前回までのあらすじ
フェイヨンダンジョンを冒険し、自分たちのレベルの低さに特攻断念をしたスピット一行。
予定変更、街巡りツアーを開始して、一行は港湾都市、アルベルタをぐるりと観光。
港、船、道具屋の看板娘、宿屋やなんかを巡り巡って、さて。
spit:「次は、モロク!
街巡りツアー第二弾は、砂の町、モロクです。
アルベルタからの空間移動を終えると、乾いた風がスピットたちの間を抜けていきました。
乾いた、と言っても、アルベルタでのそれとは違います。舞う風の中には砂が混じり、焼け付くような日差しに、ぴりぴりとした感じの、風です。
砂の町、モロク。
砂漠の中のオアシスにぽつんと出来た、小さな町です。
spit:「ここがラバの生まれた町だね。
ita:「盗賊の町か。
spit:「
ショボコソ。
luvas:「何か言ったか?スピット。
spit:「いや、何も。
*1
一行はモロク巡りをはじめます。
町の中心にある建物に入り、地下牢を巡り、武器屋でスピットがグラディウスをまさせようとして、「いくらだ?」「アルベルタからモロクに行く金がない奴に聞く台詞か?」
で、その牢屋に閉じこめられそうになったり、ふと立ち寄ったパブで、人のいないのをいいことに、カウンターにイブと並んで主人を気取ってみたり…
一通りモロクを巡ったあと、イタが言いました。
ita:「さて、じゃああとは…
spit:「だな。
決まってます。
spit:ita:「モロクと言ったら、
ピラミッド!
Abd:「ですよね〜。
luvas:「マジか。
モロクより北北西。
その場所には王家の墓、ピラミッドが建っています。
巨大なその建築物は、ここより遥か北にある魔法都市ゲフェンの魔法技術すらもしのぐほどの威圧感を示しながらそびえ、モロクの人々を畏怖させ続けていました。
が。
spit:「ピラ、
突貫死!
スピットたち冒険者にとっては、関係ありません。
そう、たとえ王家の墓を守る番人たちが、手練れの冒険者すらも
一撃で屠ると聞かされていても、
些細な問題です。
さすがです。
luvas:「そういやぁ…
ピラミッドの中を行きながら、ラバが言いました。
luvas:「俺、盗賊になるためにここに来たとき、スピットと同じ髪の色した剣士に助けられたんだよなぁ。
spit:「はふ?
luvas:「そうそう、スピットとよく似てて、で、同じ帽子をかぶってた。
ita:「…
eve:「それって…?
spit:「他人のそら似だ。
スピットは言います。
くたびれた帽子の中の翡翠色の髪が、たいまつの灯りに光ってました。
luvas:「その人たちとしばらく冒険して、で、プロンテラに行って、ベンチでスピットたちとあったんだよ。
Abd:「ほー。
luvas:「で、ここが盗賊ギルドの入り口だ!
*2
スピット、あんまり関心なさそうに言って、てくてくと奥へ向かいました。
spit:「そして…
たどり着きました。
皆も集まってきます。
spit:「即死はさけろよ。
スピットが言います。
ita:「無理。
Abd:「へ?
eve:「一階との差が激しいのね。
spit:「では。
意気揚々と、スピットたちは階段を駆け上がっていきました。
spit:「行くぜ!
漢字が違います。
っていうか、あまりにも早っ。
さて、モロクへと戻ってきた一行。
町の中心から少し外れたオアシスの脇で、体力を回復しています。
さすが剣士です。
spit:「これからどうするー?
砂漠を抜ける風に揺れるオアシスの水面か、はたまたその間に座るイブの姿か、何をというわけでもなく、見るとはなしにその方向を眺めながら、スピットが言います。
ita:「プロンテラに帰るか。
spit:「金はねぇぞ。
eve:「知ってる。
Abd:「歩きですかねー。
luvas:「冒険者たちは、世界中を歩いて回るモンだ。
spit:「ま、そだな。
言って、スピットは立ち上がりました。
モロクから、目指すはプロンテラ。
砂漠を越える旅です。
その砂漠の途中…
通称ゴーレム砂漠にさしかかった時でした。
魔法生物ゴーレムは、高い防御力、攻撃力を持った、中の上のモンスターです。
ただし、魔法に対する耐性が低く、多くの中、上級魔導士の経験値稼ぎの相手として重宝されているのです。
鼻息も荒く、スピットは言います。
spit:「ゴーレム倒せりゃ、
いちにんまえ!*3
ふんふんと杖をふりふり、ゴーレムにねらいを定めます。
spit:「でも、ごれむにはどれくらい魔法か効くんだろ。
ふとスピットがつぶやくと、
eve:「じゃ、先に攻撃してあげるよ。
と、イブ。
アルバレストをいきなり放ちます。
spit:「まて、おい!
あわててスピットは魔法を唱えました。
詠唱時間が長いのが、スピットの魔法の難点です。アブやラバと一緒に戦うときは、先にスピットが魔法を唱え出すのがお約束なのですが、イブはそんなこと知りません。
危ういです。
eve:「死ぬかと思った。
spit:「ばかものー!
spit:「しかし、これでわかった。
luvas:「なにが?
spit:「LB、Lv10でも倒せない。
ita:「ダメじゃん。
しかし、スピットは「ふふん」と笑いました。
spit:「奥義を使うか。
eve:「おうぎ?
spit:「アブ!
Abd:「おう!
spit:Abd:「合体魔法だ!
Abd:「いったー!
spit:「ふはははははは!
eve:「今、すごいダメージ出てた…
ita:「凍らされた敵は、雷魔法で2倍のダメージなんだよ。
luvas:「合体魔法か…
Abd:「決まりましたね。
spit:「無敵!
*4
spit:「よーし、アブ。がしがし行こう!
Abd:「でも、ひとつ問題があります。
spit:「はえ?
Abd:「
私に経験値が入りません。
spit:「三゜д゜)Σ
これ以降、スピットとアブの合体魔法を見た者はいません。
そして、プロンテラ。
そのベンチ。
たどり着いた一行が、ベンチの前にたむろしています。
spit:「いやー、今日は歩いたなー。
luvas:「だねー。
Abd:「今日はよく眠れそうです。
ita:「確かに。
みんな、笑います。
そして一番にはアブが立ち上がりました。
Abd:「じゃ、私は先に失礼します。
ita:「おつー。
luvas:「おう、じゃ、俺も行くわ。
アブに、ラバも続きます。
ふたりは手を振りながら、プロンテラの街並みへと、消えていきました。
ita:「じゃ、俺も収集商人にモノ売って帰るわ。
spit:「おつか。
eve:「おつかれさまです。
ita:「スピ、金、今度返せよ。
spit:「ネェよ。
即答するスピットに笑って、イタも手を振りながら、プロンテラの街並みに消えていきました。
プロンテラの陽が、傾き初めていました。
ベンチにふたり。
スピットとイブ。
幼なじみのふたりですが、なんとなく、ふたりきりになると会話がなくて、スピットは夕暮れていく空をながめていました。
話すことがなくて、言ってみます。
イブが返します。
夕暮れの風が、プロンテラの街を優しく吹き抜けていました。
eve:「あのさぁ、スピット。
ふいに、その風の中に向かって、イブが言いました。
spit:「ん?
eve:「スピットはなんで、冒険者になったの?
spit:「何を突然。
eve:「しかも魔導士。
spit:「いいじゃんか、魔導士。強いぞー。何しろ、剣士には絶対に出せない大ダメージを出すことが出来る!
eve:「出来てないじゃん。
spit:「そのうち、出来るようになる。
半分以上、怒った風にして、スピットは言いました。その、まるで子どもみたいな物言いに、イブは小さく、笑いました。
eve:「スピットは剣士が嫌いなんだね。
spit:「それは違うぞ。
スピットは返します。
spit:「俺はイタとか、Kさんとか、本当に剣士として尊敬している奴らもいるぞ。
eve:「でも、自分は剣士になりたくなかったんでしょう?
夕暮れ。
プロンテラの夕暮れ。
スピットはその空を見上げて、軽く、言いました。
spit:「たまたまだ。
スピットのその、帽子の下に隠れた翡翠色の髪が、夕焼け色の風にかすかに踊っていました。
spit:「そういうイブだって、なんで冒険者なんか…
eve:「ちょっと待ってて。
すっくとイブは立ち上がりました。
spit:「んあ?
立ち上がったイブは、スピットを置いて、街の中へと走りながら言います。
eve:「ちょっと待ってて。あわせたい人がいるんだ。
spit:「あ、おい。イブ!
スピットも立ち上がって言いましたが、イブはプロンテラ中央広場の方へと走って消えてしまいました。その背中が、人波の中に消えて見えなくなります。
スピットは半開きにしていた口をむにむにと閉じ、「帰ってご飯が食べたいんだが…」ぽつり。
とりあえずスピット。
ひとり、夕暮れのプロンテラベンチ前でたたずんでいます。
帽子をひょいとかぶり直し、走っていったイブにため息を吐いて、待ちます。
夕暮れに家路へ急ぐ子どもたち、通り過ぎる冒険者たちを眺めながら、どれくらい待ったでしょう。
ふと、スピットを呼ぶ声がありました。
呼ばれて、スピットは振り向きます。
spit:「何してたんだよ、イ…
そこにいたのは、イブではありませんでした。
赤い髪の少女は笑います。
笑って、言います。
「はじめまして」
「あ、はじめまして…って、誰?」
赤い髪の少女は笑いながら、言いました。
「いつも姉がお世話になっております」
と、ぺこり。
スピットはその女の子の顔とそしてその声、台詞に、ぽつりとつぶやきます。
「姉…って…」
「はい」
女の子はにこりと笑いました。
スピットは目を丸くして、言いました。
「イブの妹!?」
「はいっ!」
女の子は、元気いっぱいに言います。
そして、スピットの目をまっすぐに見つめて、言いました。
「スピットさん!」
「はい!?」
「わたしも一緒に、冒険させてくださいっ!」
「はぁ!?」
スピットは目を丸くしたまま、返しました。
そして翌日。
プロンテラベンチに集まったいつものメンツもまた、目を丸くするのです。
アーチャー、イブの妹。
スピット一行の、念願のアコライトである彼女の姿に。
appi:「姉がスピットさんたちとご一緒出来ないときに、私がみなさんと冒険する、アピと言いますっ。
appi:「まだかけだしアコライトですが、どうぞよろしくお願いしまっす!
spit:「とまぁ…そんなわけでなんだ…新しい仲間だ。みんな、仲良くするように。
ita:「でかした!
Abd:「念願のアコですねぇ。
luvas:「よろしく、アピ。
appi:「はいっ。
そして今日もまた、スピットたちは新しい冒険へと、旅立つのです。
ita:「どうしたスピット。浮かない顔して?
プロンテラの道を歩きながら、イタが言いました。
spit:「いや…
アピとアブ、ラバがふたりの前を歩いています。
スピットはその背中を眺めながら、小首を傾げて言いました。
spit:「イブに妹になんか、いたっけな?
ita:「アピがそうだろ。
spit:「いや、そうなんだけど…あれ? そーだったけな?
ita:「何をいってんだ。
spit:「んー…
ita:「他の女の子ばっかり追っかけてるからだろ。
そう言って、イタは小走りに前の三人へと向かって行きました。
スピットは歩きながら帽子を取って、こりこりと頭を掻きました。
appi:「スピットさん、早くいきましょう!
アピの声が、プロンテラに響きました。
spit:「おーう。
帽子をかぶり直して、スピットは返しました。
*5