スピットは砂の町、モロクを目指して歩いていました。
電波でアピの位置を聞くと、彼女はモロクにいるということだったのです。「なぜモロク?」
「ミミズ相手に、レベル上げしていたもので」
しかしスピットは腑に落ちません。
ミミズはなかなかの強敵モンスターです。スピットの場合は属性的な問題から、一撃で倒すことの出来ない相手なのですが、アピだって、まともに戦えばかなりのダメージを受けるはずです。そのアピが、ミミズ相手にレベルあげ?
つい先日一緒に冒険したときは、同じレベルだったのに!?
です。
ちなみにスピットはあの冒険から、
1レベルしか、あがってません。
*1
spit:「絶対になんかずるしただろ。
appi:「してないですよー。
そんなこんなで、スピットはモロクへとたどり着きました。
spit:「さて、アピはどこかなー?
きょろきょろと町中を歩くスピットに、声をかける人がいました。
謎の声:「燃えるポーションはいりませんか?
spit:「
いりません。
syu-ho:「あぅぅ。
声をかけてきたのは、以前プロンテラベンチであった、卵殻帽子にサングラスという出で立ちの商人、萩帆です。
*2
spit:「過激派のお前には、プロンテラよりモロクの方が似合うな。
syu-ho:「どーゆー意味ですか?
spit:「そのままだ。
syu-ho:「はうぅ。
syu-ho:「スピットさんがモロクにくるなんて、珍しくないですか?
萩帆が聞きます。
spit:「うむ。
スピットは返します。
spit:「なんでも、アピがプリーストになれるレベルまでいったと言うんでな。お迎えがてらに、モロクまで来たという訳だ。
syu-ho:「おおっ、ついに癒しアコライトから、プリたんですかっ。
spit:「うむ。
syu-ho:「スピさん、アピさんのプリースト姿、楽しみですかー?
spit:「なんでだよ。
syu-ho:「スリットから覗くガーターベルトにどきどきかと。
spit:「…
spit:「
あり得ないな。
いや、
即答しろよ、おめえ。
旗色の悪くなったスピット。話を変えます。
spit:「ところてで、しゅーちゃんも一緒にプロンテラにいって、祝福するか?
syu-ho:「うーん、行って祝福してあげたいところですが、今日はこれからここで取引があるので。
spit:「しろいこな?
syu-ho:「なんでですかっ!!
萩帆との話もそこそこに、スピットはモロク西南、通称、あやしい武器屋前へと向かいます。
spit:「しかし、アピがずるなしでミミズ相手に戦って、俺より先に転職しちゃうなんてなぁ。
*3
つぶやきながら、建物の裏にある怪しい武器屋の前に顔を出した時、スピットは理解しました。
spit:「お前が
ずるの正体かッ!?
なんでだよ。
mayumi:「いきなりひどいあつかい。
詳しく話を聞くと、やはりスピットの思っていた通り、アピはまゆみ嬢に盾になってもらいながらミミズと格闘し、転職できるまでにレベルをあげていたのでした。
spit:「ずるだ。
mayumi:「いや、全然ずるぢゃないし。
appi:「長く険しい道のりでした。
アピが言います。
appi:「それはもぅ、毎日毎日格闘の日々。疲れた身体を自分で癒し、長い戦いの間には、私もやさぐれ、『なんでレベルあがらないのー!?』と、不良少女になってみたりみなかったり…
spit:「はぁ…
mayumi:「わかるよっ、アピたん!
spit:「オマエら、いつの間にか仲良くなったなぁ。
appi:「しかし、そんな修行の日々も今日で終わりですっ!
アピの声が響きます。
spit:「ついにですか。
ここはプロンテラ大聖堂。
モロクから飛んできたスピットたち。
プリーストへの洗礼してくれる神父の前、アピはつけていたサングラスをぴっと取りました。
ちょっとたれ目がちのかわいい目が、きらきらと輝いているさまに、スピットは「お」と息をのみました。
appi:「アコライト、最後です。
ゆっくりと静かに、アピが言います。
spit:「うむ。
スピットはこくりとうなずき返します。
アピは神父に向き直り…
spit:「感動的なシーンがーッ!!
mayumi:「ああぅ!?
*4
苦笑のアピ。
神父も苦笑しながら、プリーストへの洗礼の言葉をゆっくりと述べていきます。
大聖堂の高い天井に響く静かな声。
やがて差し込む、祝福の陽光。
スピットは目を細めました。癖で、帽子の位置を整えようとして、そこにつばがないことに気づきます。
少し、スピットは笑いました。
柔らかな光に包まれていたアピの姿が、プリーストの姿へと、変わっていました。
アピはくるりと振り返りました。
そしてスピットの前でポーズを決め、
appi:「転職〜。
うれしそうに、笑いました。
「ぉっ」とスピットは思わず身を引きます。
やっぱりプリーストの女の子は、アピみたいな赤い髪の子がいちばんかわいく見えるなぁなんて、思っていた訳ではありません。
なんと声をかけたらいいか、わからなくて無言だった訳ではありません。
まゆみ嬢が言いました。
mayumi:「あぴらいと→あぴっぷり!?
はっとして、返します。
spit:「いや、それはどうかと。
appi:「あ、それも変えないといけないですねー。
spit:「よーし。
にこにこ笑っているアピに向かって、スピットは言いました。
spit:「他に人もいないし、ここはいっちょー!
mayumi:「キター!
spit:「祝砲!!
spit:「おめでとー。
mayumi:「おつかれー。
appi:「ありがとうございますー。
*5
spit:「さて。
そしてスピットは先陣を切って、歩き出しました。
ふたりから少し離れて振り返り、聞きます。
mayumi:「オークDでパンティラ披露?
appi:「なんでですかー。
mayumi:「スピたんもみたいでしょ?
spit:「なんでだ。
そして三人は歩き出しました。
向かう先は、いつものベンチ。
まゆみ嬢が先導します。
mayumi:「オークD〜。
ちょうど、ベンチ前にポタルを出しているアコライトの姿があります。
早速とまゆみ嬢が交渉に出ます。
その間、スピットは久しぶりのベンチの定位置に落ちつきました。
とことこと隣にやってきたアピが、ちょこんと座って言います。
spit:「なんとでも言えよ。
いいながらも、スピットも笑っていました。
mayumi:「交渉成立だよー。
まゆみ嬢が呼びます。ふたりは立ち上がります。
ふたりに気づいたアコライトの女の子が、はっとして言いました。
appi:「あ、おひさしぶりです。
アピはにこにこ笑いながら言います。
appi:「おかげさまで、ついさっき、アコライトじゃなくなりました。
mayumi:「もう大人の身体。
spit:「マァテ!
アコライトの女の子は笑っています。
「それじゃ、オークD出しますよー!
*6
appi:「お願いします。
mayumi:「ぱんてぃーら!
spit:「街中でそういうこと言わない。
立ち上る光の柱の中に、まゆみ嬢が飛び込みます。
続いて、スピット。
そして最後、プリーストになったばかりのアピが、飛び込みます。
「いってらっしゃいませ。
かけられた声に、元気に答えて。
appi:「いってきまーす。
プロンテラの空は、今日も青く広がっていました。