添え、闇の海に向かって叫んでいた。
「フレックスさん!?」
 よく似た声。
 よく似た顔立ち。
 同じ、翡翠色の髪。
 ドレイクが腕を振るいながら、言った。『巫女よ、案ずることはない』
 うねりと共に水球が彼女に向かって襲いかかる。
『お前もすぐに後を追うのだ』
「アピ!!」
「はいっ!」
 バイブルを手に、アピは駆け出す。海中へと沈んでいこうとする船尾へと、力一杯に飛び移った。手を伸ばす。彼女の手を掴む。
 うり二つの顔が、片方は驚きに目を見開く。
 うり二つの顔が、片方は小さくこくりと頷いた。
 水球が、彼女たちに迫る。
「アブ、グリ!!」
 スピットは叫んだ。
「行くぞ!!」
 三人の魔導士が生みだした魔法陣が、同時に力を解き放った。
「ロードオブヴァーミリオン!!」
 風の魔法は大地を揺るがす大爆発を。
「ストームガスト!!」
 氷の魔法はすべてを凍てつかせる空間を。
「メテオストーム!!」
 そして火の魔法は巨大な隕石を、闇に向かってたたき込んだ。


 風がすべてをかき消す。ドレイクの生み出した水球も、すべての音も。
 ついで生み出された絶対零度の空間が、闇の者の意志を、動きを、海を凍てつかせ、降り注いだ無数の火球が、その場所にあった闇の力の何もかもをうち砕いた。
 闇の船のマストが、折れた。
 船体が砕け、悪魔の悲鳴にも似た音を発しながら、その力の前に傾ぐ。船首が漆黒の空を指す。生まれた渦に、船が──巨大な闇の力が──飲み込まれていく。
『おのれ──』
 闇の向こうから聞こえた声に口許を曲げ、スピットは視線を外した。
「素直に、海の藻屑になりやがれ」
 そして駆け出す。食堂の床に落ちていた自分の帽子を拾い上げ、頭に乗せながら、眼前の海へと向かって。
 巻き起こる渦の生み出す音と、軋みながら沈んでいく船の音にそれはかき消されてしまったが、スピットは海に向かって、飛び込んでいたのだった。
「助けに来ました」
 静かに言う彼女の声が、彼女の鼓膜をゆらした。
「あなたは──?」
「急げ!!」
 誰かが、自分たちが乗っていた船の船尾から叫んでいた。
「渦に飲み込まれるぞ!?」
 アピは振り向いた。
 漆黒の海に生まれた巨大な渦は、自分たちのいる船尾を飲み込み始めている。ここはもう保たない…はやく戻らないと…
 今ならまだ、なんとか崩れていく床をたどって戻れそうだ。あまり体力や運動神経には自信がないけれど──やるしかない!
「行きますよ?」
 自分に向かって言いながら、アピは彼女を腕を掴んだ手に力を込めた。びくりとして、彼女が目を見開いた。
「フレックスさんが!?」
 渦巻く海に、アピの手をふりほどこうと、彼女は振り返る。
「落ち着いてください!」
 言うけれど、誰にでもわかる。魔法の力の前に意識を失ってしまっていたとすれば、この渦に飲まれたら──
「世話の焼ける、ナイトだな!!」
 彼女たちのいる床に、にょきりと海から伸びた手が言った。手には、アピには見慣れたいつもの帽子が握られている。
 彼女たちの眼下の海面に、二つの頭が飛び出してきた。
「フレックスさん!?」
 彼女たちが同時に言った。
「いやマテ、アピ。お前くらいは、俺の名前を言え」
「大丈夫ですか?」
「意識を失ってるが、死んじゃいねぇ」
 スピットは騎士の横顔をちらりと見た。年の頃は、自分と同じくらいだろうか。最も、冒険者なら、自分と同じくらいの歳の人間はごまんといる。そう珍しいことじゃない。けれど──少し引っかかる事があった。
 巫女とそして、護る者──?
 思考を始めようとする頭を振るい、「とりあえず、今は助かることだ!」言う。パーティの仲間たちにだけに届く、魔法の力を借りた伝達手段を用い、
「誰か、こっちを手伝ってくれ!騎士がひとり、気を失ってる」
「気合いでなんとかしろ!」
 アサシン、ラバの声が直接脳に響く。
「なにを!?貧弱魔導士ナメンナ!?重くて動けるか!!」
「じゃあ、死ね」
「マテェイ!!」
「スピ!そこに、巫女って女の子はいますか!?」
 アブの声。スピットはアピの隣の彼女をちらりと見て、言った。「ああ──」
「たぶん、彼女だ」
「その子を、なんとしても護ってください!」
「そのつもりだ」
「スピは死んでもいいんで」
「マテヤ!?」
 スピットは言う。
「まゆみ嬢、いるる、ウィータ!助けに来い!!」
「巫女萌えっ」
「俺か!?」
「今、私も呼ばれたような…」
 三人が、船尾から沈みゆく船へと飛び移った。軽い身のこなしのアサシン二人に、同じく身軽なハンターひとりが、器用に沈んでいく船の甲板を飛び移りながら駆けていく。
 その後ろ姿へ向かって、海域を離れていこうとする船の上に避難した、沈みゆく船の乗組員たちが声を上げていた。
「ユイ様は!?ユイ様はどうなった!?」
「ユイ様は、なんとしてもお救いせねば!!」
 今にも、三人に続いて駆けだしていきそうな彼らに向かい、
「落ち着いてください!」
 アブが言う。
「必ず、助けますから!!」
「あ──っ!?」
 しかし、何人かが船尾から飛び出し、すでに甲板を走り出していた。
「せっかく助けたのに!?」
 あおいるかがショックというように、目をまん丸にしていた。
 ラバが、ぽつりと続いていた。「興味があるな──」
「そーまでして助けたい女の子ってのにも」
「男の子だったら、ないくせに」
「そりゃそうだ」
 軽く笑って、ラバもまた甲板へと向かって飛び移った。


「船尾の室内に、私たちの長老がいるんです!」
 ユイという名の彼女は、なんとか騎士と共にはい上がってきたスピットに向かって言った。
「長老を助けてください!」
「…無茶な」
 スピットはぽつりと呟く。その彼の背後の壁に、矢が一本、しゅんっと突き刺さった。矢にはロープがくくりつけられている。そしてそのロープの先を視線でたどると、ウィータがいた。
「早く!沈むよ!?」
 彼女の声が届く。ロープの端を持って、いるるがせかすように手招きをしていた。
「行きましょう」
 アピが、ユイの腕を再び掴んだ。
 ロープを器用に渡って、三人の元にまゆみ嬢がやってくる。「巫女!巫女!!」と、飛びつこうとした彼女を、スピットが横から蹴った。「とりあえず、後にしてくれ」
 渦は、もうすぐ足下にまで迫ってきていた。
 巨大な黒い闇の船は、すでに半分以上、海水に没している。あの船が沈みきってしまえば、次に渦に巻かれるのはこの船に相違ない。そして、船体を至るところを傷つけられたこの船が沈みきってしまうのに、そう時間はかからないだろう。
「早く!!」
 ロープの向こう、いるるが叫ぶ。
 その声をかき消すかのように、
「私の命は、いいんです!」
 ユイが叫んだ。
「長老を!長老を助けてください!!」
「…無茶な」
 水に濡れた頭に、ぬれた帽子を乗せながら、スピットは眉を寄せた。ウィータ、いるるの待つ床の方に現れたこの船の乗組員たちの何人かが、声を上げていた。
「ユイ様!」
「早くこちらへ!!」
「ユイ様は、生きなければなりません!」
 スピットはため息混じりに、言った。
「あっちはあんたを助けてくれという──んでもって、あんたは自分はいいから、この騎士やら長老やらを助けてくれと言う」
 騎士の身体をまゆみ嬢に預け、スピット。「ちなみに、この騎士さん、栗毛で端正な顔つきで、意識を失っているが、悪さをしないように」「むはー!?」
「アピ、彼女を連れて行け」
「はい」
 ユイの手を取り、アピはロープに手を伸ばした。ユイがスピットに向かって、抗議の視線を投げかけたが、スピットは口許を曲げて、帽子をなおしただけだった。
「誰も彼も助けてくれなんて、虫がよすぎる。人間、どんなにつえぇ奴だって、本気で助けられる人間なんか、ひとりがいいとこだ」
 そして、言った。「俺は、あんたを助ける」
「ついでに、その騎士と長老ってのも、助けてやらんこともない」
「──あ」
「行きましょう」
 アピ、そしてユイ。続いて騎士を腕の中に抱きながら、「くんくん」「犬かよ…」まゆみ嬢がロープを渡っていく。「さてと──」
 スピットは帽子を直し、握りなおした杖で背中を掻いた。
「なーんか、面倒事に巻き込まれた気がすんな…」


「──魔物の襲撃だ」
 声は、軋み続ける船体が発する音の中で、相手に届いたかどうかはわからなかった。
 船室には紅い光が揺れている。
 ランタンの生み出すそれと、砕けた壁の向こうから差し込む、赤々と燃える炎のそれだ。
「そうか」
 沈みゆく船の最奥。
 傾いだ船室の床の上に、安づくりの木のベッド。
 その上に横たわった老人が、ゆっくりと言った。
「ユイ──は?」
 老人は言葉をはき出すだけで、ぴくりとも動かない。閉じた目を、開けもしない。まるで死を悟ったかのように、老人はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ユイは、逃げおおせたか?」
「その、彼女から、直々に頼まれた」
 魔導士は、頭の上の帽子をちょいとなおした。
「自分の命なんかいいから、あんたを助けてくれってよ」
「優しい子だ」
 ぽつりと、老人は小さく呟いた。
「自らの『運命』を知りながらも、皆のために尽くす──ユイは、本当に優しい子だ──」
「そうか」
 口を曲げ、スピットは帽子をなおした。
 がくりと、船が大きく揺れた。
 すぐ近くで、何かが砕けたような音が響き、闇を震撼させるような、悪魔の遠吠えに似た音が、鼓膜をゆらした。
「この船は、沈むな」
「ああ、沈むだろ」
 帽子を押さえながら、スピット。揺れる船室の壁をたどって、老人の元へと近づく。「たぶん、もうすぐにな」
 そしてその老人の身体を、彼は無理矢理に起こした。
「──何を?」
 老人は、つぶやきと共に咳き込んだ。わずかな身体の動きにも、老いた身体が耐えられなかったのだろう。スピットにもそれくらいはわかった。だが、スピットはそのまま老人に肩を貸し、揺れる船室を壁づたいにたどっていく。
「──君は、我らの民ではないな?」
「じいさん、目が見えないのか?」
「老いぼれの身体は、もうまともに動くところはない。かまわんよ──」
 老人は、静かに言った。
「私をおいて、行きなさい」
「──本当は、そうしてぇとこだ」
「そうだ──そして、二度と我が民に関わり合うのではないぞ」
「──面倒事にはね」
 スピットは口を曲げた。
「冒険者やってんで、なれてる」
 ごうんという、腹に響く大きな音が空間をゆらした。
 その音に続くように、傾いだ船室の中へと、勢いよく水が流れ込んできた。流れ込んできた水が、老人を支えたスピットの身体を打つ。水流に押され、ふたりは壁際にまで押し戻された。
 しかし、どんっと背中を打ち付けたのは、スピットだけだった。咄嗟に老人をかばったスピットの頭に乗っていた帽子が、水流に飲まれて、何処かへと流されていった。
 壁が割れた。
 月明かりが差し込んでくる。
 漆黒の海に、巨大な闇の船が、今まさに、そのすべてを飲み込まれんとしていた。
「──私をかばうことはない」
 老人の声。
「君は、行きなさい」
「ユイって、言ったっけか?」
 ちらり、スピットは闇の向こうを見た。渦潮が姿を消している。それは力を爆発させる寸前の、一瞬の静寂。
「俺のよく知ってる奴に、よく似てる」
 だから、スピットはその静寂の中で、しっかりと老人に聞こえるように言った。
「俺は、その優しさとかを裏切る奴は、男の子じゃねぇなと思うな」
 響いた海鳴りの咆哮と共に、スピットの身体を、波が飲み込んだ。


 漆黒の海に、巨大な闇の船はすべて飲み込まれた。
「あ──!?」
 それを見ていた甲板の冒険者たちが声を上げた。
 渦潮が急激に勢いを増す。
 海に、悪魔が口を開く。
 船が砕けた。
 木壁に突き刺さっていた矢が、支えを失い、宙を舞った。張りつめるその細糸の端を掴んでいたいるるが、目を見開いた。あわてて、ウィータが彼の身体を押さえつける。
 しかし、ロープを握るのは三人。うちひとりは、甲冑を身につけた騎士を抱いているのだ。
「うぉ!?」
「捕まって!」
 片手でいるるを押さえ、ウィータが手を伸ばす。伸ばした彼女の手に向かって、翡翠色の髪の巫女が手を伸ばす。
 届かない。
「ユイ様!?」
 乗組員たちが駆け出す。よりも早く、ひとりのアサシンが間を割って飛び出した。アサシンは引き抜いた短剣を左手に、海へと向かって滑り込む。
「捕まれ!!」
 ラバは自分の身体が宙に飛び出すのと同時に、左手に握りしめた短剣を甲板に突き刺した。急ブレーキがかかり、左腕が引きちぎれそうになるほど伸びた。短剣が甲板を裂く。ギリギリのラインにまで、切っ先が滑った。
 右手が、彼女の手を掴んだ。
「え──?」
 その時、彼は始めて彼女を見た。
「アピ?」
 ぎゅっと強く目を閉じた彼女の翡翠色の髪が、揺れていた。
 その小さな手の震えが、彼の右手に伝わってきていた。
「お──」
「あれ──?」
 その二人の後ろを、ロープを掴んでいたいるるとウィータが通り過ぎていったが、彼の視界には、まったく、入っていなかった。


「いやぁ、いるるんも来たね」
 宙に舞いながら──正確には落下しながら──まゆみ嬢。
「どぼーん。ですかね」
 同じく落下しながらも、マイペースに言うのはアピだ。
「マジカヨ!?」
「私たちの役回りって、いったい…」
 いるるとウィータ。ちょっと泣きそう。
「全速前進!海域を離脱する!!」
 自分たちの乗っていた船の方から、仲間たちの声。
「いるるさんやまゆみさんはともかく…」
「アピさんとウィータさんは…」
「立派だった!」
「ウォイ!?」
「痛みに耐えて、よく頑張った!感動したッ!!」
「全速離脱!!」
「ま──!?」
 海面に、水柱が四つ。
「そういえば、スピさんもいたけど?」
「素でわすれてたっ!?」
 船尾にいた仲間たちが、一斉に声を上げた。


 やがて、海はいつもと変わらぬ凪の中、朝を迎える。
 その夜の出来事など、なかったかのように。
 それは、千年続いた、この大地の、偽りの平和と同じように。