かったるい夏課外の朝、今日も暑くなることが用意に予想できるような強い朝日 を浴びながらダラダラと学校へ向かう坂道を登っていく。    とりあえず進学校と呼ばれてる学校に入った宿命というやつらしいがぶっちゃけ 大学なんてどーでもいいと思っている俺には関係ない。が、教員に眼をつけられると それはそれでうざったいからある程度は出とかないとまずい。せっかくの夏休みだと言うのに 机にかじりついていて他のやつは楽しいのだろうか?まぁ周りの男も女もガリベンと呼ばれる 類の分厚いメガネが似合うやつらばかりだからそいつらは楽しいのかもしれない。 「おはよう。今日はちゃんと朝から学校にくるんだね。」 肩のあたりで髪を切りそろえた、小柄なセーラー服が挨拶とともに跳ねるように 視界に飛び込んできた。 「・・・はぁ・・・」 「なに?その反応?こんなにかわいい子が朝の挨拶してあげてるんだよ。うれしくないの?」 スカートのすそをヒラヒラとふり、俺の目の前でくるりと一回転してみせる。 「あのなぁ・・・・確かにセーラー服はいいと思うし俺はショートカットが好きだ それはかわいいと認めよう」 「だがなー・・・・」 「お前はおと・・・」 「それ言っちゃだめー!!!」 バキッ!! 「ぐは!」 声がつむぎ出されるより早く体格に不釣合いなほどに 大きいスポーツバッグが俺の顔面を直撃した。 「ずっと隣に住んでるのに何度言ったら覚えるのよ!もう!!」 「わーったよ!これからは気をつけるよ!だからその馬鹿でかいバッグを武器にするのはやめてくれ。」 「わかればいーのよ!まったく何度言ったらわかるんだか・・・・」 二人で教員や夏課外の愚痴を話しながら学校に向かう。 坂道を登りきる辺りで前方に制服に登山リュックという見慣れた姿が現れた。 「おーい!エジソン!!今日も元気に勉学に励んでるかー!!」 こいつはエジソン。本名は全くといって知らないがとりあえずメガネが学校一 似合う者であると俺の中では認定されている。だからエジソンだ。他の誰もそう呼ばなくても こいつはエジソンだ、それ以外は認めない。 他のやつらはガリベンで気に食わない、がこの二人は勉強には全くと言って興味がないようで それぞれの目指す道を突っ走っているので好感が持てる。 「なんだ。いつもの体力バカコンビか。朝から無駄にエネルギーを使って・・・」 「へえへえ。俺らは体力バカですよ・・・」 「でもねーこんなだるい夏課外、空元気使わないとのりきれないよねー。」 「まあ、それは認めよう。僕も同感だ」 エジソンはひとしきり二人を見回してから 「ショートカットは許そうでもその服はじょ・・・」 バキ!!! バキ! ゴキ!! エジソンがボコられてる音に混じって朝の始業を告げるベルが鳴り響いた。 まぁ。朝の光景はこんな感じだ。 うちの学校は厳格で始業ベルとともに校門は硬く閉ざされ生徒会による遅刻者確認が行われる。 この遅刻検査が厄介で一定回数を超えると補習などの処分を食らう。まぁ、校門から入ろうと しなけりゃ問題はない。と言うことで遅刻の常習者である俺はフェンスを切り取って裏道を作っている。 検査に引っかかると色々とうざったいからやむにやまれずというやつだ。 学校の裏手に回って藪をガサガサと掻き分ける。 外からの視線をさえぎるための藪はフェンスの穴を隠すのに都合がいい。 これで今日も遅刻は免れる。フェンスを潜ってまた藪を掻き分けて真っ先に飛び込んできたのは パンティ。その後足の裏。 ガス!!ガス!! 鼻を突く消毒薬の匂い、ここは保健室か。頭の中で鐘が鳴るような鈍い痛みを感じ頭を押さえる。 「眼が覚めたようね。まったく・・・・遅刻の常習者であるはずの あなたが検査に引っかからないから不思議に思っていたらあんな ところに裏道を作ってるなんて」 メガネにロングで清楚な雰囲気、いかにも頼れるおねー様 な感じのセーラー服。夏なのに長袖、これは彼女のポリシーなのか? と無関係なことを考えて頭の中をまとめつつ一言。 「やっぱお前か!俺のハンサムなこのフェイスを恐れ多くも足蹴にしたのは!!」 「あら?足蹴だけじゃ物足りなくて?もっとハンサムにしてさしあげましょうか?」 と腕章を見せ付ける。 「もう十分です・・・会長様・・・」 黄色い腕章に黒く、力強く書かれた独立風紀委員会の文字。 独立風紀委員会、教員にも縛られず。生徒会すら無視し、 教育委員会すらも権限が及ばないこの学校最高の独裁機関だ。 まぁ。機関といってもこいつ一人なんだが。 俺は何度もこいつに殴られ蹴られ踏みつけられ、罠にはめられたりと 集中攻撃をくらっている。いわゆる天敵ってやつだ。こいつがいなければ 今のハイスクールライフは10倍楽しくなることは確実だ。 「今回の懲罰として夏課外の期間中、いままでのあなたの登校記録を全て遅刻 に変えさせていただきます。さらにあなたが損壊したフェンスの修理代総額1万の弁償を命じます」 とりあえず今月のこづかいは飛んだ。 「まったく。容姿はかわいいのに性格が女王様でドSだから彼氏が出来ねーんだぞ・・・」 「あら?何か?」 「なにもございません。女王様」 「ならよろしい」 顔をさすりながらベッドから起き、保健室を後にする。 「あら?もう大丈夫なの?以外に丈夫なのね、あなた。 もう少し強く踏んでさしあげてもよかったようねぇ」 「カンベンしてくれ・・・」 手を後ろ向かってヒラヒラと振りながら保健室の戸を閉める。 「ふぅ・・・・」 「なんで素直になれないのかしらね・・・」 「ただ一言伝えるだけなのに・・・」 一人になった部屋、窓越しの蝉時雨。 消毒の匂いに混じった汗の匂いとむせるような夏の匂い。 ふと眼を向けた窓の外には入道雲が高くその背を伸ばしていた。