studio Odyssey



トリスタンの悪夢。




spit:「平和だなー。

 今日も今日とて、スピットは冒険の旅へ。

 目指すは、プロンテラより南西に位置する町、フェイヨン。
 道中の、広大なソクラド砂漠を渡り…


spit:「平和すぎて、眠くなるなー。

 ごろりと横になったまま、スピットは言いました。

志村、後ろ!?


 なにかいる!?

ミュータントドラゴンです


 ミュータントドラゴンは、中ボスクラスのモンスター。


 ここよりも遥かに南、コモド地方に住む、強力なモンスターです。


 ここはソクラド砂漠。

 プロンテラから南東地方へと向かう陸路の中でも、もっとも安全なルートです。


冒険者たちは、ばたばたと








 全滅。






 その出来事は、唐突に訪れたのでした。

 後に、『トリスタンの悪夢』と呼ばれた、人間と魔物たちの、
 歴史に名を残す、



 始めての総力戦の幕が今、


 切って落とされたのでした。




 それは突然に訪れた…
 聖ミッドガッツ王国を震撼させる大事変の一報は、義勇軍砦の建設に関する評議が進むプロンテラ城に届けられた。

「ゲフェンより帰還途中の北面旅団より入電!統率をされたモンスターの一団と遭遇、戦闘状態に突入。明らかなる"敵勢力"と判断された模様。移動方角から類推するに目標は首都プロンテラ!北面旅団は帰還不能、首都防衛の準備をされたしとのことです!」

 ざわついた評議の場に次々と届けられはじめた各地よりの伝令は、周辺地域に突如として現れ始めたモンスター達により、正規軍が苦戦を強いられているという実情、そしてその影響が一般民や冒険者までをも脅かし始めているという厳しい報告ばかりであった。

 国王トリスタン三世が恐れていた事態が今まさに起こり始めたのである。

「ええいっ!義勇軍の整備もこれからという時にっ!」

  机を大きく叩き、吼える騎士団長。そして静かにそれをたしなめる大司教。
 しかしその顔色には平素にはない焦りの色が浮かんでいた。

 王国が揺れている…御前に集う皆の視線は自然と玉座へと向かっていた。

 厳しい表情でじっと天を仰いでいた王は、ゆっくりと玉座より立ち上がり、重く、しかし強い意志を持った声で勅命を発するのであった。

「義勇軍は形ではない…いずれはこのような事態が起きると考えておったのだ。彼らの王国への、平和への思いに賭けるしかあるまい…」


「国中に伝令を発せよ!正規軍が満足に動けない今、ルーン=ミッドガッツの命運は各地に散った冒険者に掛かっている。王国の残された兵力を持って、彼らを支援せよ!」

 いま、聖ミッドガッツ王国に、大きな嵐が吹き荒れようとしている…


トリスタンの悪夢。


 ベンチに戻ったスピットは、「うぅむ」とうなり、腕を組みました。

spit:「モンスターたちの襲撃か…

 国中に発せられた国王、トリスタン三世の伝令は、スピットたちの耳にも届いていました。
 そして、この首都、プロンテラを行き来する冒険者たちからも、各地でモンスターが現れて始めていると聞いていました。

spit:「王国に、嵐が吹き荒れようとしている…

 屈強の冒険者たちは、我先にと、戦場に駆けだしていきます。
 ここ、プロンテラのポタ広場は、そんな冒険者たちであふれかえっています。


spit:ま、俺にはカンケーないか。


Hisato:「ないの!?

karyo:「こんにちわっと。

 ちょいと帽子を直すスピットの視界に、迦陵ちゃん。
spit:「よ。
Hisato:「こんにちわ。


いつの間にか、髪を染めている迦陵ちゃん
spit:「…緑だ。


karyo:「緑にしてみました。

Hisato:「へっぽ…
spit:「言うな。*2


 迦陵ちゃんはベンチ前に座っていつもと変わらないスピットに、小首を傾げて聞きます。

karyo:「スピさんは、モンスター討伐に行かないんですか?


spit:「既に狩られた。


 さすが、パーティリーダー!


 スピットは口を曲げて続けます。

spit:「だいたい、襲撃してくるモンスターたちは、みんな中ボスクラスだぞ?俺たちだけで、どうにかなる敵じゃ…

Str:「おーす、久しぶり。

 と、そこに姿を現したのは、騎士のシュト。

不敵な笑み



spit:「前衛が…
karyo:「きた。




Hisato:「隠れていても、見えてますよ?
 と、久人さん。

「はっ!?
拉致とかいうな

 と、壁の向こうで反応をしたのは、鳥君さんの転職祭りに参加したときに一緒だった、アサシンさんです。

spit:「魔導士は、気配でわかるのです。


karyo:「とっかんだー♪



結局、することは一緒



 一行はパーティを組み、スピットたちがミュータントドラゴンと会ったソクラド砂漠へ向かうべく、プロンテラの南門を出ました。
 南門前は、いつもと変わらずに、冒険者たちでごった返しています。

 その時、ふっと、スピットの目の前にひとりの騎士が現れました。「つえぇぇ…」と、ぽつり。

情報収集






「ソクラド砂漠の西で、キメラが出ています。




spit:とつげき。


みんな:「ラジャー!!


 行き先は決まりました。
 目指すは、ソクラド砂漠、西。

 キメラならば、以前に一度戦ったこともあります。
 もしかしたら、勝算も…



出た!?


spit:グリフォンだし!?


Hisato:「ぐ、グリフォンって、属性なに!?
Str:「しらん!
アサシンさん:「か、かわせないー!?
karyo:「あたったら、即死するー。*3


ちーん


 はやっ。



spit:「…くそぅ。

 と、呟くスピットたちの近くに、アサシンとプリーストのペアが通りがかりました。

「な、なにが?」
Str:「グリフォンがいます。

「グリフォンか…
 アサシンは「ふむ…」と小さく喉を鳴らしました。「それは、やっかいだな…」

「あの…」

 と、プリーストの彼女はスピットたちを見て、言いました。

「起きます?」

spit:「起きますっ!!
 スピットは勢いよく返しました。
Str:「いいんですか?
 聞くシュトに、彼女はにこりと笑って言います。

「かまいませんよ。どうせ、ブルージェムストーンは戻ってきますし」*4
spit:「はい?

 聞き返すスピットに向かって、彼女は微笑みを絶やさずに言いました。

「今回の魔物襲撃事件は、この事件が落ち着いたときに、すべてミドカツ王国から襲撃事件前の状態に戻るように、アイテム、経験値、その他すべてが支給されるのです」

戦え、冒険者たちよ!

 彼女の祈りの言葉が響きました。

 召還された天使が、スピットたちの身体に再び活力をみなぎらせます。



spit:「つまり…

 帽子をちょいと直し、スピットは言いました。


spit:「いくら無茶やってもOK!!*5

再び!



 リベンジ!!




そして、再び!







 結果は一緒でした。



karyo:「うぐぅ…
spit:「生き残ってる!?

karyo:「全滅したら、起きられないし…
spit:「よし、んだらば起こせ。再戦。
Str:「三回目かよ!?

 ひとりグリフォンから逃げ、生き残った迦陵ちゃんが、今度はイグドラシルの葉で皆をよみがえらせます。

 しかし、蹂躙し続けていたグリフォンも、その後にやってきたパーティの前に敗れ、砂漠には再び平穏が戻ってきました。

さすがのパーティ


aoiruka:「ちわー。
spit:「お、あおさん。

 休憩を取っていたスピットたちのところへ、騎士のあおいるかが姿を現しました。
 パーティ情報に皆の位置を確認し、追いかけてきたようです。

aoiruka:「すごいことになってますね。
spit:「ああ。
karyo:「死にまくり。

aoiruka:「でも、死んでもペナルティとか、全部戻るとか。
Hisato:「らしいですね。

aoiruka:「スピさん…
spit:「ん?


aoiruka:死んでますか?


ぽっくり逝きまくり





 死にすぎ。*6



spit:「よし、とりあえず、ベンチに戻って、対策を練ろう。

 スピットが言います。

spit:「敵も、今回はどうやら総力戦のようだ。俺たちも、万全の準備を…


また出た!?

 敵の包囲は万全です。


 そしてプロンテラベンチのメンツもまた、




また死んだ!?





 覚悟完了。





 やがて、ミドカルド大陸に散った冒険者たちの報告が、放送局の電波により、冒険者たちの耳に届き始めました。*7




 …首都周辺警備隊より入電!
 モンスターの急襲によりカピトーリナ修道院を制圧された!
 モンスターの一団は思いのほか強く我が軍は……ぐぁ…や、やめ……
 ピッ……ガッ……ガガガガガ……ガガッ…

 ミョルニール山岳警備隊より入電!
 普段確認することのないモンスターの一団を発見!!
 現在の所、移動する気配はみられないが引き続き監視を行なう!

 ゲフェン魔法ギルドより入電!
 水晶に巨大な黒い影が映し出されました!
 黒い影は町を飲み込み、災いをもたらそうとしています!
 災いは近い!各々注意を怠らずに街の警備を固めてください!

 砂漠を横断中のキャラバン隊より入電!
 見たこともないモンスター達を発見!
 その後については見失ってしまい不明…

 プロンテラ付近、上空に不審な7つの影を発見! 飛んでいます!
 雲だ! 鳥だ!  いや……
 ………な、なんだあれ………?
 悪魔か神か…!! 何かが起こりそうな予感です!

 フェイヨン森林警備隊より入電!
 フェイヨン付近に邪悪な気配が立ち込めている!
 森に住む動物達も影をひそめ、不穏な空気が漂っています。
 先日のパトロールで巨大な二つの影を確認しています!
 現在確認を急いでいます!

 ピラミッド調査隊より入電!
 ピラミッドからモンスターが溢れる様に続々と外へ出てきています!
 モロク周辺住民の方は注意してください!

 ルティエ村、タシンチェおばさんより入電!
 あら…もしもーし………ちゃんと聞こえてるのかしらこれ?
 最近街の外にトナカイの真似して赤っ鼻付けた悪趣味な変態がいるんだけど、あれ早くどうにかしてくれないかしらねぇ…まったく!
 これじゃ安心してキムチが作れないじゃない!
 頼んだわよ!

 グラストヘイム監視団より入電!
 グラストヘイム内に漆黒の騎士を複数確認!
 まるで誰かを探すかのように同じ場所を彷徨っています。
 引き続き監視を行ない詳細が分かり次第報告します!


 こちらはミッドガッツ放送局です。
 突然ですがここで放送をお聞きの皆様にご案内をさせていただきます。

 この度、ミッドガッツ放送局では放送網を拡大し、ミッドガルド大陸全域に放送する手段を確保することに成功致しました。
 これにより『ミッドガルド放送局』と名前を新たにすると共に今後、新天地を含めた大陸全域に様々な活動を展開する予定です。

 今回の緊急事態に関しましても、緊急放送体制をとり、随時、最新情報をお伝えしていく所存です。




 その出来事は、のちに、『トリスタンの悪夢』と呼ばれ、歴史に名を残すことになりました。



 しかし、冒険者たちは誰も、この歴史上の名を覚えてはいません。
 教科書に載っている歴史は、『トリスタンの悪夢』


 しかし、冒険者たちは、
 この出来事を目の当たりにした冒険者たちは、

 皆、この出来事をこう呼ぶのでした。


そして、始まる…




 『カーニバル』





 実に5日にも及ぶ、冒険者たちの祭りが今、始まりました。*8

祭りの始まり


*1 トリスタンの悪夢。トリスタンというのは、ミドカルド王国の国王の名前。トリスタンの悪夢は、今回のこの一大イベントの名称。今回のこのイベントは古参4サーバ、Chaos、Loki、Iris、Fenrirでのみ行われた、移住イベント(新サーバへのキャラクタデータの移植)の一環として、行われました。
 前出の文は、このイベントのバックグラウンドストーリー。
*2 ベンチ、緑化計画。(嘘)
*3 グリフォン。魔獣。キメラと同じく、コモドで追加された中ボスクラスのモンスター。本当は、サンダルマン遺跡にでる。
*4 ブルージェムストーン。通称、青ジェム。いくつかの魔法を使うのに必要で、使うとなくなる。だいたい、露天で460zくらいで買える。
*5 今回のこのイベントは、通称、ロールバックイベントとも呼ばれ、ゲームデータが移住受付完了の7月1日に、開始直前のデータ(6月27日)に戻ることが保証されていた。つまり、いくら死んでもペナルティはなく、どんな価格でアイテムを売ろうと損はなく、そんなイベントだったのです。
 ちなみに余談ですが、死ぬと、ペナルティとして経験値が1%さがります。スピットはいつも死んでますが、まぁ、あんまり気にすんな。
*6 日記には載っていないところで、1回死んでます。
*7 GMメッセージ。ゲーム内、すべてに届くメッセージを、今回は放送局の形をとって告知していた。
 ちなみに、この下にあるメッセージは、実際にこのイベントの開始時に流れたメッセージ。
 っていうか、キムチって!?
*8 と、言うことで今回から数回に渡り、『カーニバル』イベントを展開して行きます。
 お見逃しなく!

*おまけ
 最後のSSにいるキャラクタが全員わかる人は、マニアです。
 っていうか、全員わかる人って、いんのか!?