studio Odyssey



ギルド、その名は…2



 スピットはどきどきしていました。
 こんなにどきどきしたのは、マジシャンに転職するために、ゲフェンの魔法士ギルドを訪れた時以来です。
 それくらい、スピットにはどきどきするような事だったのです。

 何度目かわかりません。
 スピットは腰の道具袋に手を当てて、中身を確認しました。
 だいじょうぶ。ちゃんと入ってる。

 手には、一枚の羊皮紙。
 考えに考え抜いたその名が、スピットのちょっと汚い字で書かれています。

 プロンテラ城。
 スピットはギルドを管理する、大臣の執務室へと通されていました。

「うぁぁあぁ…どきどきだ…どうしよう」
 ひとり、部屋の中央に置かれたテーブルにぎこちなく座っていたスピットは、電波をとばしました。

「低レベルギルドマスター、ついに誕生だな」
 なんて電波をとばすのはイタです。

「がんばれー、リーダー」
 と、アブ。
「がんがれー」
「いや、アピ。意味わかんネェし」
「(;´Д`)ハァハァ に、今ならまだ変えられます!」
「そんなの申請したら、騎士団に殺されちゃうよー」

 苦笑いに返すスピットの耳に、静かにドアの開く音が聞こえました。スピットは振り向きます。そこには、頭半分くらいまでおでこの広がった中年の男がいました。中年といっても、身にまとっている服は上等なものです。さすがのスピットにもすぐにわかりました。
「またせたかな?」
 ゆっくりと言いながらスピットの元に歩み寄り、その大臣は手を差し出しました。
「ようこそ、プロンテラ城へ」
「いや、は…はぁ」

 ごしごしとローブの裾で手をふきふき。スピットは大臣の差し出した手に、自分の手を絡めました。

「それで…」
 握手を終えると、大臣はゆっくりとテーブルの向こう、スピットの向かいに回り込んで腰をおちつけました。
「ギルドの申請ということだが…」
「あ、そ、そうです」

 スピットは腰の道具袋の中からあの革袋を取り出しました。
 ことりと、それをテーブルの上に置きます。「改めさせてもらうよ」小さく言って、大臣はその革袋に手を伸ばしました。

 しばらく、スピットは手持ちぶさたでそわそわしていました。
 眼前では革袋の中からそれを取りだした大臣が、眼鏡を使って子細に眺めています。

「うむ…間違いないな」
 と、大臣はそれを机の上に置きながら言います。
「エンペリウムだ」

 ごくりと、スピットはつばを飲みました。

「君のギルド設立申請を、受理しよう」

 すいと、大臣は手を差し出します。スピットはあわわあわわとあわてながら、持っていた羊皮紙を差し出しました。ちょっとぎゅっと握りしめていたせいで、よれよれ気味で…
「ちょっ、ちょっとまってください」
 机の上でのばします。

 ぴっぴっと羊皮紙のしわを伸ばすスピットの手元を見ていた大臣が、ふと、言いました。
「…君たちは」
「はい?」

 大臣の視線は、スピットの書いたへろにょろのギルド名のところを見ていました。

「君たちは…イミルの爪角を求める者たちなのかね?」
「…」

 問われて、スピットは目を丸くしました。

「別に」

「ならば、どうしてその名前をギルド名にしようと?」

 大臣は手を伸ばしました。
 スピットとしてはまだしわが伸びきっていなかったのでちょっと複雑でしたが、のびてきた手に羊皮紙を渡します。大臣はゆっくりとした動作で自分の前に羊皮紙を置き直すと、そこにかかれている文字を眺めながら、
「この言葉の意味を、知っているかね?」
 言いました。

「魔法使いでギルドマスターになろうという君なら、十分な学があるのだろう」

「…」

 …たしかにギルドマスターに魔法使いは、あまりいません。
 スピットはこの場にパーティメンバーがいないことにほっとしました。

 答えを返さないスピットに、大臣はゆっくりと続けます。
「『神々のたそがれ』か」

 Götterdämmerung.

 神話を元にした楽劇の中で、その言葉の説明に使われた言葉だと、スピットは知っていました。
 実は、自分もその神話からこの名を取ったのでした。

 イミルの爪角だとか、世界の果てだとか、そういうのには、あんまり興味はありません。
 でも、全くないと言えば、嘘になります。

 冒険者として、世界中を旅して、その中で何かひとつの大きな目的を見つけだすのだとしたら…心躍る冒険の先に、何かを求めるのだとしたら。

 その物語は、こうして始まります。

『昔、神と人間、そして魔族による戦争があった。』

 そして今。
 自分たち、冒険者たちの間でささやかれている噂。
 人間界と神界、魔界とを分かつ魔壁の向こうから響いてくる轟音。頻繁に起こる地震と津波。
 広まりゆく、魔物たちの姿。

 平和への気運が崩れていく中、その神話の中に出てくるのと同じ、世界の平和を支えているというイミルの爪角の噂。

 それは実在するのか。
 神話は、真実なのか。

「このギルド名で、いいんだね」

 大臣が聞きました。

 スピットは大きくうなずいて返します。

「はい」

 でも…

 やっぱりスピットたちもそれぞれの胸に思いを抱えた、冒険者たちなのです。
 その旅路の果てに、求めるものがあるとすれば…

「受理しよう」
 大臣はしっかりとうなずき返して、スピットの羊皮紙に割り印を押しました。




「ギルド、『Ragnarok』」

 その言葉は、『神々の運命』という言葉なのです。

ギルド、その名は…2


 さて。
 そんなわけでみなさん、いつもRagnarok Online日記をごらんいただき、ありがとうございます。
 っと、今回はプロローグが長いかと思いきや、本編が始まるなりこんな書き出して、少々あっけに取られている事でしょう。

 先日、パーティメンバーたちの粋な計らいで『エンペリウム』を手に入れたスピットでしたが、紆余曲折を経て、ついにギルドを作成しました。
 っと、こうかくと1行で終わってしまう出来事ですが、ここにたどり着くまで、それはもう、おもしろいお話があったのです。

 ええ、当然、パーティ、プロンテラベンチの面々ですからね。

 このRO日記では、前出のようなスピット、ギルド作成までのストーリーを作ってみました。
 ゲーム内では、当然、このようなストーリーは在りません。さすがに自由度の高いゲームといえど、ここまで自由に動くNPCは出てきてはくれませんから。
 RO日記は、ゲーム日記であると同時に、ひとつのストーリーとしてお楽しみいただくため(ゲームをプレイしていない人も楽しんでいただけるよう)、今回のギルド作成に関してはストーリーものとリアルものとをご用意いたしました。

 前出は、そのストーリーもの。

 と、言うことは…

 それでは、ゲーム内リアル版、「ギルド、その名は『Ragnarok』」の始まりです。




spit:「よーし、久しぶりだな!!

 ベンチに現れるなり、スピットは電波をとばします。
 と、言うのも、今日は別にみんなと約束をしていた訳ではありません。ベンチにはスピットひとり。

Abd:「お、リダ。こん〜。
spit:「こん〜。

 電波に皆の位置を確認します。
 どうやら、ラバとグリ以外のみんなはそれぞれ冒険に出ているようでした。

 スピットは唐突に叫びました。


spit:すらっしゅ、ぎるどぉー!*1

appi:「はっ、ギルド作成ですかっ!?
ita:「そういえば、ギルドどうなったん?

 電波で仲間たちが返してきます。
 スピットも揚々と返します。
spit:「これから作ります。さて、名前はどうするね?

ita:「格好いい系にするか、ふざけ系にするか。
Abd:「ギルド名って、変えられるっけ?
spit:「いや、一度決めたら終わり。

 ギルドは一度作成したら、作り直さない限りは名前の変更は出来ません。

Abd:「インパクト勝負♪
appi:「無難に。
ita:「いっそ、プロンテラベンチでもいいんじゃない?
spit:「うーん…

 スピットは渋りました。
 というのも、ギルドを作成すると、画面の自分の名前の下に、ギルド名が表示されるのです。そして自分の名前の右脇には、パーティ名が表示されるのでした。
spit:「同じのはよくないなぁ。

 そして、スピットは言いました。

spit:「あのさぁ…
mayumi:「(;´Д`)ハァハァ


まゆみ嬢

spit:おうぁあぁ!?

 突然現れたまゆみ嬢に、スピットはびっくりです。

mayumi:「そんなに驚かなくても。

ita:「それで、なんか言おうとしてなかったか?

 「ああそうだ」とスピットは電波で返しました。

spit:「ギルド名なんだけど、Ragnarokって、試していい?*2

Abd:「取れたら、ある意味すごい。*3
mayumi:「ぁう。そんなありきたりな。
ita:「OK。いいよ。
mayumi:「三色ご飯にしようよぉ。
appi:「ご飯なんだ。
mayumi:「パンより、やっぱりご飯です。

 わいわいやっている皆の言葉を聞きながら、スピットはぺたぺたとコマンドを打ち込みます。「/guild Ragnarok」

 まぁ、どうせすでに使われていて、取れやしないだろう…

spit:「とー。



あ

spit:「あ。

ita:「どうした?
appi:「?


 みんなから電波が飛んできます。
 スピットはくるくるとあたりを見回しました。


spit:「あれ?
spit:「…何も変わらない。


みんな:なにーッ!?

ita:「え、エンペリウムはっ!?
spit:「消費。

Abd:「NGワード?
appi:「それはそれで、ネタですねー。


すべてのウィンドウ、オープン! mayumi:「うあぁ、スピたんー!(;´Д`)ハァハァ
spit:「いや、それなんか違うし。

spit:「まゆみ嬢、俺にカーソルあわせてみ?
 隣にいたまゆみ嬢に言います。

mayumi:「かわらなーい!

 ギルドを作った人間は、ギルドマスターになります。つまり、必然的にギルドに加入することになるのですが…

spit:「はっ!?
 スピットは気づきました。


これは!?
spit:「微妙に名前の表示位置がずれてる!?


 はっとしたまゆみ嬢がたたたっと走り出しました。
 「ハテ?」とスピットが首を傾げていると、まゆみ嬢が戻ってきます。


mayumi:キター!

spit:「なにが?
mayumi:「一度城に入って画面切り替えしたら、見えるようになったよ!

spit:「なにッ!?

 スピットは急いで城に向かいました。*4


mayumi:「んー、そんなベタな名前は誰も取らないって事で。
spit:「俺は絶対誰か取ってると思ってた。
ita:「よーし、ベンチ集合!
appi:「はい〜。
Abd:「遠いなー。


 さて、すでにとなりにいるまゆみ嬢が、スピットに言ってきます。
mayumi:「ギルド、ギルド♪加入、加入♪
spit:「ま、まてまて。
mayumi:「役職は『ハァハァ母さん[未婚]』で。

spit:「…


 役職?

spit:「ギルド加入は、人を右クリックでできるのかな?

 と、スピットはまゆみ嬢を右クリック。
 表示されるメニューに「ギルド加入要請」とあります。

spit:「ふんふん。

 しかし…

spit:「…ギルドの状態って、どこで見るんだ?

 自分を右クリックしても、出ません。

 /hのヘルプコマンドでコマンド一覧を見ても、ありません。


spit:「…
ita:「おいおい。
 ぺこぺこに乗ったイタがベンチにたどり着くなり言います。
ita:「バクか!?


 なんでもかんでもバグにしてはいけません。

appi:「わかった!


appi:未実装!


 なんでもかんでも未実装にしてはいけません。*5


spit:「調べる。
 そう言って、スピットはプロンテラの空を見上げました。

spit:幽体離脱。
 ふっと、スピットの意識が抜けます。
 ぽつーんとプロンテラベンチに座るスピットをイタとまゆみ嬢は無言で見つめていました。

mayumi:「なに?
ita:「さぁ?*6

spit:「ただいま。
ita:「早っ!

spit:「よし、わかった。alt+Gだ!

 スピットの声とともに、スピットモニターにウィンドウが起動します。


画面の1/4

spit:「しかも、デザイン微妙。*7
 ふんふん〜と鼻歌を歌いながら、スピットはギルドウィンドウを確認していきます。

spit:「ギルドにもレベルがあるんだ。ふーん。

ita:「未実装。

spit:「管理領地だって。領地もらえるのかなぁ。

mayumi:「みじっそー。

spit:「ギルドにも性向があるんだねぇ。

Abd:「未実装〜。

spit:「同盟ギルドと敵対ギルド…

appi:「みじっそぅー。


 っていうか、実装されているものはどれですか?

 とにもかくにも、ギルドにメンバーを追加です。イタをギルドに加入させ、続いてまゆみ嬢、やってきたアブ、最後にアピと追加して行きます。
spit:「…アブ、反応遅いよ。
Abd:「え?要請がきてませんよ?


 それは重いからです。


mayumi:「役職つけてー。
 まゆみ嬢が言います。
mayumi:「ハァハァ母さん[未婚]で。

spit:「さっきからやってんだけどなぁ。

 スピットは返します。
 先ほどからギルドウィンドウにある、「職位」設定を変えてみんなに職位をつけようとしているのですが、何遍設定しても元に戻ってしまいます。

spit:「まさか…

mayumi:「?


spit:未実装!?

 じゃあギルドの職位を持っている人は何なんだよ。


 何遍か試しているうち、スピットにもなんとなく理由がわかってきました。

 どうやら、ギルドの設定を管理しているデータベースサーバにまで、更新データが届いていないようです。ある一定の時間がたつと、自然にギルドデータをダウンロードしてくるらしく、それによって上書きされてしまっているようでした。*8


Abd:「首都だからねー。
appi:「すいてるサーバ行きますか?びばびばとか。*9
spit:「ここから一番近い別サーバって、どこだ?
mayumi:「砂漠の分かれ道かな。
ita:「南だ。

 スピットは立ち上がります。


spit:「いざ、南へ!

 さて、そんな訳で南は砂漠の分かれ道。

spit:「おおっ、さくさく動く!

mayumi:「役職ー!
spit:「わかったから。

 スピットはまゆみ嬢に役職をつけました。


mayumi_sakura [Prontera-Benth]
Ragnarok (『ハァハァ母さん[未婚]』)

職位をつけました

ita:「いいのか、こんなん…
Abd:「どういう役職なんでしょう…

spit:「他のみんなは?

ita:「紙ナイト。
Abd:「極端ですねぇ。
mayumi:「デフォナイトってどーですか?
ita:「あー、それもいいなぁ。じゃ、『デフォ騎士』で。

ita-yu [Prontera-Bantch]
Ragnarok (デフォ騎士)

spit:「すごいんだか、すごくないんだか。

Abd:「私、『冷たい奴』で。
spit:「氷結魔導士だから?
Abd:「そのうち、『冷酷な奴』になります。

Abdough [Prontera-Bantch]
Ragnarok (冷たい奴)

appi:「じゃ、私は『あぴらいと』で。

appi [Prontera-Bantch]
Ragnarok (あぴらいと)


Abd:「おおー、あこがれの職位!
appi:「で、スピさんはどうするんですか?



 聞かなくてもいいことを、アピが聞きます。

spit:「決まっている!

 スピットはようようと答えました。



どーん!

Abd:「やっぱりそれかー!
mayumi:「べたべただー!
ita:「ってゆーか、そのエンブレムはなんだ!?
appi:「著作権が、著作権が…*10

spit:「さぁ、いくぞ!ギルド、『Ragnarok』の面々よ!
ita:「どこへよ。
mayumi:「べたべただぁー。べと液なげてやるー!えいえい!
Abd:「ある意味、知名度は一番高いエンブレムですねぇ。
appi:「lokiサーバいちの有名人を目指して?


spit:「いくぞ!

 アークワンドをふるって、スピットは歩き出します。

 今まさに、低レベル魔法使いギルドマスターのギルド、『Ragnarok』が動き出したのでした。


*1 ギルド作成コマンド。発言欄に/guild ギルド名 でギルドを作成する。
*2 言うまでもなく、このゲームのタイトル。
*3 重複するギルド名はつけられません。
*4 どうやら、そういうもののようです。この後もさらにこんな話が続きますが、ギルド作成時の注意としては、
 「すいてるサーバでやった方が無難」
 情報が落ちてこないようです。
*5 ベータ2なので、未実装やバグはまだありますが…
*6 オンラインゲームなので、当然、インターネットに繋がっています。スピットはRagnarok起動のまま、ブラウザを起動して、インターネットに調べに行ったのです。
 幽体離脱。(ただしこれをするとたまに発言欄が発言できないバグに見舞われる。正確には描画がおいつかないだけのようだが)
*7 後から足したからかなぁ…
*8 ちなみにパーティ情報も同じよう。ギルドの方が情報が多いせいか、反応が遅いです。ちなみに更新データはタイムアウトすると、消える様子。
*9 びばびば。アルベルタのこと。BGMに入っている声が「あびばびば」と聞こえる。本当は違う。近くに冒険するところもすくないので、比較的すいているエリア。
*10 エンブレムをつけるにはragnarok.exeの置かれてるのと同じ階層に[Emblem]というフォルダを作って、その中に24x24の256色ピットマップを入れると選択することが出来ます。透過色を作りたい場合は、RGBで、255,0,255を使用します。一度つけたエンブレムを、何らかの理由ではずしたいときは、この色のピットマップをエンブレムにするしかありません。(blank.bmpとかして入れておくと便利)
 ちなみに著作権云々という話がありますが、このエンブレム、ゲーム内でなら誰がどう見ても出所わかりますし、これによって制作者の利権に関わることもないでしょうから、問題はないでしょう。(怒られたらやめます)
 ちなみにゲームをされていない方へ。これは「Ragnarok.exe」のアイコン。(24x24 8bitにしてありますが)