studio Odyssey



その名は、spit!



 ルーンミドカツ王国の首都、プロンテラ。
 その街にあるベンチの前に、ひとりの商人がとことこやってきました。

 商人の名は、萩帆。
 彼女はよいしょと、ベンチの前に露天を広げます。

syu-ho:「やすいよぉー。

 と。

syu-ho:「各種装備品、回復薬、大安売りだよー。そして目玉商品はなんといっても…


syu-ho:萌える赤ポ〜。



 萌えかよ!?

 首都プロンテラは、冒険者たちでごった返していました。

 と、いうのも、新しく施行されたプロンテラの法律で、冒険者たちは皆、冒険をするのにプロンテラ王宮に申請、納税をしなければならなくなったのです。
 今日はその法律か施行されてから、初めての日曜日。*1

 首都は冒険者たちで、あふれかえっていたのでした。


syu-ho:「大目玉商品はこちら〜。特製、プロンテラベンチの萌える白ポ〜!

通りすがりの魔法使い:「なんで、萌えるんですか?

syu-ho:「精製方法が萌えるからです。

通りすがりの魔法使い:「はぁ。


 …プロンテラベンチは、今日も平和です。*2

その名は、spit!


 さて、そんなこんなで、萩帆が商売にいそしんでいた時でした。

「あ、あのー」

 と、彼女に声をかけるノービスの冒険者がいました。

syu-ho:「芋は萌えません。にんじんは萌えます。

ノービス:「いや、意味わかんないッス。

 そりゃそうだ。

 首を傾げる萩帆に、ノービスの彼はいいました。

ノービス:「えーと、萩帆さんですか?
syu-ho:「そーですよ。

 萩帆はちょっとびっくりしました。
 見ず知らずのノービスさんに名前を知られているなんて、私もずいぶん有名になったなぁと。

ノービス:過激派の。


syu-ho:( ゜д ゜!!


 その名の知しられ方は、かなりです。

syu-ho:「あぅあぅ。そんなことはないです。だって、今はもー、卵殻帽子もかぶってないし、マスクもしてないし、サングラスもしてないし、赤ポは燃えるから、萌えるにかわったし…

 あせあせと萩帆は言います。
 前の格好では、プロンテラ騎士団に捕まるので、冒険者申請が出来なかったのは内緒です。*3

ノービス:「あ、すみません。

 ノービスの彼は言いました。

ノービス:「あの、俺、『プロンテラベンチのゆかいな仲間たち』を読んだんで…

syu-ho:「おお、イブたんの本。

 萩帆はぱあと顔を明るくしました。

 『プロンテラベンチのゆかいな仲間たち』という本は、この、プロンテラベンチから始まった、パーティ、プロンテラベンチの面々の冒険を書きつづった、日記のような冒険記でした。
 書いたのはそのプロンテラベンチのパーティメンバーだったひとり、アーチャーのイブリンです。
 小数部すられて、プロンテラの宿屋、懇意にしている商人たちの店先に、ちょいと置かせてもらっていたのでした。*4

ノービス:「冒険者になったら、必ずここにこようと思ってたんです。
 ノービスの彼は言いました。

syu-ho:「それはどーもです。じゃ、おやすくしておきますよぉ。

ノービス:「あ…あのー…それで…

 ノービスの彼はぽりぽりと頭を掻きながら、言いました。

ノービス:「あの方は…?

 萩帆はふむとうなずいて、あごに手を当てました。
syu-ho:「ちょっと電波をとばしてみますね。


ノービス:「はい!



「もーしもーし?」
「…なんだよ」
「今日はお休みの日だよー。冒険、出ないのー?」
「…帽子屋が忙しいんだよ!ったく、新しい決まりのせいで、冒険者たちが装備の買い直ししてっからな」
「あのねぇ、ベンチに、君に会いに来た人がいるよ」
「…はぁ?」
「男の子だけどねぇ」
「じゃあ行かない」

「…装備品、店売り半額セール中」
「ベンチだな、わかった。ちょっと待て」

 電波の向こうから、がたがたっという音が聞こえてきます。「おい!お前、どこ行くんだ!!」「やってられっけー!」「って、待て!こんなところで魔法を…」「サンダー・ストー…」


syu-ho:「今、来ます。

 萩帆はにこりと笑いました。




 うららかな午後の陽光に、彼はベンチでうとうととしていました。
 冒険者になるために、朝からプロンテラ王宮の受付に並んで、ちょっと疲れていたのかも知れません。
 まどろみの中で、夢とうつつをいったりきたり…あれ?あの帽子の陰は…?

 彼はばっと跳ね起きました。

ばばーん
「うあぁぁぁぁあ!?」

 彼は思わず叫びました。


ごたいめーん

 って、もうちょっと歓迎してやれよ。


irurur:「はじめまして。

 と、言ったのはスピットの隣にいたアサシン、いるるさんです。

syu-ho:「新鮮な、ゾンビですねぇ。
 萩帆が言います。
spit:「冒険者、やめるって話じゃ…?
irurur:「と、思ったんですけど、よく考えてみると、家に戻るには、街をでないといけないことに気づきまして。
syu-ho:「意味ないですねー。
spit:「ま、戻って来てくれたのは嬉しいけど。

 と、ベンチの前。スピットたちはいつもの調子で話しています。

spit:「しっかし…

 スピットはノービスの彼に向き直って言いました。

spit:「俺にもファンが出来るまでになったかー。

 なんて言うスピットを見ながら、ノービスさん。

ごもっとも


spit:どういう意味だ、しゅーちゃん!

syu-ho:「そのままでーす。


 スピットはそれを聞いて、はっきりと言いました。

違います

syu-ho:「SPなくなったとたん、死ぬじゃないですか。


たしかに


 人任せかよ!?


spit:「っと、勝手に話しちゃってたな。

 まったくです。

spit:「えーと、お名前は?

 聞くスピットに、ノービスさんは返します。
shintisu:「シンティスといいます。シンと呼んでください。

irurur:「シンさんですかー。
syu-ho:「よろしくです。
spit:「シンティスか。いい名前ですね。
shintisu:「ありがとうございますっ!

spit:「で、これは出会うノービスさん、みんなに聞いているんですが…

shintisu:「はいっ。

spit:「シンさんは、転職したら、何になろうと?

 ノービス、シンさんはうーんと考えながら言います。

shintisu:「今のところ、シーフになろうかと…
syu-ho:「えー、アコになろうよぉ。

 って、なぜ萩帆が!?

spit:「ってことは、上級職は、アサシンですな。

 と、スピットは振り向きます。

spit:「そこにいる。
irurur:「?

shintisu:「ええ。

 そしてシンさんは爆弾発言です。

shintisu:「でも、ラバさんのようなショボにはなりたくない…


 ショボコソ=ラバ。


 もしくは定冠詞!?


 スピット、萩帆、いるるさんは腹を抱えて笑いました。

 スピットはお腹を押さえながらフォローです。

マテ

 それもどうかと。


syu-ho:「そうです。

マテマテ!



spit:マテ。

 シンさんも、思わず吹き出しました。


spit:「よーし、んだらば!

 スピットはすっくと立ち上がります。

spit:「いざ、冒険の旅へ!
 ぐっと、スピットは拳を握りしめます。

syu-ho:「あれ?スピさん、冒険者申請したんですか?
spit:「おう、したぞ。
irurur:「あれ?じゃあ、装備品、全部取り上げられませんでした?

spit:「おう。された。


syu-ho:「…じゃ、その帽子以外、何装備してるんですか?




spit:…ナイフと、コットンシャツだな。


irurur:syu-ho:Σ(  ̄□ ̄ ii


shintisu:「ノービスの僕と一緒だぁ〜。


syu-ho:「っていうか、それはデフォルト装備だぁー!!*5

irurur:「ま、まぁ。魔導士には関係ないっちゃ、ないですが…

spit:「これでも、イズルード2階くらいなら、死なない自信ありありだぞ。

shintisu:「すげぇ!
syu-ho:「いや、あそこにはアクティブモンスター、でないし。
irurur:「詠唱反応いますけどねぇ。*6










出撃!
syu-ho:「おおーっ!
 やる気満々なのは、萩帆です。
 というより、萩帆のつよーい要望により、一行は砂漠にやってきていたのです。

syu-ho:「卵殻帽子げと!だっ。
spit:「こだわるなよ…そのままなら、それなりにかわいいのに。
syu-ho:「スピさんにかわいく思われなくてもいーです。

spit:「…そうか。

 む。としてスピットは言いました。



spit:「無駄に、LoVでも撃つかなー。*7

irurur:「うわ、やめてください!
shintisu:「生〜。

spit:「ファンサービスってことで。

syu-ho:「撃ちたいだけだぁ!

 びっと身構え、スピットは近くにいたドラップスに狙いを定めます。

shintisu:「おおっ!
spit:「ま、LoVは、また今度で。

 そしてスピットは呪文を唱えます。


spit:「ライトニングボルト!! Lv10!!

 駆け抜けた雷が、ドラップスに突き刺さります。
 そして、一瞬のうちにドラップスは消滅してしまいました。



そりゃあ、まぁ…

spit:「うお、さすがに蒸発しちまうか!

ファンサービス、失敗

spit:「こんなとこでLoV撃っても、敵のがすくないよ。

 そんなこんなで、スピットは次々と魔法を披露していきました。

 ライトニングボルトLv10から、ソウルストライクLv9。
 サンダーストームLv10に、ユピテルサンダー、Lv10。


syu-ho:「って、雷魔法しかないっ!!
shintisu:「本物だー。

 当然です。


 漏電雷魔導士ですから。





 やがて陽は傾き始め、砂漠に夕暮れが訪れました。

 ひゅうと駆け抜けていく風が、昼間の熱気を嘘のようにさらっていきます。ひんやりとした、夜のにおいを乗せた夕暮れの風。

 スピットは頭の上の帽子をちょいとあげて、言いました。
spit:「申し訳ない。今、ちょっと店が忙しくて、帽子の残り、ねぇんだ。
shintisu:「あ、いいですよー。
irurur:「シンティスさんは、シーフ目指すんでしたっけ?
syu-ho:「ってことは、モロクだね。
shintisu:「はい。がんばって、一人前のシーフになります。
spit:「まゆみ嬢とか、いるるさんみたくね。
syu-ho:「決して、ラバさんではありません。
irurur:「なんだかなぁ…

shintisu:「はいっ。

 ノービスのシンティスさんは、力強く返しました。

 そして、砂漠の向こう、モロクへと向かって歩き出します。

shintisu:「また、会いましょうー!

 シンティスさんは手を振ります。
syu-ho:「もちろんです!プロンテラに立ち寄りの際は、ぜひー!
irurur:「立派なシーフになってくださいねー!


 夕暮れの砂漠の向こうに、手を振って消えていくその姿に、スピットは言いました。
 いつもの、出会ってきた冒険者たちみんなに言ってきた、言葉をです。


spit:「よい旅をー!!


 ミドカルドの大地は、どこまでもどこまでも、続いていました。


*1 つまり、課金開始後、初めての日ということ。
*2 ないしょです。
*3 装備品、その他、アイテムリセットがあったので、すべての冒険者たちは初期装備になってしまったのでした。
 ストーリーの中では、王宮に申請に行った段階で、すべての装備品がとりあげられちゃったことにしています。
*4 実際は、ゲーム内ではありません。でも、リアルでは2002年の冬コミにて、このRO日記のCD-ROMが販売されました。買った方はいらっしゃるのかしら。ありがとー。でも内容は同じなのですが。
*5 最も弱い武器、防具のセット。ノービスの初期装備。アイテムリセット後の初期装備。
*6 でも実はこの前日にspitはイズルードダンジョンで経験値稼ぎの実績あり。
*7 LoV。ロード・オブ・ヴァーミリオン。spitの使える最強の雷魔法。画面が揺れて、しかも大爆発を巻き起こすという、はた迷惑なド派手魔法。強い。が、詠唱時間が長い。