プロンテラベンチ。
スピットはそこに向かう間にもいつもと違う首都の雰囲気にきょろきょろしていました。
spit:「なんか、スゲー冒険者の数が多いな…
プロンテラはミドカルドの首都です。
いつも、冒険者の数は多いです。にしても、今日の数は尋常じゃない。商人さんたちが露天を出しているのはいつものこととしても、普段はあまり見かけない剣士やシーフも、道ばたに座って話しています。
spit:「なんだろ。
いつものように、中央噴水広場を抜けて、スピットがプロンテラベンチへと向かっていた時でした。
spit:「なにッ!?
人、いすぎ!
spit:「な、何かのイベントかしら…
こんな人だかりは、プロンテラではお祭りの時以外には見たことがありません。
とは言っても、今日はお祭りがあるなんて話は聞いていません。それに、お祭りならプロンテラ市民の姿も見えるはずです。でも、今日は市民の姿がありません。
集まっているのは、冒険者たちだけです。
spit:「いったい、なんのイベントだろ。
眺めていると、噴水の上に立っていた商人さんが、声高に叫んでいました。
「お集まりの冒険者の諸君!
今日、この場所に、モンスターが襲いかかってきます!
勇気ある者、力のある者はいまここに集い、ともに戦いましょう!」
spit:「…
spit:「
ナヌ!?
モンスター襲撃と商人さんはいいました。
spit:「ホントに?
集まった冒険者たちの間からも、「デマじゃねぇか」「本当に街にモンスターでるの?」「なんか、ボスクラスがでるらしいぞ」「すでに、伊豆では出たらしいぞ?」なんて声が聞こえてきます。
もしもデマなら、ここまで人が集まることはないでしょう。スピットは背筋がぞくぞくしました。
空を見上げると、曇天の空。
重く苦しい、首都の空気。
モンスターの街襲撃。
見れば、どこの家も鎧戸を閉めて、しんとしています。
spit:「…
スピットは背筋がぞくぞくしました。
spit:「プロンテラは、
俺が護る!
いや、
確実に無理。*2
ぞくぞくにどきどきしていると、ita-uから電波がきました。
ita:「なんか、プロンテラがすごいことになってるな。
どうやら、イタもプロンテラベンチに来たようです。
スピットは電波でイタに返します。
spit:「モンスター襲撃だって!
ita:「ああ。
ita:「
こっちもか。
spit:「…
spit:「
他のトコもあるの!?
イタの話によると、どうやら他のところでもたまにある話だそうです。
*3
スピットはプロンテラベンチに急ぎます。
このお祭り騒ぎに、参加しない手はありません!
ミドカルドの冒険者ならば!
スピットは早速情報収集を始めました。
*4
どうやら、
モンスターの襲撃の時間は今日。ミドカルドの街のどこかに、ランダム。
以外の情報はないようでした。
spit:「それなのに、首都にこんなにたくさん…
ita:「情報によると、イズルードもモロクもゲッフェンもフェイヨンもこんな状態らしいよ。
spit:「ダンジョンはすいてるだろうなー。
しかし、こんな時にダンジョンに行くなんて、
ミドカルドの冒険者じゃない!とスピットは思いました。
*5
てくてくふたりがプロンテラを歩いていると、南門の前に、人だかりを見つけました。
spit:「整列してる!?
イタが聞くと、その列の最後列にいた商人さんが返しました。
「首都防衛、職業別ラインです」
spit:「…
見れば、職業別にラインを作って、皆、南門方向を向いています。
「敵が来るとすれば、このもっとも大きな南門からです」
商人さんは言います。
ita:「下水方面からなら、西門じゃあ…
spit:「…
イタの声が聞こえないスピット。
防衛ラインを作る皆の姿に、言いました。
spit:「
マジ列はどこですかっ!?
並んでるし。
しかし、マジシャン列が最前列というのは、非常に非、戦略的な気もします。
スピットはそんなこと、気にしちゃいませんが。
*6
さぁ、後は敵が来るのを待つばかり。
戦闘準備は整いました!
しかしもう、何がなにやら。
お祭り騒ぎです。
スピもわくわくどきどきです。さすがはミドカルドの冒険者たちです。
集まると、手に負えない騒ぎです。
記念撮影を始める人、お嫁さん探しを始める人、物売り、物乞い、「へーちょ!」「みんな、サングラスにしよう!」「いや、みんなネコミミ!」「女マジすくなぁい!」「緑髪すくないなー」
*7
spit:「!?
見回すな。
デマ情報も飛び交います。
「伊豆でバフォメットがでた」「モロクで金ゴキがでた」
*8
時間ばかりが無駄に過ぎ…
あれ?スピット?
いえ、彼女は
シーフです。
間違えんなよ。
ついにはこらえきれなくなったマジシャン列の一人が、魔法を炸裂させました。
spit:「むあっ!?
マジシャン列が、突然
魔法大会に変わります。
ひんしゅくです。
*9
spit:「……
ita:「耐えろ、スピ。
列のどこかにいるイタから電波が飛びます。
spit:「ぼ、僕はそんなコトしないよー。(ぷるぷるぷるぷる。
漏電雷魔導士です。
*10
マジ列の魔法大会が一段落した頃、誰かが、ぽつりと言いました。
*11
「でも、よく考えてみたら、ここで本当にモンスターが出たら、
マジ列全員で魔法使ったら、確実に落ちるんじゃねぇ?」
マジ列のみんな:「
ii゜Д゜)
この数のマジシャンが皆、一斉にボルト魔法、NSやSSを連打したとなれば、ボスより先に
それで消滅する人が出ても不思議ではありません。
*12
そんなおり、スピットたちに電波が届きます。
Abd:「な、なんだこのプロンテラの状況は!?
spit:「あ、アブ。おはよ〜。
ita:「モンスター祭りらしいです。
Abd:「よくわからないですが…
Abd:「
混ざることにしますか。
やっぱりスピットのお友達は祭り好きです。
突然、剣士の誰かが叫びました。
「モロク、出ました!」
でも、誰も驚きません。「デマ、ちゃう?」「そんな情報入ってないよ」
剣士さんは、叫びました。
「パーティから、電波が入ったんだ!これは確実だ!モロクに出たぞ!!」
しん、と一瞬、静まりかえりました。
spit:「なんだろ?
スピットは電波でイタとアブに聞きました。
ita:「なんだろ。
そして突然、
座っていた人たちが立ち上がり、南門へと向かってかけだしていきました。
誰かが叫んでいます。
「いま、パーティに確認!」「モロク情報、本当です!」
「行くぞ!」
「伊豆も出た!真情報!」
南門前があわただしくなります。
皆が走っていきます。
スピットはぼーぜんとして、その光景を見ていました。
気がつくと…
spit:「…なんだ。
spit:「みんな、戦いたいだけで、別にプロンテラでなくてもいいんだ。
ちょっとスピットは悲しくなりました。
ita:「ふ。
どこにいたのやら、イタ。
spit:「あほぅ。
ita:「どうする?うちらもモロクに行く?
spit:「うーん…
スピットはちょっと考えました。
けど、残った人たちを見て、言いました。
spit:「ここにいる。
南門から噴水広場を抜けていくと、そこにはプロンテラベンチがあります。
スピットたちのたまり場です。
spit:「せっかくだし。
そういって、スピットは崩れたマジシャン列のはじっこに、並び直しました。
イタも仕方なさそうに笑って、崩れた剣士列のはじっこに並び直しました。
残っていたマジ列の誰かが言います。
「商人列に負けるなー」「♪〜」
「ぜんたーい、右向けー、右!」
「♪〜」
「今度はー、斜め!」
マジ列に、なんぞ
妙な結束が生まれています。
きっといまここにモンスターが現れれば…「全員、SS、SPの続く限り連打!」
なんていう誰かの声に、
阿鼻叫喚の地獄絵図なのでしょう。
spit:「みんな、たのしー!
いつの間にか、最前線はアーチャー列です。
「理想的には最前列が剣士さんで…」
「次がシーフ」
「マジ列、アチャ列ですかねー」
並ぶことに重きを置く中、隊列話もちらほらです。
「サイトー!」
マジ列の誰かが魔法を使います。「重いから、やめれー!」
spit:「さいとー!
使えません。*13
「サンダー、ストーム!」
spit:「
ii゜Д゜)
ita:「耐えろ、スピ。
spit:「(うずうずうずうずうず
spit:「さいと〜。
なんとかスピット。こらえます。
マジ列の後ろ、剣士列の中から、誰かが言いました。
spit:「マジ列に対する、挑戦ですかっ!?
spit:「まじゅしつしゅじゅつちゅ…あぁ。
*14
「ふ」
挑んだ剣士さん、笑って…
「いんじゃね?(w
spit:「まぁ、いいんじゃね?
いつの間にか、列も修復して来ました。
そんなとき…
ita:「ノービス!?
*15
「いんじゃね?」
「むしろそれも、いいんじゃね?」
と、ノービスさんは、最前列に座ります。
spit:「ノービス前でも、いいんじゃね?(w
そしていつの間にやら、ノービス列が!
「はしっこのノービスさん、前が見えないんで、座ってくださーい!」
端っこのノービス:「なにを言う!
端っこのノービス:「
座れないこそ、
真のノービス!!
全員:「
ii゜Д゜)
「男だ!!」「いんじゃね?」「むしろそれでも、いいんじゃね?」「へーちょ!」
「へーちょ!」
「へーちょ!!」
何がなにやら、お祭り騒ぎです。
*16
ふと、スピットの近くにいたマジシャンさんが言いました。
「
カウンタ消えたら、みんなでalt+3!」
*17
spit:「alt+3〜!!
スピットも言います。
「3、2、1、0、…」
「みんなで大合唱〜」
「ずれてるけど、いいんじゃね?」
spit:「いんじゃね?
スピットはもう、どきどきです。二つ隣にいた言い出しっぺのマジシャンさんも笑ってます。
「次は、ウェーブ!」
spit:「OK〜。
隣の人が立つのに合わせて、たちあが…
spit:「れない!
*18
「重いからむりじゃね?」
そし再び、サイト大会。
spit:「あーもー、何がなんだか!
「いんじゃね?
spit:「ま、いんじゃね。(w
「別に、もうモンスター来なくてもいいんじゃね?」
それは言いませんでしたけど。
Abd:「ああ、やっと見つけた!
spit:「?
スピットの隣があいたのを見計らって、アブがやってきました。スピットに向かって聞きます。
スピットは軽く返しました。
spit:「首都防衛ライン。
ita:「もはやその意義を失いつつある。
Abd:「
参加するか。
アブも参加です。
でも、少しだけいて、またどこかに行ってしまいました。
Abd:「噴水の方にいて、向こうに出たら知らせるよ。
spit:「あい。
ita:「しかしスピット、なんか、いい位置座ってるなー」
spit:「?
ita:「前だよ、前。
spit:「前?
気がつくと、スピットの目の前の剣士列が、青髪ネコミミ剣士列になっています。気づいてはいましたが、人数がすごいことになっています。
気がつけば、6ツ子。
スピットの二つ隣の、先ほどのマジシャンが言います。
「個人的にはハーレム状態♪」
spit:「(くんかくんか
ita:「やめなさい。
女剣士(青髪ネコミミ隊)も、ノリ気です。
spit:「買える…
ita:「人身売買じゃね〜か〜。
*20
くるりと、ネコミミ隊が振り向きました。
spit:「
!?
「わぁぁ」
「し、死ぬ…」
マジ列男ども、でれでれです。
「男子参加費、
1Mz〜」
spitと隣の3人:「
ii゜Д゜)
「当然です♪」
spit:「ぼったくりバーだぁ。
*21
さて、かれこれそんなことをやって4時間あまりも経過した頃…
南門を抜けて、一人の剣士さんが歩いてきました。
「みなさん!聞いてください!」
剣士さんが言います。
「このたびのモンスター街襲撃イベントの情報です」
みな、剣士さんの方を見ました。
剣士さんは手にしていた羊皮紙を広げ、読み上げました。
「モロクに現れたモンスターは…黄金蠱、バフォメット、ムナック、オシリス、サイドワインダー、ベリット」
「伊豆に出たって聞きましたけどー?」
「それはデマ情報です」
「伊豆はアイリスだろ」
「アルベルタにバフォメット、黄金蠱、ハンターフライ、超兄貴、ベリット」
「以上」
「さて、みなさん!」
「ここに集まって、首都を護ろうとしたみなさんの心意気、大儀でありました!」
「今後、本当に首都にモンスターが襲撃するかは、現状ではなんともいえません」
「ですからみなさん」
「あまりこの場所にずっといると、住民のみなさんのご迷惑になります」
*22
その剣士さんの言葉に、誰かが列から立ち上がって、言いました。
「皆さんの防衛精神は、すばらしかったと思います」
*23
剣士さんも言います。
「心やさしい皆さま、我こそは、という方は移動などお願いいたしまーす」
spit:「…
スピットは座ったまま、空を見上げました。
前に座っていた女剣士さんたちの何人かも、その声を聞きながら、空を見上げていました。
spit:「イタ?
ita:「んー?
spit:「…もどろっか。
曇天だったはずの空が、いつの間にかいつものプロンテラの空になっていました。
空気も、いつものプロンテラの空気に、戻っていました。
いつからそうだったのかは、わかりません。
スピットたちは、ずっとここにいました。
「モンスターが街を襲う」
そんな話を聞いて、そしてここ、首都防衛ラインに並び…
でも、プロンテラにはいつもの冒険者たちがいました。
笑い、はしゃぎ、たまにケンカして、ちょっとどきどきして、それはいつもと同じで。
いつもの、プロンテラの空。
spit:「よいしょ。
スピットは立ち上がりました。
spit:「行きます。
spit:「また、どこかで出会ったら、今日みたいにたのしくはしゃぎましょう。
スピットは笑います。
マジ列のみんなも、笑ってました。
spit:「イタ、行こう。
ita:「あいよ。
スピットは電波でアブにも言います。
軽く、笑って。
「プロンテラベンチに」
そしてプロンテラベンチ。
spit:「しかし、楽しい時間だった。
ita:「たまにはこういうのもいいね。
Abd:「これでもモンスター襲撃があれば、最高だったんですけどね。
spit:「ま、いいんじゃね?(w
ita:「誰かの口癖、移ってるし。
spit:「楽しかったけど…でも…
Abd:「でも?
ita:「やめろー!
スピットのフラストレーションの解消法?
決まってます。
spit:「ふー。
晴天のプロンテラの空に向かって、スピットは笑っていました。
spit:「だって、サイト、使えないモン。
ita:「おまえ、マジ列の中でずっと魔法使いたかっただけだろー!
spit:「ふ。
ita:「まてや!ゴルァ!!
Abd:「次の冒険ですか?
プロンテラを走っていくスピットの後ろに、イタとアブも続きます。
果てしなく広がる青い空は、ミドカルドの大地をすべて包み込んでいました。