これは、突如外宇宙からやって来た謎の寄生体メガネと、太古の昔から地球を守るために存在する原始生命体ラガンの末裔の熱く激しく壮大なストーリーである。  ……たぶんな。    ラガンVSメガネ「伏兵」  ラガンの末裔である俺とミコの平穏な生活は、突如中空から現れたメガネの尖兵に壊された。俺たちの幼馴染である加賀にメガネが寄生したのだ。俺たちの知己であるというのを利用したメガネの卑劣な策略は俺たちを苦しめた。しかし、意識の残っていた加賀の壮絶な覚悟により、俺たちは加賀の犠牲を伴いながらもメガネの魔の手を退けたのだった。  ……って書いとけばいいよな。 「成仏しろよ、加賀」  口から変なものをケロケロしている加賀に俺は両手を合わせた。まだ死んでないけど、このまま放置され解けば死ぬだろ。むしろ、俺の輝かしい人生のために死ね。  さて、だるくなったし帰ろうか、と学生らしからぬ思考とともに未だ伸びているミコを回収しようとした俺に何処からともなく声がかかる。 「ふっふっふ、能力の開放されていない出来損ないを排除したくらいでいい気にならないで欲しいわね、原始生物……」 「おいおい、今度は誰だよ……」  やれやれと肩をすくめながら、声がすると思しき方向にあたりをつける。  ……上?違う。下はありえない。倒れているミコと加賀の方向をそれぞれ見ても特に存在は感じられない。車道側というには声が近い。とすると…。 「…………」 「ふっふっふ、どうしたのかしら?壁なんか見つめちゃって……。メガネの恩恵がない原始生物はやっぱり駄目ねぇ」  ……それは光を反射していた。  なんて言ったらいいか解らないが、学校と歩道とを仕切る塀の上に光を反射する「何か」があるんだ。  あ〜、……具体的に言うと、反射しすぎる眼鏡?  俺は加賀の横においてある自分のバックを拾い、無造作にその謎の光に向かってぶん投げる。  結構いい加減に投げたつもりだったんだが、運よくバックはその光にぶち当たり「ちゃいな!?」と悲鳴だか国名だかわからない……こいつらには何かルールがあるのか?……叫び声を上げながらバックとともに塀から落ちていった。  そういえばあの辺って古くなった机やら椅子やらを放置する区画だったような、と俺が思った次の瞬間、地面にぶつかった落下音ではなく、がい〜〜〜〜んと言うやたら情けない音が塀を通り越して響く。……何にしてもご愁傷様としか言いようがないな。  一拍遅れて明らかに変な場所打ちましたと証明するように「うー」だの「にょー」だの呻き声が聞こえてきた。  なんていうか、どっと疲れる。  俺はこれから起きるであろうラガンの末裔とメガネの人知を超えた戦いが脳裏をよぎり、これから俺が行うべきである行動を決めた。 「よし、めんどくさいし帰るか」 「待ちなさーーーーーーーーい!!!!」  聞こえるように言ったつもりはないのだが何故か聞こえていたらしく、普通の人間では有り得ない勢いで塀の上に立つ。メガネの力とやらを使ったんだろう。……もう、どうでもいいや。 「私立百目木学園理事会直属!最強にして最凶にして最恐の名を欲しい侭にする我が独立風紀委員会断罪執行部!筆頭!!百目木姫子を無視するとはおそれ多い!」 「お得意の台詞から最狂が抜けてんぞ、いいんちょ」 「いいんちょ言うなーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」  最も強く最も禍々しく最も恐れられる、と言えば箔はつくんだろうが周りから見れば最も狂ってるという風評の独立風紀委員会。中身は噛み砕いて言うと理事の孫だぞ権力寄越せ、以上。ちなみに、件の百目木姫子さんは当委員会の会長であり、副会長であり、書記部長であり、資材部長であり、情報部長であり、審判執行部長であり、断罪執行部長兼筆頭である。……会計部はポケットマネーだからないそうな。  まぁ、そんなことは……、 「どうでもいいけどな。そんな場所に突っ立ってるとパンツ見えるぞ」 「っ!!!!!」  俺の台詞に姫子さんは顔を真っ赤にしてスカートを手で押さえながらしゃがむ。呟くように「み、見た?」と言うので首を横に振ってやる。姫子さんは安堵のため息をつく。 「ら、ラガンの末裔……。よくぞ私の隠行を見破ったと褒めてやる」 「解ってるだろうけど、カッコ悪いぞ?いいんちょ」 「うるさい!」  いいんちょ言うなー、と言うオーラとともに塀の上からがーっと唸る。が、しゃがみながらなので威圧感の欠片もない。 「出来損ない一匹倒したくらいでいい気になってるんでしょうけど、私はそんなに甘くないわ」 「そういう台詞はまず立ち上がってカッコつけてから言って欲しい」 「で、できるわけないでしょ!」  俺のある意味もっともな主張に姫子さんはある意味もっともな主張を顔を真っ赤にして返す。……宇宙寄生体のプライドも乙女心には敵わないらしい。 「そんなのはさておき、本物のメガネの力って奴を見せてあげるわ!覚悟しなさい原始生物!!」 「……マケルテタマルカー」  もう、ホントどうでもいい……。  そんな俺の投げやりな台詞を他所に、姫子さんのメガネが怪しく輝きだす。ようやく自分のペースになったことが嬉しいのか、姫子さんの表情も爛々としはじめる。 「ふっ、原始生物……。この光はね、生物の精神、脳波を破壊するわ!例え精神が強靭なラガンといえど、フルパワーで当てればただじゃ済まないわよ!?」 「クッ、ナンテコッター」 「ほーっほっほっほ!恐怖なさい!次の瞬間あなたは恐怖すらも忘れて壊れるのよ!!」  カッと光線が走る。が、俺はメガネの向きから方向を予測して一歩避けていたので光線は何もないアスファルトを照らしただけだった。 「普通にかわせんのな、それ……」 「えっ!?かわしちゃったの!?どこにっ!って眩しくて前見えな……あ、頭痛いヨ、なんで?ってイタイイタイイタ……あっ」  がい〜〜〜〜〜ん、と再び情けない音が鳴り響く。  何が起きたのか解らないだろうから順を追って説明すると、どうやら光線を撃つ時、目を閉じていたらしい姫子さんは俺の台詞に驚いて目を開き、自分の出した光線の光に目をやられ、ついでに光線の効果も食らった上に足を踏み外して落ちてどうやら再び机か椅子に打ったらしい、合掌。  「ふきゅぅぅぅぅ」やら「にょぁぁぁぁ」やら更におかしくなった呻き声が塀の向こうから聞こえてくる。  もう戦う戦わない以前の問題で普通にむなしいので塀の向こうの姫子さんに声をかける。 「帰っていいかー」 「駄目に決まってるでしょ!!」  俺の言葉に再び塀の上に涙目の姫子さんが現れる。今回は初めからスカートを手で押さえしゃがんだ状態、防備は万全である。……片手は後頭部をさすっているが。   「守原君今日補習でしょ!だから、帰るのは駄目!」 「そっちの心配かよ……」  俺はため息をつく。じゃあ、補習受けに行きたいからここ通っていいかって聞いてもどうせ駄目って答えるんだろう。間違いない。そうに決まっている。もう慣れた。 「さっきは油断したけど、今度はそうはいかないわ」 「油断ってか、いや、もういい……」  どうせ言っても聞いてくれないだろう。姫子さんは俺の様子を気にすることもなく話を続ける。 「メガネの力によって強化された肉体機能、そこから繰り出される攻撃に血の薄まったあなた達ラガンにどれだけ耐えられるかしら?ちなみに、使い手である私が弱い……そんな希望に縋っても無駄よ。この百目木姫子、剣道弓道合気道長刀から茶道や華道……果てには書道ですらブラックベルトを修めているのよ!」  どれもこれも黒帯がない物ばかりな気がするが、俺は気にせず未だにのびているミコのバックを開ける。……こいつなら持ってきている筈なんだが、あ……あった。  俺が取り出したのは黒光りするプラスチックと金属の混じったT字型をした物。解りやすく言うとサブマシンガン。勿論本物ではなくいわゆる電導ガンという奴で弾はプラスチックで火薬じゃなくモーターで飛ばす。が、その威力は結構馬鹿にならない。  こいつが何しに学校に来ているのか甚だ疑問になったが、今この瞬間は便利だと思った。 「ふっ、どうやらあまりの凄さに声も出ないようね」 「いや、準備に手間取っただけだ」 「何の準備であろうと関係ない。私の力に跪き……」  目標をセンターに入れてスイッチ、いや、トリガーだけどな。秒間数発は飛び出すプラスチック弾がまだ台詞の途中であった姫子さんを襲う。断続的に悲鳴が上がるが気にせずトリガーを引き続ける。弾が切れても即座にマガジンをイジェクト、スペアマガジンを取ってリロードをし再び姫子さんに向かってトリガーを引き続ける。  足場の悪い塀の上、しかもしゃがんだ状態である姫子さんはまともな対応すらとれずにいたのだが、避けようと努力はしていたのだろう。2個目のマガジンを使い切ろうとした時に足を滑らせて…、  がい〜〜〜〜〜〜ん……  もう、何も言うまい……。  通算3度目の机との逢瀬。きっとそれは俺の想像以上に劇的だったんだろう。  呻き声の代わりにすすり泣きとしゃくりあげる声が塀越しに聞こえてくる。……なんか不憫になってきたな。 「だいじょぶか〜?」 「うっく、っく……だっ、だいじょ……ぶよっ」  いや、ぜんぜん大丈夫に聞こえないぞ? 「ずるっ……よっ。てっぽーなんてっ。っく、勝てるわけっ、なっない……じゃない!」 「あ〜、はいはい。俺が悪かった。ゴメンゴメン」  相手に勝てる要素を作ってやる謂れはないと思うんだが、勝負の世界は非情なんだ……、とか言ったら大泣きするだろうな、間違いなく……。もう、なんなんだろう、ラガンとかメガネって……。 「つっ、つかっちゃ……ダメ、だからねっ……てっ、てっぽー」 「うん、使わない。絶対使わない」  塀向こうのすすり泣きが少し収まる。しかし、姫子さんは再び塀に上る気はないらしい。 「てっぽーっ、持って……、っない、よね?」 「持ってない、持ってない……。もうぜんっぜん平気」  実はまだ持ってるのだが正直言ったら泣くので、その辺は気にしないでくれ。どっちにしろ弾切れ間近ではあるのでミコのバックの上に放り投げておく。  そんなこんなの内に姫子さんは塀の上にしゃがんでいた。いい加減に懲りろよ……とツッコミたいが姫子さんには姫子さんなりの考えがあるんだろう。むしろあってくれ、頼むから……。  姫子さんはスカートを押さえていない方の袖でごしごしと頬を拭ってから俺を指差した。 「さっきは、不覚を、取ったけど、ラガンなん、かに、負けな、いんだからね!」 「とりあえず、落ち着け。深呼吸、深呼吸な」  未だにしゃくりあげている姫子さんと一緒に深呼吸をする。  …………何やってんだろ、俺。  姫子さんの呼吸が落ち着いてきたのを見計らって問いかける。 「じゃ、ルールの確認な。いいんちょはメガネの力を使って、俺らはラガンの力だけ使って戦う。それでいいのか?」 「うん、それでいい」 「それで決定だな?文句なしな?」 「も、勿論。そっちこそ後で文句言わないでよ!」  ゆっくりと未だにのびている……っていつまでのびてんだよ……ミコにの頭をわしづかみ顔を姫子さんのほうに向ける。姫子さんはこちらの行動に興味があるのか、ただスカートが気になって動けないだけなのか、特に動くこともなく口を開く。 「……スタートの合図はいつ?」  ただ、意味もなく待っていただけらしい。やれやれとため息をついて、「任せる」と言いながら手を振る。姫子さんはちょっとだけペースを取り戻したのか散々泣いたのも忘れて爛々としはじめる。……学習能力ないのな。 「それじゃ、1・2・3でスタートね」 「あいよ」  姫子さんは未だに片手でスカートを押さえているものの、塀の上に立ち上がり戦闘体勢。かくいう俺は、ミコの顔を姫子さんに向けたままやる気なさげにしゃがんでいるだけだ。姫子さんの口が「勝った」と言う形に動く。 「1」 「2」 「「3!!!」」 「目からビーム」(ぼそっ)    一・閃・!!  俺のチョップを引き金に、ミコの目から熱閃が飛び出す。それは飛びかかろうとした姫子さんを凪ぎ飛ばし、空に浮いていた雲に大穴を開けて大空へと消えていった。  がい〜〜〜〜〜〜〜ん……  ……もう、何も言う必要ないよな。