保健室を出たあと、このまま素直に教室に戻るのもしゃくだったので屋上に上がって 購買のパンで早弁。ここは誰も来ない、誰も上がれると思ってないからな。 海から吹き上げる浜風を感じながら食べるパンは一味違うし何よりここは 日陰で風が常に吹くから教室よりも涼しい。腹が満たされウトウトとしていると 「あー!!ここにいたー!エジソンすごーい!!よくわかったねー」 「このバカの思考を読むことなんて指数関数を解くよりも簡単なことだよ。」 まどろみを切り裂く甲高い声。そういえばここはあいつらも知っていたな。 とりあえず俺には安息はないようだ。 「だめだよー。ちゃんと課外にでないと。怒られちゃうよ。科学の先生に」 「あー、科学っつったらあのメガネザル(ハゲ)だろ?あいつなら大丈夫だよ。」 「んーん。メガネハゲは主に君が原因のストレス性胃潰瘍で入院して今日から"黒髪の断罪者"蓮上悠華先生(はすかみゆうか)、通称"黒蓮"だよ」 「げ!!マジかよあの学校最強にして最凶の広域指導員って話のやつかよ。」 「うん。あんなに細身でスポーツスレンダーなのになんで最強で最凶なのかしらないけど。その人」 時計を見てみる一時を回り昼の愛憎渦巻く連ドラが始まる時刻を時計は指していた 「・・・」 「もう始まってんな。ま、いっかー、一回位なら黒蓮も見逃してくれるよ」 「んー、エジソンやっぱすごいね。」 「ふん。言っただろう?こいつの考えなんて手にとるようにわかるって」 カツーン・・・・・カツーン・・・・ この屋上に上る階段から響く硬い足音。吹き上がる風にのってきついほどに香る シャネルのエゴイスト、男用の香水なのにそいつは名前が気にいったと愛用している。 「く!・・貴様ら、俺たちのベストプレイスを売り払いやがったな!」 「だって。そうしないと私たちが悠華先生にいぢめられるんだもん」 「貴様のために僕たちが被害を受けることは御免被るからな」 「何だと!自己の利益のために俺を犠牲にするというのか貴様らーーーー!!!」 「ふふふ、大層な身分ね。遅刻マニアのくせに」 若干パーマがかかったつややかな黒髪を屋上に吹き上がる風になびかせながら 最後の一段を踏みあがり学校最強にして最凶の広域指導員がその姿を表した。 髪と対照的に不自然なほどに白くキメの細かい肌の顔、 切れ長の彼女の気丈さを表すような力強い瞳に夏の強い光を浴びて口紅の光る薄い唇 少々表情がきついが端整な顔立ちではある。 「ほほほ、あなたね・・・・私の学校の校風をないがしろにして好き勝手やってるっていう無法者は」 といいつつ両手の薬品が満たされた試験管をゆらりと見せ付けるように胸元に引き寄せる。 「ちょ!・・まて、話せばわかる!」 「問答無用!!あなたのようなうつけ者には教育的指導としての愛の鞭も必要なのよ! 私だってこんなことやりたくないのだから!」 「って恍惚な顔して何言ってるんだよ!!」 「おーほほほ!!!」 振り出した細い腕から緑と赤の試験管が放たれ虚空で交じり合う ボン!! 耳を劈くような音とともに光と風圧が辺りを満たす 「おーほほほ!!やっぱり私の作った薬は最高ね。この量でこの威力!さすがは私!!」 血走った眼をぎらつかせながら両手の試験管を日にかざしうっとりと眺める。 「ちょっと先生!何やってるんですか!死んじゃいますよ!そんなものつかったら」 「彼のような体力バカなら死なないわよ!多分」 「オイコラァ!!多分ってなんだぁ!」 「やれやれ・・・悠華先生、なにかやらかしそうだとは思ったがこんなことをしでかすとは 危ないから離れていようか。」 「うん。そうだね。死なないでねー!君に死なれたら昨日の一楽ラーメンをおごってくれるって 約束が無駄になっちゃうから」 緊張感のないセーラーの朗らかな声が開戦の矢合わせとなって 俺のベストプレイスは一瞬にして命を取り合う戦場になった。