かきあげるということ・2。
と、言うわけで、前回の続きで、第二稿です。
書き直した方が早いと言っておきながら、第二稿は継ぎ足しです。
判断が甘いなぁ。
ともあれ、シーンは、女の2回目の「…何者だ?」の後ろあたりからです。
何故ここから書き足しているのかというと、問題点が「ラッテの設定」にあると思ったからです。
ラッテが登場して、彼女にストーリーを牽引させるだけの何かがなかった。
それが問題と思い、ラッテにバックグラウンドを持たせてみたのが、第二稿です。
それほどの長さではないので、そのまま掲載します。
第二稿
その礼拝堂への入り口に立つ少女は返す。
「ラッテ」
短く、少女は言う。
「我、剣の継承者」
翡翠色の長い髪の少女はまっすぐに女を見つめていた。額に同じ紋章を持った女を、ただまっすぐに見つめていた。
女もまた、その額の紋章を見つめて返す。口許をゆるませたまま。
「戦いに勝利をもたらす紋章を持ちし者同士、ここで雌雄を決しようということか」
「あなたは、それを望むのですか」
ラッテは静かに言う。その幼い少女の言葉は、礼拝堂の床に、壁に、天井に響き、女の耳へと届いた。女は目を細めた。幼いながらも、その声の中には、剣の継承者としての何かが、確かに隠れていたような気がした。
女は言う。
「私も、お前も、同じ剣の継承者。こうして戦場で出会ったのも、ひとつの運命。我らが、脈々と繋いできたこの剣とこの紋章にかけて、決めねばならぬ」
ゆっくりと女は両手を広げる。床にまで届こうかという長い銀色の髪が揺れ動き、巻き起こる風の中から、二振りの剣が生み出された。
女は、そのまがまがしい形をしたその剣を手にし、言う。
「さあ、剣を抜け。この戦いの結末を、未来を、今、決めようぞ」
女の声が空間に響く。銀色の髪が踊る。
剣が、陽光の中に輝く。
降り注ぐレリーフからのその陽光に目を細め、ラッテは静かに言った。翡翠色の髪は、静かに揺れていた。
「いやです」
「ならば──お前の運命は今、決まった」
女は剣を振るう。
「この剣により、この場所で──戦場を駆ける戦士たちの休息の場所へと導かれるのだ」
女の構えた剣が、冷たい光を放っていた。
ラッテはまっすぐに女を、そしてその剣を見つめながら、言う。
翡翠色の髪を静かに揺らし、その金色の瞳に女の姿を映して。
「あなたの剣は、悲しい光を放ってる」
「ならば、お前の剣はどうだと言う?」
「あなたの剣は、悲しい未来だけを映してる」
「剣とは、そういうものだ。そして我ら剣の継承者たちは、その剣をもって、未来を、そして運命を創る。お前の剣は、ならばどうだ」
構えられた女の二振りの剣が、ラッテをとらえていた。
「さあ、剣を抜け。我の剣と、お前の剣。戦いに勝利をもたらす剣は、果たしてどちらか」
ラッテの翡翠色の髪は、ただ、静かに揺れていた。
「ならば、お前の運命は──」
「私は」
女の言葉を遮り、ラッテは言う。
確かに、強く。
「私の剣で、私の道を切り開く」
ジェイルはゆっくりと身体を起こした。
少女が自分を見下ろして、微笑んでいる。
「よかった」
小さく呟く。
「単身、剣の継承者の元へ飛び込んでいった傭兵戦士というのは、あなた?」
翡翠色の髪の少女はしゃがみ込んでジェイルのことを見つめていた。よくはわからなかったが、ジェイルはこの少女が自分の命を助けてくれたということだけは理解できた。少女の口から何事かの言葉が漏れた後、身体がふっと軽くなったのを感じていた。出血も止まっている。
「──誰だ?」
短く聞くジェイル。戦場にその少女の姿は、あまりにも似つかわしくなかった。
ただひとつ──額の紋章を除いては。
「ラッテ」
少女、ラッテは笑う。そして立ち上がる。
「もう大丈夫ね」
「ああ…」
「じゃ、私、行くから」
小さな靴音が響き始める。自分の元へと近づいて来た時と同じ音。乱れることなく、ただまっすぐに目指すべき場所へと歩んで行くその足音。
翡翠色の髪が、静かに揺れている。
「──どこに行くつもりなんだ?」
その背中へと、ジェイルは聞いていた。わかりきっている。少女の額の紋章。戦いに勝利をもたらすという、継承者だけが持つその紋章。
ラッテの向かう先は、わかっていた。
「お前一人で、あの女と戦うつもりか?」
立ち上がり、ジェイルは聞いた。立ち上がってみて、初めて気づいた。ラッテという少女は、まだ、あまりにも幼かった。自分の腰に、やっと届こうかという背丈。細い手足。こんな子どもが──幼い少女、ラッテは振り向いて笑った。そして、言った。
「私もあの人も、同じ、剣の継承者だから」
ラッテの言葉に、ジェイルは咄嗟、返す。
「奴は強い。きっと、お前なんか、死ぬぞ」
翡翠色の髪を静かに揺らして、ラッテは口許を弛ませて笑った。
「あなたも、死ぬとわかっていて、ここへ来たの?」
「──覚悟は、してきた」
「じゃあ、私も覚悟はしてる」
言うラッテ。ジェイルはその彼女の表情に、ただ目を細めた。
「それが──」
そして聞いていた。
「お前の運命なのか?」
ラッテは静かに微笑んで、言った。
「私は、運命なんて信じない。継承者としての、紋章のさだめも──そして、たとえ継承者であったとしても、あなたが創る運命というものも」
「愚かな!」
女は剣を振り上げた。
「すべての運命は決まっている!」
女が踏み出す。振り上げた剣をラッテにめがけ、矢のような速さで肉薄し、振り下ろす。
「継承者、ラッテ──これがお前の運命だ!」
そして、剣戟の音が激しく響いた。
激しく打ち鳴らされた金属の音が、礼拝堂の床に、壁に、天井に吸い込まれて減衰していく。
続いて、砕かれた刀身が石の床を打つ音が響いた。
折れた剣。その向こう、鳶色の瞳。
「お前の決めた運命には、従えない」
ジェイル・バーストンは言う。
「俺は、誰かの決めた運命なんか、認めない」
寒い
もう、どこに行っちゃうんだこのストーリーって感じ。しかもここで文字数は6031字。
増えてます。っていうか、減ってない!
ラッテにキャラクターをつけたら、今度はジェイルが死んだという、どうしようもない展開。
4000字って少ないなー。
でも、ここで『運命と宿命』という2つのテーマが具体的に書かれています。
剣のもたらす運命と、その剣を持つ、継承者の宿命。ちなみに、宿命は「サダメ」と読んでくれると、個人的にはありがとうございますです。
ルビを振っていないのは、単純に面倒くさいから。
あと、ラッテの性格が、結構大人です。
これは半分意図で、半分は話の流れ的に。
ラッテはどう考えても、子ども系キャラで、ぷになキャラ付けが多くなるんだろうなぁと考えたため、些細な抵抗です。でもそういうことをするから、ストーリーはどんどん破綻して行くんですけどね。
さて、ともあれ、これはダメです。
そもそも、もう文字数があっていません。どう考えても、このスケール内でやるには、大きすぎるのです。
それに、ジェイルのキャラクターとラッテのキャラクターも立っていません。
ストーリーを追うこと(ここでは終わらせること)に着目しすぎていて、他の全てがおざなりになっています。おざなりになっているせいで、ストーリーが終わりません。スパイラルです。
おはなし作りをしていれば、きっと貴方もこのような状況に陥る事でしょう。
そして、貴方は「こんなはずじゃなかったのに」と考えるでしょう。
もっと書けるはずだ。
もっと美しく作れるはずだ。
もっと生きたキャラクターを生み出せるはずだ。
もっと、イメージ通りのストーリーが組めるはずだ。
と。
ここで、貴方の取れる選択肢は、たった2つだけです。
その2つ以外は、ありません。
ひとつは、やめること。
それは最も簡単な事で、場合によっては、もっとも建設的な事です。
そしてもうひとつは、それでも続けること。
その選択はもっとも過酷で、場合によっては、貴方を苦しめるでしょう。
しかし、そのふたつの、どちらかだけです。
7月5日の日誌
さて、7月5日の日誌に、僕のこんな話が載ります。
2001/07/05
乾いた。
僕の創作の泉は、乾いた。もうダメ。全然、頭に浮かんでこない。2時間考えても、3時間考えても、何にも出てこない。
乾ききってしまったのか。
マジで、もぅ、ダメかも。
いや、小手先だけのストーリーとか、ありきたりなストーリーなんかは、簡単。
だけど、誰もをあっと言わせるようなストーリーが、展開が、出てこない。
乾いた。枯れた。
くすん。
なんでだろう。
悩みまくり。
ひねくりだそうとしても、どこかで聞いたような、どこかにあるような事しか出てこない。
いや、それでもいいじゃんって話はあるんだけど、それじゃ、僕がね、嫌なのですよ。なんか、負けた気分になる。
今も考え中。
そして締め切りはもうあと数時間。
どうする、俺!?
…逃げまするか。
もっと書けるはずだ。
もっと美しく作れるはずだ。
もっと生きたキャラクターを生み出せるはずだ。
もっと、イメージ通りのストーリーが組めるはずだ。
筆が止まったとき、読み返していたとき、締め切りの間際になったとき、きっと思うでしょう。
僕と、同じように思うでしょう。
もしも貴方がはじめておはなしを作るのであれば、立ち止まったとき、そう、思うでしょう。
きっと、思わない人はいません。
ここで、貴方の取れる選択肢は、たった2つだけです。
すでに書きましたが、その2つ以外は、ありません。
ひとつは、やめること。
それは最も簡単な事で、場合によっては、もっとも建設的な事です。
そしてもうひとつは、それでも続けること。
その選択はもっとも過酷で、場合によっては、貴方を苦しめるでしょう。
しかし、そのふたつの、どちらかだけです。
僕は、出来ると思っていました。
まぁ、たかだか4000字程度です。
書き直すなら書き直すで、頭から書き直した方が早いことは、過去の経験から知っています。
ちなみに余談ですが、4000字程度というと、僕らの間では、だいたい5ページと表現されます。
これは過去のお話の原稿から脈々と受け継がれてきた伝統で、1ページを40字19行で考えるという、へなちょこな換算によるものなのです。何故こんなサイズって話もありますが、当時B5サイズの本に作り直そうとした時、このサイズがベターマッチングだったので、そのサイズが定着したのです。まぁ、そんなわけで、所詮5ページ。
これくらいだったら書いたものをまとめるとか、削るとかするより、頭から書き直した方が早いんです。
だから、書き直しましょ、と考えました。
この第二稿を作って、「あ、無理だな」という判断を下したのが、7月4日の出来事だったからです。
ちなみにお忘れの方のために言っておくと、締め切りは7月6日午後23時59分までです。
つまり、あと2日。
まぁ、とはいえ、R‐0の連載なんて、だいたい土日にあれだけの分量を書いていたわけですから、たいしたことはないと、たかをくくっていました。
書き殴ればなんとかなる。
第三稿
「もう行かなくちゃ」
少女は青い草原の上に立ち上がり、言った。
優しく吹く風に、少女の翡翠色の髪が踊っていた。
「いこっ、ジェイル」
「──ああ」
ジェイルは短く返す。草原の上に座り込んだまま、はるか地平線の向こうにまで広がる青い空を背に、屈託なく笑う少女──ラッテの姿に。
その少女の姿がまぶしくて、ジェイルは目を細めて聞いていた。
答えは、わかっていたはずなのに。
「それで、どこに?」
尋ねるジェイルがおかくして、ラッテは屈託なく笑いながら返した。
「それが私たちの、サダメだからね」
規則正しい靴音が、戦場を埋め尽くす剣戟の音の合間をぬって聞こえてくる。
女は、ゆっくりと目を開けた。
砦の中に作られた小さな神殿の礼拝堂。
しんとしたその部屋へと届く靴音に、女は祈りの手をほどき、戦いの神を描いたステンドグラスを見上げながらに立ち上がった。
外では、千を超える兵士たちが激しい戦いを繰り広げている事だろう。
足音が立ち止まる。
「…待っていたぞ」
女は、ゆっくりと振り向いた。
そして──少女は返す。
「我は剣の継承者」
翡翠色の髪を揺らす少女の、真摯な声が響く。
「ラッテ」
少女の小さな背丈には不釣り合いなほどに大きな剣が、ちゃり、と彼女の手の中で小さく鳴った。
第三稿です。
誰がなんと言おうと、これが第三稿です。
これ以上も、これ以下もありません。
ですが、これを書くのに、僕は3時間以上かかりました。最も、その3時間のうち、考えている時間が2時間以上で、電話越しに意見の交換をしていた時間が残りの半分以上ではあったのですが。
いわゆる、書けないという奴です。
何故か?
その理由はわかっています。多分、ここまで読み進めた方もわかっていると思います。
単純です。
自分にかした足かせのせいで、全く書けない状況になっていたワケです。
この連載の初めの方で書きました。
『壮大なストーリー、今までにないキャラクターと、その展開!』
結構です。それが書けるんでしたら、こんなモン読む必要はないです。
そして、僕は自分でそんなことを言っておきながら、そんなことを棚に上げて、思うのです。
だいたい、1、2日で思い浮かんだことは書かないなんて決めたから出来ないんだ。1、2日で思い浮かんだもの以外のストーリーなんか、はっきり言ってあるもんかい。これが自分の完全なオリジナルなら、キャラクタの相関なんかも自由に演出できるし、文字数も4000字なんて短くしなくてすむのに。
そうすれば、しっかり書けるだろうに。
書けない。
無理ですよ。無理。
4000字なんていう短さで、ありきたりでないストーリーなんか、作れるわけがない。
ないのです。
だからパス。
僕には書けない。今回は、パス。
そして、7月5日の日誌に繋がるのです。(日誌は、その日の23時から25時くらいにアップデートされるので)
さて、耳にたこができるでしょうけれど、もう一度、これが最後です。
ここで、貴方の取れる選択肢は、たった2つだけです。
ひとつは、やめること。
そしてもうひとつは、それでも続けること。
しかし、そのふたつの、どちらかだけです。
おやすみなさい
諦めたら、そこで試合終了なんだと、安西先生に言われます。
でもね、無理です。
人間、そんなに強くねーし、僕にだって、出来ることと出来ないことはある。
はっきり言って、僕はちょっと、普通の人より書けると思ってますよ。おもしろいものを作れると思ってますよ。実際はどうかしりゃしませんし、そんなモンは読んでくれた人が決めることなんで、どうでもいいことなんですが、10年以上もこうしてお話を書いているわけで、一朝一夕の人には負けない、というか負けたくないんですよ。
今回のこのストーリーだって、先に書いたテーマのことだとか、足かせのことだとか、つまるところは、他人との差別化です。多くの人とは、違う。違くありたい。そういう気持ちの表れなわけです。
でもですな。
出来なければ、全部意味がないんですよ。
物書きはですね、書き上げなけりゃ、書き上げることができなけりゃ、クソなんですよ。この連載でも、何度も書いてますけど、どんなに偉そうなことを言ったって、評論家気取ったって、他人をけなしたって、ひとつの作品も作り上げられないようなヤツは、クソなんですよ。
ってことは、僕はクソですね。
偉そうなことを言ったって、考えたって、足かせだとか、テーマだとか差別化だとか言ったって、書き上げられなかった僕は、クソですね。
すでに幾人もの人たちが投稿していて、その作品が掲載されている以上、僕がどんなに何を言おうとも、クソですね。負け犬の遠吠え。
その言葉には力がない。
その言葉には真実がない。
許される唯一の事は、永遠に口をつぐむこと。
ただそれだけ。
でも、それは負けだ。
でも、もう無理。
現在時刻は7月6日、午前2時。
書かれているのは、この第三稿まで。
その先のストーリーは、なし。頭の中にあるのは、1、2日で考えたストーリー。書きたい。書き上げたい。だけど、それ以外のストーリーが思い浮かばない。
書きたいけれど、でも、それは書きたくない。負け。
このままでも負け。このまま書いても、負け。
ノートPCの前で、ずっとキーボードに手を乗せて、うんうんうなって考えて。
でもあきらめて、おやすみなさい。
当時、社会人だった僕は、次の日のも打ち合わせがありましたし、仕事がありました。
遅刻するわけにはいかないし、休むわけにもいかない。
でも…
そんな葛藤があって、その日は眠れませんでした。
心は、もうあきらめていましたよ。本当はね。
誰が困るわけでもないし、書き上げられなかったからと言って、誰が僕を責めようか。
ただ、それだけ。
だけど、電気を消して布団に入っても、眠れない。もしかしたら、もしかしたら書けるんじゃないか。いや、書かなくちゃ。じゃないと…
実際はキーボードに向かっても、指は動きはしません。
寝よう。
でも眠れない。
僕の実力って、こんなモンなのかなぁとか。
もう、10年以上も物書きをしていても、実際はこんなもんなのかなぁ。なんだかんだと偉そうなことを言っておきながらも、たった4000字程度の作品が作れないんかなぁ。
7月6日は締め切り。
いくつかのアップされている作品を見て、その、書き上げられる人たちを相手に、差別化だとかテーマだとか、偉そうなことを言ったりして、でも自分が出来てなくて。
なんかもう、すごく自分が情けなくって。
泣きそうになりました。
結局、その日は電気を付けたまま、枕元にノートPCをおいて、動かしたままにして寝ました。キーボードの上に手を置いてね。でないと、寝られなかったのです。
阿呆ですな。
誰が困るわけでもないし、書き上げられなかったからと言って、それ以上に何があるでしょうか。
ただ、それだけの事でしか、ないのです。
だけれど「かきあげるということ」は、そう言うことなのです。
「書き上げるために必要な何か」と言うものがあるとすれば、それはそこにあるのでしょう。
0 から 4207
正直なところ、「書き上げるために必要な何か」が何かはわかりません。
なぜなら、『Fate or Fortune』が何故完成したのか、自分自身でもよくわからないからです。
朝、目が覚めて、その瞬間、ぴきーんと何かが繋がったんですよ。ぴきーん。と。
昨日までは出来なかったことが、何かがはじけて出来るようになる。
そういうことって、結構あると思うのですけれど、まさにそれでした。会社に行く電車の中で、うーむと考えて、もやもやとしていたものが、なんとなく、確信に変わっていく。
あ、書ける。
その時、締め切り15時間前。
あとはもう、書くだけです。書くだけ。きっと書ける。今なら書ける。
会社が終わって、2時間かけておうちに帰ってからね。
ちなみに定時が6時なので、即逃げっても、家に着くのはだいたい8時過ぎ。
電車の中ではひたすらに手帳に話の流れを書いて、さあ!
食事もせずにキーボードの前へ。
あとはもう、書くだけです。
締め切り、3時間半前。
あがるか落とすか!
出来なければ、それだけです。
出来ればそれは…
何も手に入れていないのならば、何も失うことはないのです。
手に入れられるか、そのままか。
それならば。
鬼のような集中力で、書きました。0字から、4207字。
そうなのです。
その物語が完成したのは、締め切り30分前でした。
Fate or Fortune
その完成稿を、ざざざっと見直して、入稿です。
入稿も、いそげやいそげっ。って感じだったんですが、あとがきの入力フォームなんかがあって、「マジ!? 時間ないのにっ!!」
なんてのはまぁ、ご愛敬。
ここまで来れば、些細な問題です。
ちなみに言うと、僕より遅くに入稿した人も、2人いたようですが、僕はそこまでのチキンレースはできません。
さて。
こうして完成した『Fate or Fortune』
先に、「何故書けたのかわからない」という話をちろっとしましたが、今考えてみると、その理由というのも、なんとなく、わかるのです。
もっとも、それはある人からいただいた感想を読んでいて、気づいたんですけどね。
僕の書いたこの物語、『Fate or Fortune』に書かれている、運命と宿命。そして抽象物としての剣は、つまり、そのときの僕を書いていたのでしょう。
そのときは全然気づいていませんでしたけれど、朝、目が覚めて、「このストーリーなら書ける!」と思ったストーリー。
つまりそれって、きっと僕が昔から言っている、「自分が経験した事があることでなければ、物語に出来ない」ってことだったのではないかなぁと思うのです。
いや、そんなのは、読んでくれた人がそれぞれに感じてくだされはいいだけの話なんですけどね。
でも、あえて完成稿の物語に入る前に、ちょっと書かせてもらうとするならば。
宿命か、運命か。
『剣士』、ジェイル・バーストン。
その彼の持つ、『剣』
その意味。
物語の中、ジェイルの剣が折れるシーンがあります。
女は言います。「お前には出来なかった!」
「大いなる宿命を前にいくらあがこうとも、運命を変えることなど、人には出来ぬのだ!」
しかし、ジェイルはそれでも『剣』を手にして、言うのです。
「俺は宿命が導く運命なんて、俺の剣で変えてみせる」
ま。
これ以上書くとクサイ話になってしまうので、こんなモンで。
「かきあげるということ」は、最も難しい事です。
なぜならば、そのゴールはひとつしかなくて、あとの選択肢は諦めるしかないからです。
しかしそれは誰しもがきっと体験してきた事で、口には出さないけれど、当たり前の事なのかも知れません。
そしてそれを乗り越えた者こそが「書き上げるために必要な何か」を、手に入れることが出来るのかも知れません。
書き上げると言うことは、それを手に入れるための、ただひとつの行為なのかも知れません。
さて、なんだかとっちらかって、訳のわからない2回でしたが、最後にそうして生まれた一作、Fate or Fortuneを紹介して、終わりましょう。