studio Odyssey



魔法士属性も勢いで。


「そんなわけで──だ」
 ここは古城、グラストヘイム。
 その入口。
 つまり、今の私たちにとっては、出口。その前に立ち、ウィザード、スピットこと、スピさんが言います。
「今回の我々のお話は、彼女を無事にゲフェンまで送りと届け、魔法士に転職させることらしい」
「はーい」
 アサシンのまゆみさんがぴっと手を挙げて言いました。「はいっ、まゆみくんっ!」
「それだけでは終わらなそうな気がします」
「キニスルナ」
 な、なんの話をしているのでしょう…
「お師さま、それよりも問題があると思います」
 そろりと手を挙げたのはウィザードのえぶちゃんです。
「この出口を出ると、プティマップです」
「ですね」
 うんうんと相づちを打つのはアサシン、いいるさん。
 プティというのは竜族のモンスターで、かなりの高レベルモンスターです。きっと、私なんか、一瞬で倒されちゃうんだろうなぁ…
「もーまーんたーい」
 フフリと笑ってスピさんは言います。
「いけ、斥候」
 と、近くにいたアサシン、ラヴァスさんこと、ラバさんのお尻を蹴り飛ばし、彼をグラストヘイムの外へと押し出しました。「何すんだ、ヴォケ!!」「ぷちっと死んでこい。ショボアサ」「うぉ!?なんじゃコイツはー!?」
「ショボセンパーイ!!」
 だっと、アサシンのシンティスさん──みんなはシン君と呼んでるみたい──がラバさんの後を追って、グラストヘイムの外へ。「うおおぉぉ!?あたらねー!!」「痛いっ痛いっ!!」
「さすが、ショボ」
 うむり、と頷きながら、ウィザードのアブドゥーグこと、アブさんが言います。
 って…あの、悠長にかまえていると、ラバさんとシン君、死んじゃうんじゃ…
「斥候、その二」
 ぱしりと、スピさんは手にしていた杖でペコペコのお尻を叩きます。
「俺ですか!?」
 鞍上のあおいるかさんこと、あおさんが目を丸くしました。
「がんがれー」
 笑っているのは、火魔法士の焼豚こと、グリル=ポークさん。それに、ハンターのウィータさんが続きます。
「あおさんなら、逝ける」
「逝くのっ!?」
 ショック!とあおさん。
「ああ、ごめん。誤字った」
「キリエエルレイソンっ!!」
 プリースト、アピさんが防御魔法を唱えました。きらきらと輝く光の衣が、あおさんの身体を包み込み──
「ガンバッテクダサイ」
 にこりと、迦陵ちゃんが微笑みながら手を振っていました。
「いってらー」
 スピさん、だめ押しの一撃を、ペコペコのお尻に思い切り振りかぶって、アタック!
「うわぁぁーん」
 駆け出すペコペコの上のあおさんの声──というか、悲鳴?──が、遠くなっていきました。「やってやる!俺はやってやるぞ!!」
 スピさん、ぽつり。
「んー、俺、ナイス采配」
「…特にないもしていないような?」
 アピさんがぽつりとつぶやいていました。


 それから数分。「さて、静かになったし、いくかー」と、スピさんが歩き出しました。
 続いて、パーティメンバーもぞろぞろと歩き出します。「あ、ソアラさんは私の近くから離れないように」「ぉー?アブきゅん、若い子に手をだそーとしてるね?」「ち、違います!いざというとき、アイスウォールで──」「閉じこめて、放置ぷれい?」「パパ?」「なんだね、えぶー!?そんな目でパパを見るなー!?」
 ともかく、私たちはグラストヘイムの城門をくぐり、外へと出ました。
 グラストヘイムの場内も気を抜くことができるような場所じゃなかったけど、外も決して、気を抜く──
「──大丈夫ですか?」
 私はそこに倒れていた三人に、ぽつりと聞きました。
 ラバさん、シン君、あおさんは、満身創痍と言った感じで、はぁはぁと息を切らして、草原の上にうつぶせていたのでした。(正確には、あおさんはペコペコの上で突っ伏していたんだけど)
「し…死ぬ」
 ぽつり、ラバさん。「み…みず…」
「はい」
 ぽい、スピさんは道具袋の中からホードというモンスターが落とす収集品、ミミズの皮をぽとり。「…」ばっとラバさん立ち上がり、
「てめぇ!」
 引き抜いた短剣をスピさんに向かって突き出します。しかし、スピさん、その動きを読んでいたかのように、手にした杖で受け止めて見せます。
 ぎりぎりぎり…金属のこすれ合う音。
「──俺は、そういうギャグは嫌いだ」
「ほほーう。じゃあオマエの高等ギャグが聞きてぇもんだ」
「ムリだろナー」
 目を細めているまゆみさんの後ろ、アピさんがヒールを他の二人にかけていました。
 プティマップを、あおさんを先頭に私たちはてくてくと歩いていきます。
「ソアラさん、でしたっけ?」
 私の後ろをとことこ歩いていたいるるさんが言いました。
「はい?」
「魔法士に転職って話ですけど、転職したら、スキル取りはどういう風にするんですか?」
「地プティ、キター!!」
 先頭を歩いていたあおさんの声。「うおぉぉ!」ラバさん、「センセー!空プティも来ましたっ!!」シン君、「うわ!囲まれちゃうよ!?」ウィータさんの声。はっと振り返る私に、
「えー、転職しないで、ノビたんのままでいよーよー」
 まゆみさんが言いました。
「ノビたん、萌え」
「馬鹿者!マジに決まってるだろうが!!」
 ぴたりと足を止めたスピさんが振り返って言います。「ノビたんだよー」「マジ子さん!」「って、援護、援護はこないの!?」「ぎゃー!?」
「あのー…あおさんたちは…」
 聞く私を無視して、スピさんはまゆみさんと「ノビ!」「マジ!!」を繰り返しています。
「ぶれすー、ひーるー」
「あの、アピさん?」
「はい?」
「あの…いつもこうなんですか?」
「いつもこうです」
 うわぁ…
「でだ!ソアラちゃん!!」
 スピさんがまゆみさんとの言い合いをやめて、私に向かって言いました。「いや、あの、スピさん?こいつ、めっちゃ固いんですけど?」
「君が望むなら、我々プロベンの四大属性魔導士たちが、君にとっくんをしてあげよう!」
「は、はぁ…」
「当然、氷魔法士ですよね、ソアラさん」
 と、アブさん。
「えー、地魔法ですよ。地味にみえて、実はすごく使える」
 えぶちゃんが、ぷっと頬をふくらませます。
「火魔法。これに限るよ。攻防共に優れた属性魔法!」
 焼豚こと、グリさん。「あの…グリさん、出来れば、地プティにファイヤーボルトなんかを撃ってくれると、とてもありがたいのですが…」「ファイヤーウォール!!」「あつ!?あつぅっ!?」
「すらっしゅ ふんっ」
 スピさんは帽子をなおしながら言いました。「庶民どもめ」
「魔法は風魔法に決まっている!最強の派手魔法こそ、風魔法の真価!!」
「風魔法は、伊豆限定じゃないですか!」
「んだと!敵を止めるしか脳のない、氷魔法が!!」
「その点、火魔法なら攻防ともに優れているネ。地魔法はウィズにならないととれないけど」
「でも、地魔法は属性による威力低下が少ないですし、数少ない前衛を護る魔法もあります!」
「風!」「氷です!」「火だよ!」「地ですってば!」
 と、魔法士の四人。めくるめく言い合いの輪廻を繰り返し──「はーはー…やっと片づいた…」「火武器もっててよかったですよ」「グリムトゥースやりすぎた…」「罠でSP使いすぎたかも」──前衛も勝負がついたようで…
「さあ、ソアラちゃん!」
 スピさんの声に、私は視線を戻しました。すると、四人の魔法士たちは一列に並んでいて、みなさん、むんっと胸を張って立っています。
「さぁ、どれ!?」
 どれ──って言われても…
「なるほど」
 ぽんっとまゆみさんは手を打ちました。
「このために、えぶちゃんは今回登場してるんだネ」
「どうなんでしょうね〜」
 笑いながら、アピさんは前衛ではぁはぁ言っている三人に、ヒールをかけていました。
「後方から、プティ接近中ー」
 しんがりをつとめていた迦陵ちゃんが口に手を当てて声を上げました。ぴくり、魔法士の四人が反応します。
「勝負だ…」
「いいでしょう」
「属性的には、オレっちが有利だけどね」
「みせてあげますよ…」
 一斉に四人が振り返り、手にしていた杖を突き出しました。「天と地に満ちる数多の風の精霊達よ!」「永久の時にも姿を変える事なき氷の力よ!」「すべてを焼き尽くし、永遠に回帰させし炎の力よ!」「母なる大地に眠りし、無限の力よ!」魔法士たちの身体の周りに、魔力のオーラが渦を巻きました。「我が前の敵をうち倒せ!」
「ライトニングボルト!」
「コールドボルト!」
「ファイヤーボルト!」
「アーススパイク!」
 四色の魔法が後方より迫っていたプティに炸裂しました。雷、氷、炎、そして大地から立ち上った鋭い岩石の隆起。すべての魔法は過たずにそのプティを貫き、一瞬にしてモンスターはその場から姿を消していました。
「──…」
 無言だったラバさんが、ぽつり。
「ってゆーか、それを俺たちの時にもやれ」
「仕様です」
「マテ」
 言ったいるるさんに、平手を返してラバさんは突っ込みました。
「さぁ!」
 魔法の力に舞い上がっていた砂塵が晴れると、スピさんはくるりと振り向いて言いました。
「どれ!?」
「え──」
「どれって言われても、そんなすぐには決められませんよね」
 軽く笑って、アピさんは言いました。
「ゲフェンまで、あと少しです。まずは、ゲフェンを目指しましょう」
「あ、この下、コボマップだったような…」
「お、あおさん、さすが。正解」
「いるるさん、前衛入ってください…本気で」
「えー…」
「風!」
「氷です!」
「火だよ!」
「地ですぅ!」
 目指すは魔法士の町、ゲフェン。
 憧れの魔法士に、私を転職させてくれる町。憧れの──
 四人の魔法士たちは、道中、ずっと言い争っていましたが、私の憧れの魔法士に転職させてくれる町──ゲフェンはもうすぐそこにまで迫っていました。