前回までのあらすじ
二度目のプリーストへの転職を果たしたアピ。
立ち会ったプロンテラベンチの面々とそして以前に一度冒険を一緒にしたことのあるアサシンのいるるさんは、転職祝福ツアーと称してオークダンジョンへ。
ところがツアーに参加しないというアブ。
人と会う約束があるからと、ひとりベンチに残るアブ。スピットたちはまゆみ嬢の娘、みゆき嬢のワープポタルでオークDへと飛ぶが、その後、アブが会う約束をしていたという女の子がベンチにあらわれ…
そしてそれを目撃したのは、なんとまゆみ嬢だった!
「一緒にオークにいったんじゃ…?」
「倉庫に用事があって」
「これはスピたんに報告しなければー!」
オークDへと走るまゆみ嬢。
あっけのアブ。
そしてその頃…
新たな仲間を引き入れて、プロンテラベンチの面々は戦いに挑んでいたのでした。
「この男を知ってるか?」
手渡された一枚の似顔絵に、彼はふるふると首を横に振りました。
「いえ」
似顔絵を渡した男は軽く笑って、言います。
「漏電雷魔導士だ」
「は?」
彼は目を丸くします。
「まぁ、その名の通り、そういうやつだ」
「このアホのレベル上げを手伝ってやってほしいんだよ」
似顔絵を渡したのとは別の、翡翠色の髪の剣士がいいました。
「なんだか、パーティのみんなに迷惑かけまくってるって話だからな。ちょっと、さっさと強くなれってな」
翡翠色の髪の剣士は笑います。
「お前くらいのレベルなら、ちょうどだろ」
似顔絵を渡した男が言います。
「ちょっと行って、助けてやってきてくれ」
手渡された男、というよりはまだ少年の彼は、こくりとうなずいて返します。
「わかりました」
「頼むわ」
と、翡翠色の髪の剣士は笑います。
「アホ弟の面倒、みてやってくれ」
「って、いきなり死んでるし!」
ぐわぁん!といったふうな衝撃に、彼は顔面蒼白になりました。
ita:「んー?
突然に近寄ってきて言った少年に、騎士のイタは口許を曲げます。
ita:「ああ、気にしないで。
appi:「スピさんは
死ぬのも仕事ですから。
どんな仕事だ?
spit:「アピに撲殺されたー。
miyuki:「んー、そう見えなくもない。
appi:「後ろから、こっそり…
irurur:「なにをしようとしたんですか!スピさん!!
わいわい言っているプロンテラベンチの面々に、彼は「えーと」とつぶやきました。
銀髪のアコライト:「ど、どんな状況になってるんですか?
ita:「えー…
戦いながら、イタはいいました。
早っ。
死者は言わずもがな、眼前に倒れているスピット。
そしてショボコソこと、ラヴァス。
さらには、蟹漁師こと、剣士ニクロムでした。
Nicrm:「みんなとはぐれたら死にました。
luvas:「オークDはこぇぇところだなぁ。
ita:「
ショボイからだろ。
spit:「うぁ!台詞とられた!!
luvas:「うるせー!
miyuki:「プリさんつれてきたー。
と、洞窟の奥からみゆき嬢がやってきます。彼女の後ろには、うさみみのプリーストの姿がありました。
irurur:「どうもすみません。
銀髪の彼女にいるるさんはぺこりと頭を下げます。「いえいえ」と彼女は笑って、胸の前で腕を組むと、呪文を唱えました。
spit:「ふっかぁぁぁああぁっ!
彼女が使ったのは、倒れた人を復活させる魔法、リザラックションです。
*1
スピットは鼻息も荒く、言います。
spit:「SPはまだまだあるぞ!さー、こーい!!
miyuki:「SPもうないよぉ。
appi:「私も早くリザ使えるようになりたいなぁ。
spit:「かかってきやがれ!うちうぢん!!
ita:「宇宙人ではありません。
*2
銀髪のアコライト:「あ、えーと…
spit:「ん?なにか?
銀髪のアコライトの少年は、苦笑い気味に言いました。「あの、スピットさん?」
spit:「いかにも。
appi:「漏電雷魔導師の。
spit:「マテ!
ita:「ゼノーグのいっぱいいるところにTSうつな〜。
miyuki:「範囲魔法禁止!
spit:「だって、うぜぇんだもん。
*3
銀髪のアコライト:「あー…と。
spit:「なんか用?
銀髪のアコライト:「いえ、あのですね…
irurur:「スピさん!次の波がきました!
spit:「来たかっ!行くぞ、みんな!!
銀髪のアコライト:「あ、あのっ!
irurur:「オクスケ5、ゼノーグ複数!
spit:「まっかせろー!
威勢よく答えるスピットの声に呼応するかのように、大地に魔法陣が生まれます。
きゅいいいんという甲高い音に、
ita:appi:miyuki:irurur:「
やめろー!!
プロンテラベンチの面々の声が続きます。
spit:「サンダーストーム!!
走り抜ける雷。
爆音と強烈な閃光のあとには…
金髪のアコライトの少年も、ただ、あっけにとられるばかりでした。
appi:「いつもこんなモンです。
にこりと、アピは笑いました。
appi:「ところで、あなたは?
金髪のアコライト:「あ、申し遅れました。私はですね…
ita:「っと、その前にオクスケ片づけるから、待って。
金髪のアコライト:「手伝います。
appi:「私も手伝いましょう。
irurur:「じゃ、さくっと片づけましょう。
appi:「で?私たちに何か?
オークスケルトンの波を切り抜けて、一息ついたところでアピが聞きました。
金髪のアコライト:「あ、私、パナシェともうします。
パナシェと名乗った少年は、そういって頭を下げました。
miyuki:「パナきゅん?
appi:「イタさん、ご存じのお名前?
ita:「いや、とくには…
irurur:「私も知りませんしねぇ。
Panache:「手紙を預かって来てます。イタさんかスピさんに渡せば、わかるって…
と、パナシェは取り出した手紙をイタに手渡します。
ita:「ん?見たことある文字だな…
ぺらりと開いたそれを見て、イタ。
spit:「まぜろよ〜。
ita:「素直に死んでろ。
顔も上げません。
spit:「くすん…
irurur:「つらいですねぇ…
ita:「なるほど。
イタは手紙を読み終えると、倒れているスピットの顔の上に向かって、それを投げ捨てました。
spit:「わぷ。
で、パナシェに向かって聞きました。
ita:「アルクに言われて?
Panache:「あ、そうです。スピットさんのレベルアップのお手伝いをしてこいと。
appi:「わ。今日は癒し系が3人も!
miyuki:「アルクって、だーれ?
irurur:「んー、さすがに私に言われても、知らないですねぇ。
appi:「あ、アルクさんというのはですね、アコライトの男性で、スピさんのお兄さんの…
spit:「アピ〜、無駄口はたたかないー。
appi:「いいえ。今日はそうはいきません。
と、アピはスピットの台詞につんっと横を向いて言い返しました。
appi:「せっかくスピさんのレベル上げのためにアルクさんがパナシェくんを助っ人にくれたのに、そんな言い方はないと思います。
spit:「俺より先に二次職になったからって…
appi:「それに、それじゃパナシェくんにも悪いと思います。
miyuki:「そうだそうだ!パナきゅんにあやまれー。
spit:「
なんでだ!?
理不尽で理不尽で仕方ないという風にスピット。
アピは言います。
appi:「人のことを思いやれないパーティリーダー、ギルドマスターは、リーダー失格ですね。
spit:「ぬなっ!?
スピットは顔をゆがめました。今日はなぜか、アピが強気です。いやむしろ今日は、というより何か、急にといった感じすらします。アピは言いました。急に自信まんまんになったわけを。
appi:「だったらスピさん…
ちょっと、勝ち誇ったように。
appi:「そのままそこで倒れてて、私たちのこと眺めてるだけでいいんですね?
spit:「うっ。
倒れたスピットには、何もすることが出来ません。
ですが、ゆいいつ、この状況を変えることの出来る魔法が…
spit:「
…ごめんなさい。
小さな声で返すスピットに、アピは言いました。
appi:「まー、いいでしょう。
そして胸の前で手を組みます。
祈りの言葉が、その薄紅色の唇から漏れました。
spit:「お…
スピットの倒れていた地面に、魔法陣が輝き出します。
にこりと笑うアピは、呪文の最後を結びました。
appi:「リザラックション!
ita:「おおっ!
irurur:「復活の呪文ですね!
*4
appi:「いーですか。スピさん。
よみがえったスピ…
spit:「うふふふふ。
聞いてねぇ。
appi:「こーして助けてあげたんですから、ちゃんとレベルアップのために…
spit:「よーし、パナシェっていったな。援護しろー。
appi:「地道に見える戦いも、いつかは報われ…
ita:「いや、アピ。聞いてないから。
appi:「あぅぅぅ。
spit:「
いっくぜぇぁ!!
それから少しして、オークダンジョンにまゆみ嬢、一度死んで戻ってきた蟹漁師こと、ニクロムが姿を現しました。
みゆき嬢のポタに乗って、入れ替わりに姿を現したまゆみ嬢は…
spit:「ふっ…アピ、頼む。
appi:「もー!
Panache:「ううぅ、お役に立ててない…
mayumi:「よーし、スピたん起きたらもっと奥にいってみようかー。
そしてプロンテラベンチの面々は奥へと進みます。
spit:「イタ、そっちはまかす!
ita:「マヂか!? まゆみ嬢、援護してくれ。
mayumi:「あい。
Nicrm:「刈れー。
spit:「ニクロムはこっちにいろよ!
appi:「あぁっ、南の守りがいるるさんとスピさんだけ?
Panache:「不安ですねぇ。
spit:「なんですと!?
irurur:「スピさん、来ますよっ!
spit:「うあ!来たっ!!
spit:「華麗なる連携プレー!
irurur:「ふ。
*5
ita:「いるるさん!こっち手伝ってください!
irurur:「わかりましたー。
spit:「いってらっしゃいませー。
appi:「後方支援、後方支援。
mayumi:「アヒャ!体力やばいよー。ヒールしてぇ。
Panache:「ちょっ行ってきます。
spit:「いってらっしゃい。
appi:「お願いします。
Panache:「を?
ita:「あっ!
irurur:「一匹、最終防衛ライン突破されました!
mayumi:「アピたん!?
appi:「スピさん!一匹こっち来ます!
spit:「大丈夫だ!
ita:「さすがスピ!!
mayumi:「骨おにぃちゃん!、ラブ!
irurur:「やくとくだなぁ。
spit:「うれしくねぇし。
spit:「おおっと!前線部隊!南から来るぞ!
ita:「自分でなんとかしろよ!
spit:「ふ。
irurur:Panache:「生漏電雷魔導士!?
ita:「数多いなぁ。
appi:「接近してくる…
spit:「弾幕うすいぞー!
mayumi:「本気だしますか。
irurur:「ですね。
ita:「いきますか。
Nicrm:「レベルが違うー。
*6
spit:「上級職め。
appi:「私もなんだけどなぁ。
Panache:「加勢します。
spit:「がむばれー。
みんな:「って、
お前も戦えー!!
spit:「あー。
そして夕暮れのプロンテラベンチ。
spit:「かなり戦いまくったなぁ。
みんなの姿があります。
spit:「さてっと。
スピットはベンチ前に座っていいました。
aki:「と、言うわけで私なのです。
ita:「誰?
商人のあっきーこと、あき・さくらの姿にイタが聞きます。
spit:「まゆみ嬢の娘シリーズ。
Nicrm:「で。当の本人は?
appi:「ひやかしにどうとか?
spit:「ああ、そういえば『ビッグニュースなのだよ!』とか言ってたけど、聞くの忘れた。
irurur:「なんでしょうね?
spit:「きっとたいしたことじゃないな。
aki:「スピットさんはおかぁさんに優しくないです。
spit:「それは時と場所と相手による。
aki:「をわ。
ita:「えーと、他に売る物はないかな?
あっきーのカートの中にオークダンジョンで手に入れたさまざまな道具を乗せこんで、イタが言いました。
irurur:「こんなもんですかね。
aki:「じゃ、ちょっと売ってきます。
spit:「高く売ってこいよ。
aki:「あい。
ほどなくして、あっきーがてくてく戻ってきました。
spit:「なんて金額だ!?
ita:「やっぱ、プリがいると稼ぎがいいね。
irurur:「やられても、リザですぐ戦線復帰できますからね。
Nicrm:「まぁ、問題があるとすれば…
appi:「…ですね。
みんな:「スピット
が死ぬことか。
spit:「俺かっ!?
っていうか、他は誰も死んでネェよ。
ita:「貧弱魔導士だからなー。
irurur:「マジは仕方がない部分もありますけど。
aki:「スピたん、よわいですか?
appi:「弱いよ。
spit:「てめぇ。
スピットはぴきりと頬を引きつらせました。
spit:「俺より先に上級職になったからって、ずいぶんな言い方じゃないか。
appi:「そんなつもりじゃないですよ。
アピはいいます。
軽く、微笑むふうにです。
appi:「ただ、私もプリーストですから。
プロンテラベンチの前、夕暮れの空が包む街の中、アピはいいました。
appi:「みんなを守って、力を貸して上げるのが、私のお仕事ですから。
appi:「たとえばパーティ、ギルドのリーダーが、なかなか強くなれなくて、転職できないっていうんなら、力を貸して上げなきゃって思うし、そのためには回復魔法もしっかり使えるようになって、出来るだけ怪我しないようにとか考えないといけないですし。
ふぅと、イタもため息。
ita:「早く転職しろよ、リーダー。
aki:「女の子に心配されるようじゃぁ。
irurur:「ですねぇ。
spit:「…うるせぇよ。
スピットはぽつりと、言いました。
Panache:「私も、お力を貸しますから。
irurur:「あ、私もご一緒してよろしいですか?
appi:「それはねがったりかなったりですよー。
ita:「お前の転職を、アブも待ってるんだろ?
appi:「らしいです。
ita:「じゃあ、なおさらだ。
みんなの言葉にイタは軽く笑って、そして、言いました。
ita:「ウィザード、スピットを見てみたい思ってるのは、もう、お前だけじゃないんだからな。
プロンテラベンチの前。
仲間たちと車座。
スピットはくせで、頭に乗せている帽子をちょいとあげるような動作をしました。
しかし、そこに帽子はありません。
スピット仕方なくて、口許を曲げます。
曲げて、言います。
spit:「…うるせぇよ。
そしてよいしょと、立ち上がりました。
spit:「今週末だ。
アークワンドを肩にちょいと乗せ、スピットはにやりとゆるませた口許のまま、大胆不敵に言い放ちました。
spit:「ゲフェンに行くための準備をしておけよ?
appi:「そうこなくちゃです。
返すアピの言葉に、パーティプロンテラベンチの面々も満足そうに口許をゆるませました。